05 メッセージ
凛太郎とホームセンターに出かける約束をして、連絡先を交換したのが昼休憩の時。
午後来院する患者さんは思ったほど多くはなく、ゆったりとした時間が流れていた。
そして16:00になり、学生の凛太郎は先にクリニックを出た。今日も大学で課題とかレポートのまとめをすると言っていた。
オレが18:30過ぎに片付けを終えてクリニックを出ると、ちょうど凛太郎からメッセージが届いた。
こんなにもぴったりな時間って、どこかで見ているだろ……。
そう思って、オレはクリニックを出た後、辺りをキョロキョロと見回した。
どこかでガサっと音がした気がするけど、気のせいか……?
……まさか、な。
「さすがに、出待ちみたいなことはしないか」
まわりを確認しても凛太郎の姿は見えず、オレは自分の考えに思わず苦笑した。
そうだよな。どこのストーカーだよ、って話だな。ちょっと距離感おかしいやつだけど、疑うようなことをして悪かったな。
オレは、再びスマホ画面に視線を落とし、メッセージをもう一度読んだ。
嬉しそうに文字を打ち込む凛太郎の顔が浮かんできて、オレの口元は自然とほころんでいた。
家に帰る間にも、何度かメッセージが届いた。
『暗いから気をつけてくださいね』
『僕、迎えに行きましょうか?』
『危ないから、人通りの多いところを帰ってきてくださいね』
メッセージアプリに次々と表示されるのは、オレの心配ばかりだ。
オレは大の大人だし、初めて通る道でもなんでもない。
だから、『そんな心配しなくても大丈夫だ』と、一言返事をすればメッセージも止まるだろう。
けど、なぜか止めることはできなくて、信号待ちでメッセージを見るたびに、顔がゆるんでいく。
「オレはお前の彼女かよ」
画面に並ぶ止まないメッセージに、オレはフッと笑いながら、思わずツッコミを入れた。
オレは男だから彼女じゃないけど、不思議と悪い気はしなかった。
家に帰ってからも、ちょこちょこメッセージが入ってきた。
「いや凛太郎、お前もやることあるだろ?」ってツッコミを入れながら、オレも時々返事を返していく。
凛太郎からのメッセージと、オレからの返事の比率が変なことになってるけど。
夕飯作って食べて片付けて、明日の朝食の準備もして、洗濯物も――こういう時は、一人暮らしの大変さを身に染みて感じる。
一緒に住む相手がいたら、大変な作業も2人で分担したり、他愛もない話をしたりしながら一緒にやれるのだろうか。
大学から一人暮らしをしているから、時々人恋しくなる時もある。
オレは風呂まですべて済ませると、ベッドにごろんと横たわった。
〜♫
そんな時、オレのスマホから着信音が流れてきた。
手に取り画面を見ると、想像した通りの名前が表示されていた。
「もしもし?」
『太陽さん! 今電話しても大丈夫ですか?』
「ああ、大丈夫だよ」
『すみません、電話までしちゃって。……寝る前に、太陽さんの声が聞きたかったんです』
さっきメッセージで、オレが後は寝るだけの状態で、ベッドでくつろいでいるというやりとりをしたばかりだ。だから、確認しなくてもわかっているはずなのに、やっぱり凛太郎は律儀だなって思う。
「課題とかレポートとか、大丈夫なのか?」
『はい、バッチリです! 太陽さん、僕のこと心配してくれるんですね!』
「明日、実習時間外なのに連れ出しちゃうからさ、学業が疎かになってたら困ると思って」
『その辺は大丈夫です! 僕、こう見えて結構できるやつなんですよ。……なんて、一度言ってみたかったんです。実際は必死ですよ』
スマホの向こうからは、ちょっと照れたような笑い声が聞こえてきた。
必死ですよなんて、オレに気を使わせないために、わざとそう言ったんだろうな。
凛太郎は実際優秀だし、計画性もちゃんとある。しっかりと余裕を持ってやっているんだと思う。
それに本当なら、オレの前ではカッコつけたいはずだ。それなのに、自らこうやっておどけてみせる。ほんと、気遣いのできるやつだよなぁ……。
そんなことを思いながら、電話の向こうにいる『オレのことを好き』と言ったやつに、ふと聞いてみたくなった。
「なぁ、凛太郎」
『はい、なんですか?』
「実習に来た日にさ、オレに言ったこと覚えてるか?」
オレの唐突な問いかけに、凛太郎なら即座に返事が返ってくるかと思ったら、意外にも少しの沈黙が流れた。
電話の向こうの凛太郎の表情は見えないはずなのに、オレから少し視線を外し、言葉を発するのを躊躇っている姿が目に浮かんできた。
『もちろん、覚えています。……忘れてくださいとは言いませんけど、いきなりだったのは、ホントすみません』
耳元で、控えめな凛太郎の声が聞こえてきた。
もっと押せ押せで食い気味に話してくるかと思ったから、ちょっと拍子抜けしてしまったかもしれない。
オレとしても、ずっと心の中に燻っていた疑問を、あれ以来初めて口にしようとしているんだ。
……でも、きっと凛太郎は、一生懸命に自分を押さえているんだろう。
オレは、あれ以来ずっと聞けずにいた言葉を、スマホの向こうに向かって伝えることにした。
本当なら、直接会った時に聞けばいい。それが無理なら、テレビ通話にして顔を見て話したっていい。
でもオレは、まだ自分の気持ちの整理ができていないから、ごめんな、今は声だけで――。
「あの時凛太郎がオレに言った言葉、あの意味をずっと考えていたんだ。……だから、今、オレに教えてくれないか?」




