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あれで付き合ってないの? ~ 幼馴染以上恋人未満 ~  作者: 一ノ瀬麻紀
あれで付き合ってないの?(本編)

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18/81

18 友達からの電話

 見舞客も来ない時間になった頃、夕飯が運ばれてきた。

 身体への負担を考えられた優しいメニューだし、量も控えめになっていた。それでも半分ほど残してしまった。


 次の日朝早くからやってきた蒼人(あおと)にそのことを話したら、蒼人の過保護がさらに増してしまった。食べることの大好きなおれが、食事を残すなんてことはめったになかったから。

 軽く散歩でも行けばお腹も空くかもしれないのに、休んでいろとベッドへ戻される。……多分、それも原因じゃないかと思うけど、心配そうにこちらを見る蒼人には言い出せなかった。


「毎日こうやって来るけどさ、大丈夫なのか?」

「何が?」

「何がって……。やることがあるから、休学してるんだろ?」

「……ああ、そのことは大丈夫。麻琴(まこと)は心配しなくていい」


 休学すると聞かされた時、蒼人は詳しい話はしてくれなかった。今だって聞いたところで話してくれるとは思っていなかったが、やっぱりその気はなさそうだ。

 兄弟みたいな幼馴染という位置にいることすらも、許されないということなのか。


 それなら、なんでこんなに過保護にするんだよ。……放って置いてくれたらいいのに。


 少し投げやりな思考回路になってしまい、ブンブンと首を振った。蒼人は純粋に、完全に体調の戻らないおれを心配してくれているだけじゃないか……。


「麻琴? やっぱり具合が悪いのか? 俺がいると休まらないなら、部屋を出ていくけど」


 蒼人はずっと口数が少ないと思っていた。常に一緒にいたおれでさえそう思っていたのに、あのヒート事件以来別人かと思うくらいによく喋る。そして、おれを過剰に心配しては甲斐甲斐しく世話をする。


「蒼人ごめん。おれ、ちょっと寝るわ」


 眠くもないし、寝るつもりもない。

 けれど、胸の中にくすぶる気持ちがどうしても正常な思考を邪魔するようで、このままだと蒼人に八つ当たりをしかねない。

 それならば、少しの間蒼人との距離を取ろう。そう思った。


 布団を頭から被り、丸くなる。

 本当は側にいてほしかったけど、『お願いだから、早くここを出ていってくれ』と、罪悪感の中でそう願った。

 いつの間にか目尻に溜まり始めていた涙が、溢れ出てしまいそうだった。


「ゆっくり休めよ」


 布団の上からぽんぽんと撫でると、反応のないおれにそれ以上何も言わずに、静かに部屋を出て行った。

 扉が閉まる音を確認したものの起き上がる気にはなれなくて、そのまま布団に潜っていたらいつの間にか眠ってしまった。



 結局お昼も食べる気になれず、そのまま下げてもらい、午後も布団をかぶったまま過ごしていた。ウトウトと浅い眠りと覚醒とを繰り返す。

 今は何時だろう……。そう思ってモゾモゾと布団から出てくると、ちょうど春岡(はるおか)先生が病室に入ってくるところだった。


「ああ、ごめんね。起こしちゃったかな」


 午前中は外来の診察で、午後は入院患者の診察をしてくれる。いつもおれのところに来るのは15時くらいだから、時計を見ることなく、大体の時間を把握した。


「ちょうど起きたところなんで、大丈夫です」


 よいしょっと言いながら身体を起こすと、大きく伸びをした。

 ゴロゴロしてたし、蒼人が側にいないから余計なことも考えずに済んだからか、少し心が軽くなったような気がした。


 『蒼人が側にいないから』……自分で思った言葉に、小さなショックを受ける。こうやって、蒼人のいない生活が当たり前になっていくのかと思うと、胸が苦しくなった。


 春岡先生は、体温を測ったり問診したり聴診器を当てたり……と、淡々と診察をこなしていく。そして一通り終わったところで、少し言い出し辛そうにおれを見た。


「麻琴くんのお友達からの電話を保留してあるんだけど、話せる? 疲れてるようならまたかけ直してもらうけど」

「……友達?」

佐久(さく)くんと、飯田(いいだ)くん」

「あっ……」


 入院期間中は余計なことを考えてしまうから、スマートフォンは預けてある。だから連絡を取りたい場合は、直接病院に電話をするようになっていた。

 入院して少し落ち着いた頃、二人には一度だけ連絡をした。特に佐久くんには迷惑をかけてしまったから、どうしても謝りたかった。


 それでも面会となるとまだ心の準備が出来ていなくて、遠慮をしてもらっていた。


「……少し、くらいなら」


 おれの複雑な心の中なんて知らない二人は、ただ単に友達として心配をしてくれているだけなのは分かっている。だから流石に断るのも悪いと思って、電話に出ることにした。


 ちょっと待っててね……と、病室を出て行った先生は、少し経って子機を持って戻ってきた。

 おれの病室は、ナースセンターの隣。──つまり、症状がそれだけ酷かったということを意味する。

 それでも落ち着いたから、明日には一般病棟に移ることになっている。とは言ってもここの病棟は全室個室なので、部屋の移動があっても正直あまり実感がなさそうだった。


「…もしもし?」

『もしもし! 由比(ゆい)くん? 月歌(るか)だけど! 体調はどう? 大丈夫? 少しは良くなった?』


 恐る恐る受話器に向かって声を出すと、電話の向こうからは、食い気味に体調を尋ねる飯田くんの声が聞こえてきた。


『こら、そんなに畳み掛けるように言ったらだめだろ? 由比くんが困ってしまうよ』

『……あ、そうだよね。ごめんね』


 嗜めるように優しく言う佐久くんと、少し声のトーンが下がった飯田くんの声。会うのは緊張してしまうけど、いつもと変わらない二人の声に、少しホッとした。


 このまま、二人との関係も変わらずいてほしかったけど、そんな都合の良い話はない。いずれ、蒼人と飯田くんの関係がおおやけになれば、おれを取り巻く人達の関係図は、あっという間に形を変えてしまうだろう。


 二人との電話は、特に何があるというわけではなく、おれの体調を気遣うものだった。特に飯田くんは同じオメガでヒートの辛さを知っているから、心底心配しているようだった。


『ほんと、無理は禁物だよ? 特に初めてのヒートは、身体が慣れていないから大変なんだ』

『もういいだろ? 由比くん、また元気になったら、みんなで出かけようね』

「うん……ありがとう」


 おれからは多くは話さなかったけど、気遣いに感謝しつつ電話を切った。


 でも。

 あれ? ……なんで飯田くんが、ヒートのこと知ってるんだろう?


 ヒートはプライバシーに関すること。いくら友達でも、簡単に言っていいものではない。


 その時のおれは、佐久くんが話したのかな? くらいの軽い気持ちで流してしまったけれど、そんな軽いものではない本当の理由は、後から知ることとなる。

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