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格好いい魔族になりたい魔法人形のお嬢さん(前編)

 私のお父さんは、とても強くて格好いい魔族です。


 ぐりぐりひねりの入った硬くて強い角が頭から生えていて、格好いいです。

 私の頭にはそういう角が無いけれど、きっとこれから大きくなったら生えると思います。私はとても強くて格好いいお父さんの娘だから、いつかおんなじ角が生えてくるんです。

 お父さんの髪は真っ黒でサラサラでキラキラでつやつやで、とっても格好いいです。背中まで伸びた髪を時々触らせてもらうのが好きです。

 私の髪は薄い緑色でふわふわで毛先がちょんちょんはねていて、お父さんとはちょっと違っているけれど、きっとこれから大きくなったらお父さんみたいなサラサラキラキラつやつやの黒髪になると思います。私はとてもきれいな髪のお父さんの娘だから、いつかおんなじ髪になるんです。

 お父さんはとっても背が高くて、腕にも筋肉がもりもりで、とっても格好いいです。

 私はお父さんの腰にも届かないくらいの小ささだけど、きっとこれからずんずん大きくなってお父さんくらいの筋肉もつくと思います。私はとても強くて背の高いお父さんの娘だから、いつかおんなじ背の高さになるんです。


「ね、お父さん」


 見上げた先のお父さんのお顔が、ちょっと困ったときのお顔になってる。

 眉毛と眉毛の間にある皺が、ちょっと増えてる。怒っているときに似ているけれど、怒っているときはもう少し皺が深くなるから、今は困ったお顔で間違いない。

 どうして困っているのかな。私、ちょっとしゃべりすぎたかな。お父さんは静かなところが好きだって言ってたから、私がうるさかったのかも。

 じっと私を見つめてから、お父さんは口を開いた。

 お父さんの声は低くて良い声。


「……娘よ、褒めてくれるのは嬉しいのだが、お前は魔族ではなくて……」

「お父さんがすごいのは世界の真理だから、褒めているのではなくて事実を言っているのよ、お父さん」


 お父さんが嬉しいと言ってくれたから、これからも思った事を言うのは続けていきます。でも、本当のことを言っただけで特別なことを言ったわけではないので、お父さんはもっと自己評価を上げるべき。お父さんは凄い魔族なんだから。


「うんうん、難しい言葉を覚えたな、偉いぞ。でもな、お前は魔族ではなくて……」

「お父さんが何でも知っているから、私もおんなじになりたくてがんばっているの」


 難しい言葉というふうに思った事はないけれど、お父さんが私の言ったことで私を褒めてくれた。お父さんは私への評価が高い気がします。お父さんがすごいから、私も大きくなったらすごくなるんです、という気持ちで前進していますので。お父さんほどではありませんが、私がすごい(予定)のも当然なのです。


 そうかそうか、それは偉いな、とお父さんは私を褒めてくれながら、ゆっくりと私と視線を合わせようとしゃがみこんでくれました。

 お父さんの優しいお顔が近くなります。

 お父さんは、そっと私の肩に手を置いて、優しく諭すように言った。


「知識は力、お前の助けになるだろうからこれからも励みなさい。それはそうと、娘や。ちょっとお口を閉じて聞いておくれ。お前はお父さんと同じ魔族ではなくてな、木でできた人形……」

「人形なのはわかってるもん!」


 私は、お父さんのお顔の前で、むひゃー!と叫んでしまいました。

 お父さんがちょっとびっくりしたお顔をしていたから、心の中でごめんなさいしました。

 わかっているもの、私がお父さんの凄い魔法と研究の成果をもりもりに盛ってできた魔法人形で、お父さんとはちょっとだけ違うっていうこと、知っているもの。


 でも、私は『お父さんの娘』。

 『とってもすごくて格好いい魔族のお父さんの娘』なのです。

 だから、私はとってもすごい魔族になれないわけがないのです。


「お父さんの娘の私が、お父さんみたいな魔族になれないわけがないもの! どんなことをしたって、私、絶対に魔族になって、お父さんみたいに格好良くなるんだもの!」


 そうやって力強く口にしたら、お父さんは暫く黙り込んだ後、私の両脇に手をかけて、立ち上がりながら抱き上げてくれた。力が強い。さすがお父さん。

 ぐん、と視界が高くなって、私は嬉しい。

 お父さんとおなじくらいに背が高くなったみたいで、こうして抱き上げられるのがとっても好きだった。

 私が抱き上げられるのが好きだということを、お父さんはよく知っている。

 わがままを言ったり、言うことを聞かなかったりしたときに、抱き上げられると大人しくなるものだからどうにもならなくなったらよく抱き上げられる。何にもなくても抱き上げれらることも多いけれど、今はきっと、お父さんは私をどうにか落ち着かせようとしているとみた。

 お父さんはさすがお父さんだ。


 参考までに聞くが、とお父さんは言った。


「『どんなことをしたって』、の『どんなこと』の部分だが、詳しく」

「お願い事をかなえてくれる女神さまが人間の国のどこかに居るんだって! だから、女神さまに会いに行って、格好いい魔族にしてくださいってお願いするつもりなの!」


 さしあたって明日にでも行ってこようと思っているのですよ、と、ずっと考えていたことを元気に報告したら、お父さんは、そうか、と頷いた。


「そうか、女神。……女神か。 ……神族は魔族の敵……いや、……わかった。気をつけていってくるのだぞ」


 何かを飲みこむようにしてから、お父さんは、お出かけの許可をくれた。

 近くにあるお父さんのおでこが、私のおでこにこつんとしたら、そのままぐりぐりって押し付けられた。

 私は木の人形だから痛くないんだけど、お父さんが普通のお父さんだったら痛くなっちゃってるんじゃないかなってくらいに、ぐりぐりおでこをくっつけた。

 これは、お父さんの娘ですよって印をつけてくれているんだけど、いつもより念入り。

 きっと、私がひとりで行ってこようとしているのに気が付いているんだと思う。

 さすがお父さん。なんでも知っている。

 私が、お父さんにこのことを言おうと思って、でも言えなくてもにゃもにゃしていたのをきっと知っていたんだよね。

 でも、女神さまって言ったらちょっと嫌そうなお顔だった。そうだよね。お父さんは格好いい魔族だから、神族のお願い事をかなえてくれる女神さまはきっとあんまり好きじゃないよね。

 私も日々魔族になるためにお勉強していますので、そのくらい知っているのです。

 でも、ここはひとつ、私が格好いい魔族になるために、ちょっとそのあたりのなんやかんやは置いておいていただいて。

 ちょちょっと行って、ばばんと格好いい魔族になってきますからね。

 

 こうして、格好いい魔族のお父さんの娘である、木でできた人形の私は、お願い事をかなえてくれる女神さまに会うべく、格好よく、颯爽と、おうちから飛び出すのでした。


 ……あ、お父さん、そんなに荷物持たせないで。

 お父さん、つやを出すクリームは旅の間はいりません。

 おやつもけっこうです。

 お父さん、お洋服そんなに持っていかないです。

 お父さん、お父さん……? 私できます。ひとりでできますから。

 お父さん、櫛は一つあれば十分です。そんなに何種類も……

 え? お風呂の後用と朝用とお着換えの時用?

 いりません、いりません。一つで結構です。お父さん、お父さん、入れないで、かばんにそんなに入れないで。

 私ちゃんと自分で用意できましたから。おと、お父さんーー!! むぴゃー!!




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