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ルキアの記憶



第六章 ルキアの記憶


白い光が引いたとき、そこはかつての《記録都市》ではなかった。

辺りは崩壊しかけた古い街。ビルの骨格がむき出しになり、空は不自然なほど赤黒く染まっている。


「ここは……どこだ?」


シルバが周囲を見回すと、ミアが眉をひそめた。


「“記録遺構”……過去の断片が寄り集まった、時の墓場よ」


ミアの声は震えていた。

今ここにいる場所は、《クロノ》の力で巻き戻された、“ある記録の過去”。

そして――


「この記憶の主は……ルキア」


前方に、一人の少年が立っていた。

彼は誰かを見下ろしていた。倒れているのは、血に濡れた小さな手。


「どうして……僕が……!」


ルキアが膝をつき、叫ぶ。

その声には、恐怖と後悔と、自責が入り混じっていた。


ミアが小さくつぶやく。


「これは……ルキアの“罪”の記憶」


かつてルキアは《記録機関》の実験体として育てられ、その中で“抹消命令”を受けた。

対象は、彼にとっての家族のような存在――別の子どもたち。


「ぼくは……命じられた。“不老者の素質”を持たない個体は、記録するに値しないと」


血に染まった手で、彼は自分の顔を隠した。


「だけど、記録されなかった彼らは……本当に、いなかったのか?」



「ルキア!」


シルバは近づき、彼の肩に手を置いた。


「それでも……君は今、生きてる。この記憶に抗ってる。それだけで十分だろ!」


「でも……でも、ぼくは……!」


「なら、おれが証明する」


シルバの声が静かに響く。


「たとえ記録に“罪”しか残ってなくても――記憶には、“赦し”が宿るんだ」


その瞬間、ルキアの胸に埋め込まれていた《記録封印機構》が、音を立てて砕けた。


砕けた中から、光の結晶が浮かび上がる。


それは彼がかつて消された“家族”との記憶。

手を取り合い、笑いあう微かな時間。


ミアが涙ぐむ。


「ルキア……あなた、やっぱり優しかった……」


少年はゆっくりと顔を上げ、ふたりを見た。


「……思い出したよ。ぼくは――ぼくも、逃げたかったんだ」



だが、その場に響く乾いた拍手。


「美しい友情だ」


現れたのは、再び《クロノ》。


「だが、これは“過去”にすぎない。記録を改ざんしても、現実は変わらん」


「変えるさ」

シルバが前に出る。

「俺たちは記録の“外側”を生きてる。これから、現実を記すんだ」


クロノは静かに《時の鍵》をかざす。


「ならば、試すといい。“永劫”に抗う資格があるのかを」


空間が震える。


――試練が、始まる。






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