この世に生まれたことが罪だったのなら私達はこれからどこへ行けばいいのだろうか?
前回のあらすじ
蟹光線にやられたカジヤは気づいたら船の上に乗せられていた
カジヤ漂流記が始まろうとしているのか?
仲間の3人ともども船の上でいつの間にか自分の物じゃない体に押し込められている。
「てか腹減ったな、なんか食べられるもん無えかな」
俺の体がいつの間にか知らん小さな女の子のものになっており持ち物も変わっている、ということはワンチャン懐にドネルケバブが忍ばされている可能性もある、俺はドネルケバブを取り出そうとした…が。
「体が動かねえ、なんだこれは!!」
「カジヤ、どうやら私たちは他人の体に乗り移った訳ではない、体の持ち主は以前彼らだ」
「なに?」
自由に体を動かせないと思ったらそういう事か、この体の持ち主が横たわってぴくりとも動かないから気づかなかった。
「ってお前嵐!目が……!!?」
「バッチリ見えてる」
開けてる、いや他人の体なので当たり前だが、嵐が目を開けている、画面見ない縛りならぬ目開けない縛りを破っていいのか。
「ノーカンにしてくれ……」
ノーカンにしておく。
「しかし動かねえな、こいつらなんでこんな小舟で漂流してるんだ?もうじき死ぬだろ」
ド級の空腹、ド空腹だ。
餓死寸前である、もういつ死んでもおかしくない、めちゃくちゃお腹鳴ってるし、俺。
「……もしかしたらこいつら、自殺しようと言うんじゃ」
そう言い出したテル、正確にはテルが乗り移ってる体が突然立ち上がり、海に飛び込んだのだ。
1人分の重さがなくなり船がバランスを崩して揺れる。
「自殺したぞーー!?テルが死ぬー!」
「マジかよ!?てかなんでこいつら動かねえんだ!」
人が突然海に飛び込んでノーリアクションとは一体どういうことなのだろうか、目線ひとつ動かさない。
「こりゃどうなってんだよ……こいつらどうしたんだ……?」
今考えてみると4人の船員からはまるで生気を感じない、何も無い海と青空には似つかわしくない不気味な空気が広がっていた。
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漁師から魚を盗んだ、盗もうとした、生きるためだし仕方ない、盗んででも食べなきゃアタシが死ぬのにどうしろって言うの?港町の親無し子はろくな仕事が無い、金にありつけなきゃ盗みを働くのはよくある事だし、アタシだって初めてのことじゃない、今回上手くいかなかったのは流行りの病で足を悪くしたから、後頭部を殴られて倒れ込んだ、運悪く捕まって法官に突き出されるのだろうと思ったけど。
だけど頭に血の昇った漁師はアタシのことを殴るのを辞めなかった、それで私は自分が殺されないために男の足元を蹴ったんだ。
まさか死ぬとは思わなかった、埠頭を転げて海に落ちてった漁師は岩に頭を打ち付けて動かなくなった、痛みや驚きで頭が働かなくなり、意識を失って気づくと牢に入れられていた、そのままあれよあれよと罪を暴かれ漂刑に処された、特殊な薬で眠らせた4人の罪人を小舟に乗せて流す、彼らが起きた頃には海の上でどうすることもできず、大抵の場合争って死ぬか、何もせず死ぬか、らしい。
アタシは後者を辿りそうだ、周りの3人の大人も何もしないし、私も体を動かす力が出ない。
……どうしてこうなったんだろう。
何度も繰り返しこれだけを考えている、ぐるぐると頭の中が回っているようだ、思考や景色が歪む、何度考えても分からない、どうすれば良かったの?どうすれば、この空腹から逃れられたのだろう、そういえばあの漁師が死ぬ2日前から何も食べてない、腹が減った、死ぬ。
「食え」
顔に衝撃、ちょっとした痛みで一瞬だけ世界に意識が戻る、何故か全身海水まみれの男が魚を顔に押し付けていた、鱗が刺さって痛い、状況もわからず体も動かない、何もできない、不服だ、まだ死ねない。
「生じゃ食えねえだろうよ」
よかった、誰かがツッコんでくれた…
アタシは安心して死んだ。
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多くの人を斬り未だ無敗、故郷を出てもそれは変わらず手にかけた遺体の数は数えきれない、この俺を処罰だと?国1つ滅ぼしてやるのもやぶさかではなかったが仕方なく逮捕されてやった、目的を見失うわけにはいかない、船に乗せられたぐらいならいずれ陸地には着くだろうしな…というのは少し甘い見積もりだったかもしれないが。
船で最初に目覚めて周りを見渡すと、間抜け面が3つ並んでいた、外には海、どこまでも続いており果ては見えない、まさか人生最初に見る海が最期の景色になりそうとは、何が起こるかわからないものだ…だが人がいて、自分がいる、ここがどこでもやることは変わらない。
横たわる間抜けどもに自分の居場所を教えてやる、殺気というやつだ、すぐさま飛び起きた男が1人、反応速度は悪くない、あと2人の間抜けに比べれば。
「ククク、お前も罪人だろう?斬ってやる」
「……」
「どうした?まだ眠り薬が効いてるのか?」
「……」
寡黙な男だ、話そうとしない……とはいえ刀を交わせば人生が見えるというもの、それでは
「死ね」
刀を抜くと同時に振り払う、居合斬りの速度は目にも止まらぬほど速い、刀が男の脳天を割るはずだったのだが……
「……勘弁してくれ」
倒れ込んでなんとか避けたようだ、もちろんそのまま振り下ろせば腰から下は両断できるだろうが、それでは船も真っ二つになってしまう、俺まで海に放り出されて死んでしまうだろう。
「ククク、残念だが例外なく死は平等だ……」
再び居合を構える、縦がダメなら横で…
「止めないと船を壊すぞ」
「お前が壊すより俺が殺す方が速い」
「それは嘘だろう」
……俺の居合は目にも止まらぬほど速い、もしそれを避けようと思えば刀が鞘から出る前の体の動きを察知しなければ現実的では無い、こいつはそれをなして見せた、こいつの言っていることは不可能でもないのかもしれない。
「命が惜しくば戦え罪人よ、罰を受ける前にお前は決闘にて己が罪を祓う権利があるのだ」
「なんだそれは、何処の法とも知らんものに付き合うつもりは無い…そもそも武器がなくては勝てるものも勝てん」
「む、格闘家ではなかったのか」
「あぁ、俺は剣士だ」
「ふぅむ……」
少し座り直し考え込む、その時に船が大きく揺れてしまったのか、眠っていた間抜けの内1人が目覚めた、だが今はこの問題について考えねばなるまい、いつ闘うか……
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漂刑に処された4人の中で3番目に目覚めた、という事実は鳥肌ものだが、無事目覚められて正直ツイてる、漂刑は最低でも1人殺したものでなければかけられない、つまりついさっきまで殺人鬼2人の前で寝姿を晒していたことになる、そりゃ受刑者が誰かれ構わず殺そうというキチガイばかりということはないだろうが、普通の人間でも同じ船で眠っている殺人鬼をどうにかしたいとは思うものだろう、やはり無事に起きられたことはこの上なくラッキーなことだと言える、さっき起きた時2人とも凄い空気だったし。
「「「…」」」
とはいえ寿命が1日伸びたくらいの話だ、だってここ海の上だしなんも無いし、もう数時間ずっと波だけ眺めてる、あとの2人の起きてる男は何をしてるかというと…めっちゃ怖い、どう見ても2人ともただものじゃ無いんだよ。
片方は腰に刀を差してあぐらをかいている男、如何にも剣客と言わんばかりの出立ち、体のあちこちに斬り合ってできたであろう傷をつけ顔に黒い眼帯をつけているそいつは残ったもう片方の目でもう1人の男を観察している、見られている方の男もまた刀の男を見据えている、厚手のコートに身を包んだ男だ、年季の入った服は長年潮風を浴びてきたことを彷彿とさせる、さながらこの泥舟の船長と言わんばかりだ。
「くか、くかかっ」
えっこわこわこわこわ
何今の笑い声?今刀の方が急に笑い出した、めっちゃ笑い方キモいし、急すぎる、何考えてる?怖い。
「まだ泳がせておいてやる、船の」
なになになになに?船の?船長さんをってこと?いや別に船長さんっぽい格好ってだけで船長さんじゃ無いと思うけど、受刑者だし、人殺しだし、いやこっちも人のこと言えないけど。
「……」
なんか言えよ、絶対あんただよ。
あぁほら刀の人もなんか動かなくなっちゃった、え?これどうすんの?どういう空気?これどうすれば良い?
…というようなのが1日前の話、こんな状態で自分も現実逃避気味になってるのか、意外と爆睡出来た、起きてもあの2人まだ睨み合ってたけどちゃんと寝てたのだろうか?
そういえば漂流2日目にしてようやく4人目の受刑者が目を覚ました、痩せこけて背の小さいまだ幼さの残る少女だ、いかにも生命力に欠ける見た目をしているし、薬の効果が抜けないのも納得といったところ、弱っていたのもあるのかもしれない、ずっとお腹なってるし、だが空腹なのは誰も彼もが同じ、この船の貴重な食料になりうるのは…最初にくたばりそうなこの子だろう、その時がきたら奪い合いが始まるかもしれない、機を見測らなくては…
と思った矢先、予想通り最初に倒れたのは少女だった。
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少女が最初に倒れる、わかっていたことだ。
私たちは気づけばそこにいた、穏やかな波の音を聴きながら、静かな死を待っていた、1人恐ろしいのはいたが。
この船に乗せられた時、同乗した他の3人を助けようという気はなかった、自分にこの小舟でどこかへ行くような技量はないし、その気概もない、もう何もかもどうでも良いという諦念だけがあった、だがやはり目の前で乗組員が死にかけると体が動いてしまうものなのかもしれない、船から飛び降り海に飛び込む。
「逃げる気か!?」
刀の男が叫んでいる、だが今は奴には構っている暇は無い、目覚めた時からずっと海の気配を探っていた、例えそうする気がなくても、船を預かった者としての習慣が体から抜けなかったのだ。
乗組員が倒れた時、偶然魚群が通りかかったのは幸運だった、海の魚を素手で捕まえ、船に数匹投げ込む。
そして船にあがり、1番大きい物を倒れた少女の顔に差し出した。
「食え」
少女は朦朧としているだろうが、今にも意識を失いそうな顔で何かを訴えようとしているようだ。
「生じゃ食えねえだろうよ」
そう刀の男がボヤくと同時に少女は今度こそ意識を失ってしまった、危険な状態だ。
急いでさっきより小さく食べやすそうなものを口に押し込む。
「だから魚を生で食わせようとするな、その見た目でその行動はおかしいだろう」
「……ん、ぐむ」
困ってしまった、この気違い男にツッコミされる時が来るとは……




