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記録を超えて

あの後、ルキアは去った‥

彼の記憶も操作されていたようだ‥記憶の揺らぎが、


第五章 記録を超えて


「それは、“記録のない記録”だよ」


ミアは静かにそう言って、手のひらに広げた破片を差し出した。

欠けたガラスのような、それでいて中に“光”が残っているかのような奇妙な結晶体だった。


「この破片は……?」


「記録結晶。だけど、正式な記録網には存在しない。“記録外”の存在を留めた、異端の記憶」


シルバは手を伸ばしかけて、止めた。

その光が、微かに脈打っている気がしたからだ。

――まるで、生きている。


「これは、誰の記憶なんだ?」


「あなたのもの。そして、ルキアのもの。たぶん……わたしのものでもある」


ミアの声が揺れる。

遠くで風がビルの隙間を鳴らしていた。



この街の奥、かつて“観測局”と呼ばれた建物の地下に、封印された端末があった。

正式なアクセスも、権限もない。存在自体が消されて久しい“黒域記録サーバ”。


「《永劫》がアクセスできない、唯一の場所。だって、“まだ記録されてない”から」


ミアは苦笑する。


「でもね、シルバ。この場所でなら、“記録にされなかった想い”に触れられるかもしれない」


彼女は端末に手をかざした。


その瞬間、白い光が吹き出し、空間に“過去の残像”が浮かぶ。

何百枚、何千枚のイメージが重なり、折り重なり、やがて――


少年と少女の姿が浮かび上がる。


《ルキア》

《ミア》

《シルバ》


三人は確かにそこにいた。笑っていた。

だが、やがて映像は崩れ――

全てが“灰色の記録者”に上書きされていった。


「……全部、消されてた」


シルバは拳を握った。

“永劫”はただ管理するのではない。“記憶”を塗り潰し、“都合の良い真実”へと変える。


「でも……」


ミアが静かに言った。


「たとえ記録が消えても、記憶は、生きてる」


彼女は結晶を胸に押し当てる。

光が一瞬、強く輝いた。



そのとき、外から爆発音が響いた。

地下室に土埃が舞う。


「追ってきた……!」


階段の上に、仮面の《記録執行官》たちが現れる。

その中に、ルキアの姿があった。


仮面越しに視線が合う。


「D-09……“記録破損対象”を発見。排除を開始する」


だが、次の瞬間。


「ルキア!」


ミアの声が響いた。

彼女は記録結晶を、彼に向かって放った。


結晶は空中で砕け、白い閃光となって彼の仮面に突き刺さる。


「う、ああああ……ッ」


叫びとともに、ルキアの仮面が割れた。

中から現れた少年の顔には、痛みと、混乱と――“思い出そうとする意志”があった。


「ぼくは……誰だ……?」


シルバが一歩踏み出した。


「君は……俺たちの友達だった。ルキア。忘れていいはずがない」


彼は、かつて交わした言葉を思い出していた。


> 「不老不死って、きっと地獄だ。でも、誰かとなら……耐えられるかもしれないね」




「それを言ったのは、君だ」


ルキアの瞳に、わずかに光が宿る。


だが――その背後に、黒衣の男が現れる。


《クロノ》。

記録機関の中枢、そして“時”を操る存在。


「ならば、記録を“巻き戻す”までだ」


彼の手に握られた《時の鍵》が、空間をゆがめる。


「君たちは、まだ“過去”に縛られている」


白い閃光。

空間が反転する直前、シルバはミアの手を握った。


「――記録にないなら、自分たちで書き換えよう」


闇に包まれながら、彼は強くそう願った。







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