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あれで付き合ってないの? ~ 幼馴染以上恋人未満 ~  作者: 一ノ瀬麻紀
あれで付き合ってないの?(本編)
7/60

07 崩れた日常と新しい友達

 時は流れ、おれ達は高校三年生になった。

 一年生のクラス分けは、オメガとベータが同じで、アルファだけが別だったが、二年生からはそれぞれの二次性にクラスが分けられていた。


 クラスは違っても朝の光景は変わらずで、おれは蒼人(あおと)の膝の上に座りその隣には太陽(たいよう)がいて、談笑する日々。そんな穏やかな時間が好きだった。

 はじめは気にしてチラチラとこちらを見ていたクラスメイト達も慣れたのか、朝の教室の一コマとしてすっかり馴染んでいた。




「しばらく、休学することになった」


 このまま変わらぬ日々が続くと思っていた、そんなある日のこと。着席してすぐ神妙な面持ちで蒼人が口を開いた。

 普段はおれと太陽の会話を側で微笑みながら(いや、周りから見るとほとんど表情の変化はないみたいだけど)聞いているのに、今日は話があるから早く登校したいと言われた。教室にはまだ誰もいないような時間だった。


「え? どういうこと?」


 想定していなかった言葉に、おれは思わず聞き返した。

 高校三年生と言ったら、大事な時期じゃないか。そんな時に休学するって、おかしくないか? しかも急にだ。


「事情があって理由は言えない。けど必ず戻ってくるから、待っていてほしい」


 蒼人の表情は見えないけど、おれの腰を支える腕に、きゅっと力が入ったように感じた。

 兄弟同然のおれでも相談出来ないことなのか。……それとも、相談するに値しなかっただけか。


 いや、そんなわけないよな……。


 心によぎった嫌な考えを打ち消すように軽く首を振ると、努めて明るい声をかけた。


「海外に留学するとか? うーん、でもそれを隠す意味分かんないしなぁ。……なあ、おれにも言えないこと?」

「……ごめん」


 耳元で聞こえるその声は、心なしか少し震えているような気がした。先程よぎった嫌な思考が本当かもしれないと思ったら、それ以上何も聞けなくなって、そのまま口を噤んでしまった。


 お互いに何も言葉を発することもなく、かといって立ち上がってその場を離れることも出来ずにいた。おれ達の間に、こんな異様な空気が流れたのは初めてだった。




 蒼人が学校に来なくなったのは、話を聞いてからまだ三日しか経っていない、今にも雨が降り出しそうなどんよりとした曇り空の日だった。


 前日の学校の帰り道、前触れもなく『明日から休む』とだけ告げられた。蒼人の淡々とした口調に『……そっか』と、そっけない短い返事しか出来なくて、それ以上の会話が続くことはなかった。

 次の日から休学してしまうなら、せめて普段と変わらず他愛もない話で笑い合いたかったのに、何も出来ずに、気まずい雰囲気のまま蒼人は休学した。



 平穏な日常が崩れた日。おれは一人自分の席に座っていた。いつも背中に感じていた温もりが、今はない。産まれた時から当たり前のように側にいた存在がいなくて、胸がチクリと痛む。冷たい椅子の感覚がその痛みを増幅させているようだった。


 兄弟同然に思っているのだから、離れたら寂しくなるのは普通だろう?


 誰に言われたわけでもないのに、心の中に言い訳じみた言葉が浮かんできて、理由もわからずひとり首を傾げた。


 二人きりだった世界に太陽が加わり、今度は三人で過ごすようになっても、おれ達の関係は大きく変わることはなかった。

 太陽と仲良くなったことがきっかけで、前より話せる人は増えたけど、あくまでもクラスメイトとして接する友達だ。特に仲良くしてきた友達はいない。

 だから蒼人が学校へ来なくなってから、しばらくは太陽と二人きりで過ごしていた。




由比(ゆい)くん、ちょっと良いかな?」


 最近は太陽と登校したあと、太陽は委員会の仕事があるからと別れ、おれは自分の教室で一人窓の外をボーッと眺めていることが多かった。本当におれって友達いないんだなーって改めて実感する。


 そんなぼっちのおれに、控えめな声がかけられた。

 声のする方へと顔を向けると、そこに立っていたのは、小柄でゆるふわカールの可愛らしい人だった。儚げで守ってあげたいという庇護欲が湧き出るような、いかにもオメガという感じの人物だ。

 

「ん? なに?」


 名前なんだったかな……と、頭の中で意識を張り巡らせた。話したことがないとはいえ、オメガクラスは人数が少ないから、顔と名前くらいは──。


「いきなりごめんなさい。僕、飯田月歌(いいだるか)です。お話するの、初めてだよね」


 おれが無言で考え込んでいる間に、先に自己紹介をしてくれた。ああそうだった、飯田くんだ。


「ずっとお話してみたいと思ってたんだけど、近くに森島(もりじま)くんがいて話し掛けづらかったんだ。……あ、この事、森島くんには内緒ね」


 えへへ……と、人差し指を口元に持っていってニコッとウインクをした。

 オメガにとって、アルファは近寄り辛い存在だ。今は差別的な態度は減ったとはいえ、未だにオメガを下に見るものは多いし、アルファが社会のトップに君臨していることには変わりがない。だから自然とオメガはオメガ同士でつるむことが多くなっていた。

 

「森島くんがお休みして、由比くんが一人でいることが多くて気になっていたんだ。同じオメガだし、仲良くなれたら嬉しいなと思って……」


 上目遣いで少し遠慮がちに言ってきた飯田くんを見て、可愛いオメガの上目遣いって、同性にも効果があるんだなぁ……なんて、見当違いなことを考えていた。

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