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格好いい魔族になりたい魔法人形のお嬢さん(中編)

 格好いい魔族のお父さんの娘である、木でできた人形の私の旅路は、全然予想通りじゃなかった。

 とっても順調だった。

 順調すぎてびっくり。


 休憩するところに困るとことはなかったし、森や山、海でも、魔物に襲われることはなかったし、旅費に困ることもなかった。

 私はとっても格好いい魔族のお父さんのようになりたくてたくさん勉強をしたから、まあ、なんていうか、ふつうの人形よりもできる子だと思うよ。お父さんもそう言っていたのだから間違いない。

 でも、私が知っているこういうお話のお約束としては、もうちょっと苦労してボロボロのけちょんけちょんになっても頑張って旅を続けて自分自身も成長する……という流れだったように思うの。

 機転を利かせてピンチをはねのけていくようなお話もあるけれど、でも、なんか、なんか違う。

 わるいヒトが私をだまそうとやってきてサーカスに売り飛ばしたりだとか、大きいクジラに飲み込まれちゃったりとか、そういうアレがあるんじゃないの?

 全然なんにもないの、順調なの、私の旅路。

 もはや女神様の泉まであとこのくらい、っていう看板もよく見かけるようになったし。

 看板あるんだね。

 観光地かな。


 「あらー。えらいねぇ、女神様のところへいくのねぇ。じゃあ、そっちの道じゃないよ、こっちよ」って迷いそうなときには道を教えてくれる人もいるし、「俺たちも女神様のところにお参りに行くんだよ。奥さんの実家に寄っていくから、最後までは無理だけど途中まで一緒にいこうか」って言って一緒に歩いてくれる夫婦もいた。「ご飯はちゃんと食べているかい? ああ、そのお金は大事にしまっておきなさい。おじいちゃんがその屋台のお代は払っておいたからね。しっかり食べて女神様のところへ行ってくるんだよ」って言っておごってくれるおじいちゃんもいた。

 だから、道に迷ったりもしなかったし、お父さんがくれたお小遣いも全然減らないし、お父さんが持たせてくれたおやつもほとんど減らないし……。

 いくら私が、格好良くてすごい魔族のお父さんの、頑張れるいい子な娘だからといってもちょっとおかしい。

 これは、私、ご主人様の代わりにお伊勢参りにいくわんちゃん(※おかげ参りのおかげ犬。江戸時代にお参りに行きたくてもいけない主人の代わりに、伊勢神宮までお参りに行ったという)みたいな扱いになっている……?

 私の首には女神の泉参拝者(長距離)用のプレートがある。お肌に優しい素材の盗難防止魔法付チェーンでおなか辺りでいつもゆらゆら揺れている。女神の泉に行く人間がつけるものだから、見えるように首から下げておきなさいって言ってお父さんが用意してくれたものだった。

 出発しますって言った翌日の朝には用意してあったから、お父さんは凄い。

 じっくりプレートを見たことはなかったけど、よく見たら安全祈願的な魔法の他に、何か不自然な魔法がある気がする。

 ……お父さん、これ、もしかして何か魔法仕込んでる?

 あっ! 

 なんか見えた!

 女神の泉に向かっています。困っていたら助けてあげてください(父)、って文字がうっすら私の頭上に浮かび出る魔法が仕込まれてる!!

 だから、色んな人が私のことをちょっと心配そうに見送ってくれてたんだ。

 ばっと空を見上げたけど、私が上を向いたら頭の天辺が傾くじゃないですか。

 そしたら、魔法の構文的には融通がきかないものですから、頭の天辺と一緒に傾きますよね。

 私からは見えませんよね。


 そりゃ気付けないよぉー! むびゃー!!

 お父さん、私ちょっとはずかしい!


 でも、お父さんの気持ちを無下にすることも私にはできない。

 お父さんがくれたものをぶん投げるなんてことは更にできっこない。

 

 もう泉に近い。

 このまま行こう。

 あきらめよう。


 私は何も見なかった! 






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