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05:回想④ 依頼達成と課題

 ゴブリン砦の屋上にて。

 棍棒を振りかざして襲い掛かって来たゴブリンエリートを、ヒューが迎え撃つ。といっても、真正面から受け止めるわけではない。身軽な彼が繰り出される重い攻撃をひらりひらりと避けつつ、槍で細かく傷を付けていく。もちろん、それで致命傷を狙えるわけではない。ユウキの補助魔法で強化されているとはいえ、エリートの耐久力はそれなりにあるのだ。

 本命の一撃は他にある。それを放つのは俺だが、発動までに1分程度の時間を要する。警戒されないよう時折俺はフェイクで斬りかかりつつ、つかず離れずの距離を保っておく。

 その間に、後衛のエマが攻撃魔法でエリートの体力をさらに奪う。ユウキは補助魔法を絶やさないように、アメリアはいざというときのために待機している。


「グオオオオオオオオオオ!!」


 業を煮やしたエリートが雄たけびを上げ、棍棒をめちゃくちゃに振り回し始めた。

 避けるのは簡単だが──その瞬間、俺の身体を突然の倦怠感(けんたいかん)が襲った。


「ぐっ……!」


 ある程度距離をとっていた俺は問題なかったが、同じ感覚が襲ったのだろうヒューは、棍棒の直撃は免れたものの右肩にダメージを負うこととなった。鋲によって肩当てがひしゃげ、血が腕に垂れ落ちる。

 この倦怠感の正体、それは、ユウキの補助魔法が切れたのだ。これこそが補助魔法の欠点で、付与される前後の感覚の落差で身体感覚が狂うのだ。


「ヒュー、大丈夫か!?」

「……ああ。アメ、回復はまだいい。ユウキ、補助魔法頼む!」

「あ、ご、ごめん!」


 再び補助魔法が掛けられるのを感じる。本来なら言われなくても効果を絶やさないようにしておくのが補助術師の仕事なのだが、それは後にしよう。


「……よし、みんな、後退して!」


 俺のスキル発動の準備が整った。

 ヒューを含めた全員が対象から距離をとる。突然のことに戸惑ったのか、エリートは追撃するかどうかで二の足を踏んでいる。

 俺のスキルについては後述するが、エマたちこの世界の魔術師にとってはかなり発動の難易度が高い強力な「合成魔法」を、短い時間で放つことができるものだ。

 今回は、炎と雷の合成だ。


 頭上に振り上げた剣がバチバチと帯電し、メラメラと帯()する。


「はぁぁぁぁぁっ!」


 光り輝く剣を振り下ろすと、雷の速さと指向性を持つ鋭い炎の矢が、光速でエリートに襲い掛かる。

 同時に、俺とエリートの間に物理障壁が張られる。攻撃の衝撃波を和らげるもので、さすがアメリア、タイミングはばっちりだ。

 炎の矢はレーザーのようにエリートの頭を貫き、後ろの砦の出っ張り部分を粉々に破壊した。

 一瞬のことだ、断末魔もあげられなかっただろう。黒焦げになったゴブリンエリートの巨体は、ずずんとその場に倒れ伏した。

 遅れて、衝撃波が屋上にある木箱やら旗やらを吹き飛ばした。アメリアが張ってくれた障壁のおかげで、俺たちはその影響を受けなかった──が。


「後ろ! ゴブリンだ!」


 木箱に隠れていたゴブリンが一匹いた。悪いことに位置は俺やヒューよりも後衛に近い。


「ギィィィ!」


 観念したゴブリンは持っていた短剣を振り上げて、奇声を上げながら一番近くにいたユウキに襲い掛かった。


「う、うわあああああああ!!」


 正直、それほど恐ろしい相手ではなかった。エマやアメリアなら、前衛が来るまでの時間稼ぎをすることはできる。しかしユウキはてんでダメだった。せめて戦えないのなら逃げてほしいのだが、咄嗟のことに腰を抜かしてへたり込んでしまっている。


「くそ、まずい!」


 怪我をしているヒューに任せるわけにはいかない。俺は慌てて後方へ駆け出──す必要はなかった


「えいっ」


 気の抜けるような声と同時に、ぼごぉ、というえげつない音が響いた。

 今にもユウキを串刺しにしようとしているゴブリンの側頭部を、いつの間にか忍び寄っていたアメリアが錫杖(しゃくじょう)で殴りつけたのだ。

 ゴブリンの側頭部はちょうどアメリアの持つ錫杖(しゃくじょう)の頭の形に凹んでいた。もちろん即死だった。

 たぶんユウキの補助魔法で威力が上がっていたのもあるだろうが、アメリアは修道女として奇跡だけでなくそこそこ接近戦の訓練を受けている。ゴブリン一匹程度ならなんなく撲殺できるというわけだ。


「ナイスだ、アメ!」


 アメリアを(ねぎら)いつつ、俺は屋上の残敵を確認した。

 大丈夫だ、もういない。


「いてて、なぁ、もっと優しく……」

「神の試練は時に厳しいものです」

「試練ってなん、痛い痛い痛い!」


 ユウキのところにいたと思ったアメリアはもうヒューのところで施術を始めていた。神の奇跡による傷の治療は使用者の手心があればそれほど痛みを伴わないようだが、アメリアの場合速くて正確な分優しさを犠牲にしている。まぁ、こっちは放っておいて大丈夫だろう。

 それよりも──


「ほら、大丈夫?」


 エマが呆れ顔でユウキに手を貸している。ようやく立ち上がったユウキはまだ茫然としていてショックが抜けきらないようだった。

 さて、彼をどうしたものか。

 依頼は達成したものの、俺はこれからしなければならない決断に心を重くするのだった。

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