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あれで付き合ってないの? ~ 幼馴染以上恋人未満 ~  作者: 一ノ瀬麻紀
星司と月歌(スピンオフ)

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43/81

プロローグ

以下本編のネタバレも含まれます。ご注意ください



『星司と月歌』は、『あれで付き合ってないの? ~ 幼馴染以上恋人未満 ~』のスピンオフ作品となります。

スピンオフとは言っていますが、本編後の番外編の一つと考えていただければと思います。

なので、本編のネタバレも盛大にしていますし、このスピンオフ単体で読んでもおそらく意味がわかりません。不親切仕様ですみません。


本編で色々と大変だった二人(事件を引き起こした側ですが)の救済の物語となっています。大きな事件も起きず、ただ穏やかに時が流れていきます。

それでも良いよーという方は、読んでいただけると大変嬉しいです。

「おめでとうございます」

「……?」


 病院の一室で医師から告げられた言葉を、瞬時に理解することはできず、無表情のままゆっくりと首を傾げた。

 そんな僕の様子を見て、先生はふわりと優しく微笑むと、再び口を開いた。


佐久月歌(さくるか)さん、妊娠されていますよ。あなたのお腹の中には、新しい命が宿っています」


 やさしく伝えられた言葉を、僕はゆっくりと噛み砕いた。


 新しい……命……。


「ほんと……に?」


 まだ信じられなくて、口から漏れた言葉に、先生はもう一度ニッコリと笑って、大きく頷いた。


「僕たちの……赤ちゃん……」


 まだなんの変化もないペタンとしたお腹をそっと撫でてみる。

 まだこの世に誕生したばかりの命はあまりにも小さすぎて、外から触れたくらいではなんの反応もないけれど、じわりと温かくなった気がした。


「これからの話もあるので、隣の部屋に移動しましょう」


 看護師さんは僕の肩に優しく手を置くと、立ち上がるように促した。


 早く、星司(せいじ)くんに伝えたいな。


 僕は胸元のペンダントをぎゅっと握りしめた。


 本当なら、今日いっしょに来るはずだった僕の旦那様は、どうしても外せない急な仕事が入ってしまった。

 一人で大丈夫かと何度も聞かれたけど、お守りを持っているから大丈夫と伝えた。


 僕のお守りは、今手の中にある、ペンダントだ。中には星司くんと二人で撮った写真が入っている。

 いつも星司くんが守ってくれるような気がして、肌身離さず大切に持っているんだ。


「月歌!」


 廊下に出たところで、向こうから僕の旦那様が、息を切らして走ってきた。


「星司くん……。お仕事は?」

「だい、じょうぶだ。……あとは、任せて来た」


 僕の前まで来た星司くんは、ゼエゼエと荒く息をしながら、僕の問いかけに答えた。

 星司くんが仕事を途中で放り投げるなんてことは、絶対にない。だから、本当に大丈夫な状態にしてから、急いできてくれたんだと思う。


「それ、で……結果は……っ」


 息を整えながら、今一番聞きたいだろう言葉を口にした。

 普段は冷静沈着な星司くんが、ちょっと焦ってるのが珍しくて、僕はふふふっと笑みを漏らした。


「家族が、増えるって」


 ペタンとしたお腹を優しく撫でながら告げると、星司くんの顔がぱっと明るくなった。


「ほんとかっ?!」

「うん。……僕たちの赤ちゃんが、ここにやってきてくれたんだ……」


 こうやって星司くんに伝えられたことで、じわりじわりと実感が湧いてきた。

 星司くんは、感極まった様子でその先の言葉を言えずにいたけど、黙ったままで僕のお腹をそっと撫でてくれた。

 そして僕とお腹の中の赤ちゃんをふわりと優しく包み込むと、「ありがとう」と、声を震わせて言った。



 病院からの帰り道、僕たちは幸せいっぱいの中、色々な話をした。

 性別はどっちだろう? いやどっちでも元気で生まれてくれたらそれだけでいい。

 名前は何にしよう。男の子でも女の子でも良いように、両方の名前を考えなきゃね。

 使ってない部屋があるから、あそこを子供部屋にしよう。でもしばらくは、親子三人で川の字になって寝たいな。


「年頃になって、お父さん近寄らないでって言われたら……」


 運転中だったし、僕が楽しそうに話をするのを、ずっとニコニコして聞いていた星司くんが、唐突に言葉を発した。


「え?」

「だって、よく言うだろ。思春期の女の子は、父親を避けるって」


 前を向いたままの星司くんの横顔を見ると、眉と口元を困ったように歪ませていた。


「ふふふ。まだ女の子と決まったわけじゃないし、女の子だったとしても、僕たちの愛情をたくさん受けて育つ子なら、大丈夫だよ」

「そうかな」

「うん、大丈夫」


 僕は、まだ不安そうな星司くんには申し訳ないけど、今の星司くんのほうが人間らしくて好きだなと思って、クスクスと笑ってしまった。


 こんな幸せな時間を過ごせるのも、僕の唯一の友達、由比麻琴(ゆいまこと)くんと、その恋人の森島蒼人(もりじまあおと)くんがいたからだ。

 でも、彼らに合わせる顔なんてない。それでも、僕たちは君たちのおかげで、小さな幸せを見つけて過ごしていますって、伝えたい。

 あの時僕たちに情けをかけてくれたから、今の僕たちがある。そして、新しい命を授かることができたって報告したい。

 できることなら、ちゃんと目を合わせて謝らせて欲しい。そして、生まれた我が子を、抱っこして欲しい。

 そんな僕の願いは、きっと叶うことはないと思うのに、願わずにはいられない。


 僕たちは、由比くんたちに酷いことをしてしまった。罪には問われなかったけど、由比くんたちと接触禁止例が出されてしまった。それだけのことをしたのだから当然だ。

 だから僕たちは、由比くんたちの住む場所から遠く離れた小さな街で、ひっそりと静かに暮らしている。

 


「由比くんと森島くんに、この子のこと、伝えられたら良かったのにな……」


 ぼそっと小さく呟いた僕の言葉に、星司くんは「そうだな……」と、消え入りそうな声で応えた。

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