表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/10

「永劫(エイゴウ)の檻」



第三章 「永劫エイゴウの檻」



---


 都市の外れ、黒鉄の塔。

 そこは“終わりなき命”を研究し、管理する組織《永劫エイゴウ》の拠点である。


 研究棟最深部──実験室「第五階層」。


 無機質な照明の下、冷却装置に囲まれたカプセルが並ぶ。中には、胎児のように小さく縮こまった人間の姿。年齢、性別、種族──さまざま。


 その全てが、《不老》《不死》《再生》《代謝停止》《記憶定着》などの因子を持つ、「特異体アノマリー」と呼ばれる存在だった。


 


「E-02──逃亡中か。相変わらず厄介だな」

 冷徹な声が響く。白衣の中央幹部・クロノ。年齢不詳の男で、時間に関する研究の第一人者だ。


「そして……“死ねない”少年、D-09が彼女と接触した」

 彼は大型ホロスクリーンに映し出された映像に目を細める。


 銃弾に倒れ、再び立ち上がる少年──シルバ。


 


「D-09は“死なないだけ”。破壊不能、ただし、思考と記憶は劣化する。つまり……兵器にすらなれない」


 クロノは静かに笑った。


「だが──“あれ”が動き出したとなれば、収容すべきだ。記録されていない存在は、我々の秩序を乱す」


 彼は端末に指示を入力する。


「《記録執行官・ノワール》、発動を許可する。目標はD-09、E-02。生死問わず、回収せよ」


 


 


 一方、廃線となった地下鉄の車両内。

 そこに潜んでいたシルバとミアは、火を焚きながら静かに息を整えていた。


「お前……あのとき、なんで泣いた?」

 不意にシルバが口を開いた。


「……ごめん、わたし、情けなくて……」

 ミアは震える声で言った。


「違う。あれは──俺には、久しぶりに感じた“人間の感情”だった」


 シルバは焚き火の炎を見つめる。

 かつて、自分にも家族がいた。妹がいた。

 けれど、火事、戦争、暴力、実験。──すべてが灰になった。


 


「思い出せる記憶が、少しずつ薄れていくんだ。代わりに、痛みと怒りだけが残る」

「……」


「だから、誰かが泣いてくれるだけで、なんか……ほっとした」


 そのとき、車両の外で“気配”が変わった。

 張っていた糸が切られるように、空気が凍りつく。


「来たな……!」


 扉の向こうから、ゆっくりと人影が現れる。


 長身の黒衣、無表情の白い仮面、首元には《永劫》の紋章──無限に交差する時の輪。


「記録執行官……!」


 ミアの声が震える。


 


 その人物は名を《ノワール》という。


 特異体を「正しい記録」に戻すために存在する、組織の処刑人。

 彼の持つ武器は“記憶のレコーダー・サイズ”。切られたものは過去を失う。


「D-09、E-02──貴様らは“記録の外”にいる。不正確な存在は、抹消される」


 


 静かに、闇が動いた。


 次の瞬間、鎌が振り下ろされた──!







評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ