02 太陽との出会い
定期的におれ達に同じ質問を投げかける太陽は、中学で初めて同じクラスになった時からそうだった。
初対面で不躾に「なぁ……。お前ら、付き合ってんの?」って開口一番に言われたんだ。
おれはあの時のことを懐かしく思い出していた。
同じ産院で同じ日に産まれたおれと蒼人は、家族ぐるみで仲が良く、いつも一緒だった。
自然にお互いの部屋は行き来するし、一緒に過ごすのは当たり前、大体がどちらかの部屋に泊まるのも当たり前。
蒼人は口数が少ないけど、おれの言うことはちゃんと理解してくれるし、尊重してくれる。うちの両親は甘やかしすぎないでねって蒼人に言うけど、蒼人は『甘やかしてません、大丈夫ですよ』ってニッコリと微笑むんだ。
普段は他の人からあまり表情が変わらないねって言われるけど、おれのことを話す時は本当に嬉しそうなんだ。
こんな特別感がすごく心地よい。蒼人はおれの一番の理解者で、蒼人の事を一番わかっているのも当然おれだ。
そんな関係だから、小学校までは仲の良い友達が出来るわけでもなく、いつも二人で過ごしていた。特段困ることもないし、疑問に思うこともなかった。
そんな中、中学に上がってすぐ同じクラスになった太陽が、距離感がバグっている(本人達はそんな自覚なしだけど)おれ達の様子を見て、興味津々といった様子で近寄ってきたのが始まりだった。
同じ小学校から上がってきた人は誰も話し掛けては来なかったから、中学も今までと変わらず過ごすのかな……そう思っていた時だった。
入学式の日。初めて教室へ足を踏み入れた時も、当然のようにおれのそばには蒼人がついてきていた。
クラスは違うけど、毎朝一緒に登校して、授業が始まるまでそばにいるんだ。
「おれの席はっ……と」
机の上に置かれた座席表を見ると、ちょうど窓際の一番うしろの席。蒼人がその席へ向かうと先に座り、おれは蒼人の片足を椅子代わりにして座った。
蒼人がおれの腰をきゅっと抱きしめるから、こんな姿勢でも安定するんだ。
「なぁ……。お前ら、付き合ってんの?」
突然かけられた声に、二人同時に顔を向けると、その声の主は隣の席に座っているクラスメイトだった。
記憶に間違いがなければ、おそらく初対面だ。クラスメイトとはいえ、唐突にかけられた不躾な質問に、無意識に口をへの字にしてしまったらしい。
「ああ、悪い。……オレ、天間太陽。第一小から来たんだ。お前らは?」
露骨に不快な態度をしてしまったのにも関わらず、素直に謝って自己紹介をしてくるあたり、悪いやつではないのだろう。
無意識に張ってしまった警戒を少し解いて、こちらも自己紹介をすることにした。
「おれは由比麻琴。こっちは森島蒼人。二人とも第二小」
おれの紹介に、蒼人は小さく会釈をする。
小さな頃からあまり周りとかかわらずにおれとばかり一緒にいた弊害なのか、極端に口数は少ないし明らかにコミュニケーション不足だと思う。
そんな蒼人を見て察したのか、太陽はおれに的を絞って話しかけてきた。
「お前らって、いつもそんな感じなの?」
先程の『付き合ってんの?』という問いかけに対しては、全く意味がわからないので首を傾げるしかないが、『いつもそんな感じなの?』と聞かれたら、首を縦に振ることに躊躇はない。
「おれ達、産まれた時からずっと一緒で、家族ぐるみで仲が良いんだ」
太陽の質問するところの意図が分からず、純粋に仲が良いんだなと言われたと思い、それが嬉しくてニコニコと笑顔を見せて答えた。
先程一瞬だけ持った警戒心など、あっという間に消え去ってしまっていた。それだけ、太陽は人の懐に入り込むことに長けているのだと思う。
「そっかぁ……。んで、それで付き合ってないんだ?」
そこで再び、太陽の質問がふりだしに戻る。
「んー? 別につきあってないし」
そう言って首を傾げるおれに、太陽は苦笑する。
産まれた時から一緒で、家族ぐるみで仲が良くて。……それが当たり前になっているから、そんなこと言われる意味が心底分からなくて、うーん……と唸ることしかできない。
太陽は蒼人へ視線を向けると、ポンポンっと肩を叩いて何やら一人分かったように頷いた。
はじめましてがそんな感じのスタートだったわけだけど、おれ達はいつの間にか三人で過ごす事が多くなっていた。
おれがオメガで蒼人がアルファで太陽がベータ。一見アンバランスかのように感じる組み合わせだったけど、意外にうまく行っていた。
でもおれと蒼人はアルファとオメガの教育に特化している高校へと進学を決めた。
だからこんな三人の関係も終わりだと思っていたのに、太陽も同じ高校への進学希望を出すと聞いて驚いた。おれ達と一緒に過ごす中で、第二性に興味を持ち、学びたいと思ったんだそうだ。
共通の目標を持ったおれ達は、中学二年の冬から本格的に受験勉強を始めた。一般的にはまだ早いと思われる時期だったけど、おれ達の目指す学校は人気もあり難易度も高い。三人揃って合格するためには、早すぎることはなかった。
蒼人と二人だけの世界に中学生になって飛び込んで来た太陽の存在は、おれ達の産まれた時からの関係を崩すことなく、自然にうまく調和していった。