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試練の座標(ザ・テスト・ポイント)


第七章 試練の座標ザ・テスト・ポイント


それは、“時間”そのものがねじれた場所だった。

赤黒い空間に浮かぶ無数の“記録片”――それぞれが、誰かの過去、誰かの断片。

《クロノ》が用意した「試練の座標」は、記憶と記録の渦を越えた“存在の耐久試験”だった。


「この中から、自分自身を選び取れ」

クロノの声が空間に響く。


「もし選べなければ、君たちの存在は曖昧となり、“永劫”に囚われる」


ルキアが身をこわばらせる。

「これは……記憶を利用した精神攻撃……!」


「違う」

ミアが静かに首を振った。

「これは“記録の誘導”。選び取った記憶が、君の“本当の姿”になるってこと」



最初に飛び込んだのはシルバだった。

少年の姿を保ったまま、記録片のひとつを掴む。


そこには、彼が幼い頃、家族と過ごした穏やかな日々があった。

誰かが笑っている。母の声。小さな手を引く兄のぬくもり。

だが、それはすでに“失われたもの”だった。


「こんな過去に……縋れるかよ」

シルバはそれを振り払い、別の記録片を掴んだ。


そこには、《不老》となった彼が、組織の実験台として繰り返し殺される映像があった。


「……これが、おれの現実」


だが、彼はその記録の中から、ミアの手を取って逃げる自分を見つけた。


「俺は……“逃げた”んじゃない。“生きよう”としたんだ……」


記録片が光に変わり、シルバの胸へ吸い込まれる。

彼の身体が微かに発光し、周囲の空間が軋む。



次に進んだのはルキア。

彼は恐る恐る、自身の記録へ手を伸ばす。


「もう、あの過ちを見たくない……でも」


そこにあったのは、自分が泣きながらも“仲間を庇っていた”記憶。

消される寸前の子どもたちの前に立ちはだかり、制止命令に背いた、ほんの一瞬の記録。


「ぼくは……あのとき、抗ったんだ」


その記憶が、彼の胸に吸い込まれる。

ルキアの目に、はっきりとした“光”が宿った。



だが――最後に残されたのは、ミア。


彼女の周囲に集まる記録片は、どれも曖昧で、靄がかかっている。


「わたしの……記録が……ない?」


クロノが笑う。


「君の存在は“記録の外”。君自身が、自分を“記録しなかった”」


ミアの瞳が揺れる。


「わたしは……存在しないの……?」


「違う!」

シルバが叫ぶ。


「お前はここにいる。おれが、お前と出会った。それがすべてだ!」


その声に呼応するように、ミアの胸に光が宿る。


彼女の中に、シルバと出会い、共に歩んだ記憶が現れた。

それは誰の記録でもなく、彼女自身が“選んだ記憶”。


「……ありがとう、シルバ」


ミアが記録片を掴み取った瞬間、空間が爆ぜた。



「“試練”は……突破された」


クロノが低くつぶやく。


「だが、君たちが選んだ記録は、未来を保証しない。

記録は不完全であり、歪み続ける。ならば問おう――お前たちは何を選ぶ?」


シルバが答える。


「記録じゃない。おれたちは、“記憶”でつながってる」


「そして、これからは……俺たち自身が、記録を書き換えてやる!」



――空間が崩壊し、三人は光の中に包まれる。

彼らの旅路は、いよいよ最終局面へと進み始めた。






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