永劫の檻
第八章 永劫の檻
目覚めた場所は、**「始まりの施設」**だった。
だが、それはもうかつての姿ではない。建物は崩壊し、空は赤黒く濁り、時間そのものが停滞している。
「……ここは、どこ?」
ルキアが呟く。
「ここは、過去でも未来でもない。“永劫”の中枢……俺たちの記憶と記録が閉じ込められていた“檻”だ」
シルバの声には、確信があった。
この場所――それこそが、《クロノ》が管理してきた記録世界の“起点”だった。
◆
姿を現す《クロノ》。
「君たちの選択は、“記録の外側”に影響を及ぼしはじめた。
それはすなわち、記録の崩壊だ」
だがクロノの声には焦りが混じっていた。
「記録とは、存在を証明する唯一の手段。
記録がなければ、世界は無に帰す」
「なら、作り直せばいい」
ミアが静かに言い放つ。
「記録じゃなく、“記憶”から世界を創る。今度こそ、誰も犠牲にならないように」
クロノが叫ぶ。
「記憶は曖昧だ! 情緒に左右され、都合よく捏造される!
そんなものに、世界の秩序は委ねられない!」
シルバが前に出る。
「だからお前は、おれたちから“死”を奪い、“過去”を管理し、“未来”を監禁してきたんだな」
クロノの姿が歪み始める。
「ならば、“永劫の檻”の主として……最後の問を与えよう」
◆
――檻が開く。
中にいたのは、シルバと瓜二つの存在。
「……誰だ、お前」
シルバが問いかけると、彼は微笑んだ。
「“君の本来の記録”だよ。家族を守れず、世界を恨み、記録を壊す存在になった――お前自身だ」
「なにそれ……」
ルキアが震える。
「シルバ……君は、“闇”の記録と向き合わないと、未来に進めないんだ」
ミアが手を握る。
「行って、シルバ。わたしは、ここにいるから」
◆
シルバが、もう一人の“自分”と対峙する。
殴り合い、記憶の断片が飛び散り、互いの過去が混ざり合っていく。
「お前は、あきらめたんだ!」
「違う。諦めたんじゃない、壊したかったんだ! この理不尽な世界を!」
「……それでも、おれは生きる。誰かと、記憶を重ねて」
最後の拳が、闇の自分の胸を貫く。
「なら、持っていけ。この“永劫”の記録を……その手に、未来として――!」
◆
光が爆ぜる。
崩れゆく檻のなかで、三人は手をつなぎ、空へと跳ぶ。
「ミア、ルキア……行こう。記憶が、記録に変わるその場所へ!」
――そして、物語はクライマックスへ。