友達の家で 1
月歌は麻琴の家に招かれ、お菓子を食べながらテレビを見ていた。
本当ならば、月歌の夫の星司、麻琴の夫の蒼人と、学生時代からの友人ベータの5人で紅葉を見て温泉に入って……と、旅行の計画を立てていた。
学生時代に叶わなかった旅行のリベンジの意味も込めていたのだけど、何故か夫二人とベータの友人がことごとく急用が入ってしまった。それが仕事だというのだから仕方がない。
はじめは月歌の子どもたちも連れていくつもりだったけど、月歌の義両親が子どもたちを預かってくれることになった。けど、旅行がキャンセルになったと伝えたら、せっかくだから、友達と二人出かけてきたら? と言われたので、出かけることも考えたが、結局は麻琴の家でのんびりすることにした。
「育児に追われてるとひとりの時間が欲しいーなんて思うのに、いざ自由になるとなんか落ち着かないなぁ」
「月歌くんは若いときから二人も育てて、大変だよ。凄いよ。だからせっかくもらった自由時間、ゆっくりしよう」
月歌の長男の雪夜は、今年春から幼稚園入園したばかりで、娘の四葉はもうすぐ1歳になる。義両親と義父と同居しているから助けられる部分は多くても、やはり育児は大変なんだと思う。
「そうだね。ありがとう」
「あ! そうだ! 今日月歌くんが来るって言うから、二人で乾杯しようと思ってお酒買ってきちゃった!」
「え? お酒?」
「こういうときじゃないとなかなか飲めないだろ~? いいじゃんいいじゃん!」
麻琴はニコニコしながら数種類のアルコール飲料と、あらかじめ(蒼人が)準備しておいたおつまみセットを持ってきた。
「蒼人が作ってくれたんだよ。これ美味しいんだよ!」
「蒼人くんが? うん、やっぱりそうだよね。すごいね、美味しそうだよ」
月歌は一瞬麻琴が用意したのかと思ったけど、すぐさま脳内で否定した。そしたらやはり蒼人が準備してくれたのだと言う。月歌は、麻琴の料理の腕前が壊滅的なのを知っているから、目の前に出された完璧すぎるつまみ達を見て、納得の声をあげた。
二人で美味しいつまみとお酒を飲みながら、のんびりとした時間を過ごしていたら、麻琴が突然月歌の肩をガシッと組んできた。
「ねぇ、なんであの時さー。蒼人と会ってたんだよー?」
「麻琴くん……?」
突然絡み始めたのを不思議に思って、月歌は麻琴の方を見た。麻琴はあまり強くないからと言って、低アルコール飲料を飲んでいたはずなのに、麻琴が手にしているのは、「ストロング」と書かれた缶酎ハイだった。
「麻琴くん! それ強いやつじゃないの? 飲んで大丈夫なの?」
月歌は慌てて麻琴の手から缶酎ハイを取り上げようとしたのに、巧みにかわされてしまう。そしてその姿勢のままで、麻琴は言葉を続けた。
「蒼人がおれ以外のやつに、あんな笑顔滅多に見せることないから、おれびっくりしちゃってさー」
月歌は麻琴がいつのことを言っているのかはすぐわかった。
高校生の頃、街中で蒼人と偶然会った月歌は嬉しくなって「僕、麻琴くんの友達なんです」と話しかけたことがあった。あの日のことを言っているのだろう。
普段は麻琴の前以外では、あの有名なキツネのようにスンとした顔をしているのに、あの日は月歌に向かって笑顔を見せていた。
どうやらその場面をたまたま麻琴が見ていたらしく、そのことがずっと心に引っかかっていたらしい。
「月歌はー、おれの友達だからー、蒼人とも友達になってるのかもって思ったけどさー、でもなんでだろーってー、ずっと気になっててー」
いつもより声のボリュームが上がり、なんとなく気の抜けた話し方の麻琴は、すっかり酔いが回っているようだった。
しかも、気付かぬうちに、『月歌』と呼び捨てになっている。親密になったようで月歌はキュンっと心が高鳴った。いつか、呼び捨てで名前を呼びあえるようになったら嬉しいのにと思った。
「僕が話しかけたら蒼人くんはすごくいい笑顔で、麻琴くんのことを話してくれて。この人は普段クールだと言われているけど、好きな人のことは、こんなに優しい表情になるんだって思ったんだ」
「蒼人がおれの事好きだってー? そんなのあたりまえじゃないかー」
麻琴はそう言って嬉しそうに大きく笑うと、そのままパタンと寝てしまった。
「ま、麻琴くん? だめだよ、そんなところで寝ちゃったら!」
月歌が慌てて麻琴の側に行くと、ニマニマと嬉しそうに笑みを浮かべながら、小さく寝息を立て始めた。体を揺すっても一向に起きる気配がない。完全に寝てしまったようだ。




