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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

かぐや姫の美貌

作者: 鮫ノ口
掲載日:2025/05/25

月から落ちた日、

かぐや姫は泣かなかった。


美しかった。

ただそれだけで、人々は群がった。

神の造形、天女の微笑み、夜空の奇跡。

男たちは口をそろえて、そんなふうに言った。


けれど、誰も、かぐや姫のことは見ていなかった。

見ていたのは顔。

瞳のかたち、肌の白さ、指の細さ。

魂ではなかった。


「私と結婚してくれ」

「一生幸せにする」

「その顔を俺だけのものにさせてくれ」


その言葉が、まるで呪いのようだった。


夜、鏡の前で、自分の顔を剥がそうとしたこともあった。

頬を爪で掻いた日もある。

髪を切って、火にくべたことも。

でも、美しさは消えなかった。

まるで皮膚の下にまで染みついているようだった。


誰もが言う、「うらやましい」「特別だね」「得してる」

だけど、その特別は、牢獄だった。


たった一度だけ、

名前も知らない男が、

彼女の顔を見ずに「空が青いね」と言った。


その時、かぐや姫は泣いた。

でも男はすぐに気づいてしまった。

その涙が美しすぎたから。

やがて彼も、恋に落ちた。

いや、顔に落ちた。


それが決定打だった。


その年の秋、

誰よりも美しい姫は、

朝の陽を見ながら、

ひとり、泉に身を投げた。


遺書はなかった。

ただ、ひとつだけ鏡が残されていた。

割れていた。

でも、そこに映る断片的な顔でさえ、なお美しかったという。


人々は泣いた。

美貌の悲劇だと騒いだ。

惜しんだ。

愛したと、口々に言った。


けれど、誰ひとり

かぐや姫の本当の顔を、

魂のかたちを、

知らなかった。

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