私たちは気づけばそこにいた、穏やかな波の音を聴きながら、静かな死を待っていた
「お前達、罪の港を…通ったのか?」
穴を開けると待ち構えていた蟹の魔人が俺たちに問いかける
…罪の港?通ってない、確実に通ってない、というか。
「てめえ俺一人の時は何も言わずに殴りかかってきたじゃねえか!?npc差別か!?あぁん!?」
「どちらにせよ…お前たちは、ここにいるべきでは無い、立ち去れ」
「無視すんな!!」
こいつは俺ではなく残りの3人に問いかけているようだ。
「罪、察するにカルマ値のシステムが無いNPCには関係ないということかな?」
「おぉ!それだな嵐!良かったなカジヤ!差別では無かった!解決だ!」
確かにカルマ値はNPCには無いシステムだ、もしあったらNPCが善人かどうかがストーリーのネタバレになるかもしれないからな、だがそうだとするなら…
「じゃあ俺の事を攻撃しようとすんじゃねえよ…!!」
この蟹魔人が何を考えているかは知らんが、きっちりリスペクトを持った対応して貰わなきゃ困る。
「私を…無視して、会話するなよ?『蟹鎌』」
そういって蟹が両腕を構える、攻撃の準備だろう。
「お前が言うな!」
繰り出された蟹の鋏振り下ろし攻撃を以前『ヒール』を付与した『鎌形刃テックパーツ』で受け止める、これ意外と強かったので、『ど白一刀』『阿修羅手裏剣』に次ぐ三種の神器とすることに決めた。
「くらいやがれ!」
攻撃を受けたカマをすぐさま攻めに転用、鋭い斬撃を一発蟹魔人の腹にぶち込む、が。
「なにか、したか?」
「ほぼ効いてねえ!見た目通りだな!」
実際全くの無傷という訳ではないのだろう、だが目に見える傷はなし、機敏では無いが防御力は高いタイプのボスか?
「じゃあこっちはどうだ?阿修羅手裏剣 de 『白刀斬り』!」
すぐさま阿修羅手裏剣に持ち替えて投擲する、防御力を一部無視する阿修羅手裏剣にクリティカル確率の高い白刀斬りの組み合わせは当たればただでは済まない一撃だろう、これならどうだ?
「無駄だ、『蟹並』」
蟹魔人が両手を組んだかと思うと、それを振り下ろす、すると衝撃波が飛んで手裏剣が地面におちてしまった。
「マジかよ!でもまぁ当たりゃ効くってことだろ?大したことなさそーだな!」
「なるほどな、では…日付が変わるまで後2分だ!」
「…?お前たちの…暗号か」
テルの報告は1件今関係ない意味不明な話に思えるだろう、だが、俺たちはそれを察する、テルが持つ矢は一日1回しか本来の力を発揮できない、その一日が今終わるのだ、それまでの時間を稼げという訳だ。
「では俺の渾身の一撃を叩き込むぞ!『蝦蛄殴!』」
蒼月が足を開き構えを摂る、すると奇妙なことに、蒼月の手のひらから水が湧き出る、その水が腕を伝い、蒼月の腕が薄く水を纏った状態になる、普通の人間が言う渾身の一撃、強い攻撃にはタメが居る、その時間を稼ぐのが俺たちの役割、俺は少なくともそう思っていた。
「何やるのか分からねえが…俺が前に出る!て、マジか!」
タメの時間と呼べたのはその水が腕を覆うわずかな時間だけ、驚くべきことに俺が動く前に蒼月が動いたのだ、魔人を沈めるための一撃、遅い拳より速い拳の方が強いに決まっている、蒼月の拳は速かった。
「させると…思うか?『蟹鎌』」
だがそれよりも素早く蟹魔人は動いた、与えられた僅かな時間で行える完璧な対処、最小限の力で僅かに鋏を振るいパンチの軌道を逸らす、その影響を受けた蒼月の拳は空を切る…はずだった。
「横から失礼、『気裂き・業障』」
嵐が奮った刀は、いつものように空間を巻き込み風を巻き起こすのではなく、薄く宙を切る、蟹魔人の鋏に向けられた大気の揺れがほんの少しだけ動きを狂わせ、その結果、蒼月の打撃が一切のブレなく命中する。
「グ!?」
蝦蛄殴と呼ばれた技は僅かなタメにもかかわらずその威力は破壊的だった、一流の格闘家ですら比較にならない速さの拳が蟹魔人の胸部を強く打ち付け昏倒させる、一瞬意識が飛んだのか、一切の動きを止める蟹魔人、だがそれで終わりではなかったのだ。
「ハジケろ!」
蒼月の腕に纏った水が凄まじい圧力を受けて沸騰するのだ、一気に発生した気体の爆発、2度目の衝撃が蟹魔人の体にぶち当たった。
「グアァ!!」
「くっ…!あァ腕が痛い!!」
同時に2つの悲鳴が聞こえて蟹が大きく仰け反る、倒れそうなところを鋏を杖にしなんとか耐えるが、既に臨戦態勢は解けてしまっている、一方蒼月の方も見るも痛ましい腕の惨状と共に苦悶の表情を浮かべている、どうやらそう便利な技でもなかったようだ。
「蒼月の痛みを無駄にはすまい、今が好機!」
「ぼっこぼこにしてやるぜ!」
俺と嵐は体制を崩した蟹魔人に一気に距離を詰める、嵐が立つのもやっとな蟹魔人を刀の鞘でフルスイングし押し倒す、そこに寄っては殴る蹴るの暴行を加える俺、何故か蟹は抵抗もせずに横たわっている。
「おいおい捨てゲーか?決めろテル!」
「言われなくとも、だ『龍牙』!」
洞窟の壁面を焼き焦がす爆炎が巨大な矢となって現れ、まな板の上の蟹を一瞬で調理済みにする、いやそうは言えないか、火力が高すぎてもはや炭化の域だろう。
「もらったか!?」
「じゃあもらってないな?カジヤ」
あぁそうか、じゃあもらってないかも、もらったか?って言っちゃうと貰ってないんだよこの世界では。
「お前たちはここにいるべきでは無い…」
蟹魔人がゆっくりと起き上がり、それと同時に遠くで岩を削るような音が聞こえてくる。
「勝手に起きるな」
そう言って嵐が蟹魔人を足蹴にしようとするが、蟹魔人はそれをものともせず起き上がり遠くから聞こえてくる音の方向へ向かっていく。
「この音は…なにかがこちらへ来ている」
「なにかってなんだ?テル、何が来てる?」
「多分、船か?」
「船?ここは洞窟だぞ?」
嵐の言う通り、ここは洞窟「あぁああ船来た!船来てるぞ!?」
マジで船が来てる、大型帆船だ、クソでっけえ、風もないのに帆船である、というか海もないのに船である、岩を泳いでくる、というか削って進んできている、動力はどうなっているんだ。
「さらばだ、何も知らぬ者どもよ」
蟹が大きく跳躍し船に乗り込んだ、船の中には愉快な海の仲間達が多く乗せたままこちらへ突っ込んでくる。
「第2形態か!?かかってきたまえ!」
「うおお!やってやるぜえ!」
「…?船と戦うのにギミックとかは無いのか?ん?このまま戦うのか?」
「こういう時にアーチャーが弱気でどうすんだテル!行け!龍牙だ!」
「ない」
だよな。
「『気裂き』!」
嵐の斬撃が船に飛んでいく…が当然なんの効果もなく弾かれる。
「…あれ止まらないのか?来るのか!?」
船の正面に備え付けられた大砲が怪しく光る、そして蟹魔人による号令が下された。
「『蟹工船』!」
「ここはどこだ!?私は誰だ!??これはなんだ!?一体どうなっているんだ!?」
嵐が狼狽えている、ありのまま今起こったことを話すぜ。
俺はNPC鍛冶屋、カジヤ。
最近知り合ったみんなとダンジョンを攻略しに行って、蟹ずくめの男のボス戦現場を目撃した。
ボス戦に夢中になっていた俺は背後から近づいてくる帆船に気づかなかった!
俺たちはその帆船にビームを撃たれて、目が覚めたら…体が縮んでしまっていた!!!
何を言っているか分からねーと思うが俺も何があったのか分からなかった、しかも俺は気づけば全然知らない場所に、リスポーンしている。
「船の上…?」
辺り一面海しかない小舟の上にいる。
「ここはどこだ!私は、お前達は誰だ!これはなんだ!一体どうなっているんだ!?」
俺以外に船に乗っている3人の見知らぬ人物がなにか叫んでいる。
「これ…どうすればいいんだ?というかお前たちは誰だ」
目の前の見知らぬ男が言った、俺の体は自分のものじゃない体になっている、小さい子供の姿だ。
「わかんねえよ…てか絶対お前らあれだろ、嵐とテルと蒼月だろ、しょうもない小芝居すんな。」
バレたか、と言わんばかりに肩をすくめる男、アホどもが
そして俺は荒木剛昌、鍛冶屋だ
【ユニークスキル】
『蟹鎌』腕に着いたハサミでの高威力の近接攻撃、高確率で首切りを付与する。
『蟹並』ハサミで発生させた衝撃波で飛び道具をひとつ打ち消す。
【スキル】
『蝦蛄殴』魔力をちょびっと、鍛え上げられた肉体と類まれなる武術の才覚を用いなければ完成しない大技、弾性エネルギーで拳を打ち出す、威力が凄まじく出も速い、2度の衝撃を起こす特殊効果付きだが、使うと大きな自傷ダメージと共にしばらく腕を使用不可になるという制約がある、何より痛い、人間はシャコじゃないんだから、普通はこんなことできない、だから痛いんだ…
【装備】
『鎌形刃テックパーツ』
武器としての性能は中の上と言ったところだが悲しいことに伸びしろがほとんどない、強化の余地がないためそれを考慮するとわざわざ武器として用いるメリットは無い、と見せかけて意外なことにすごく頑丈で硬いというメリットがあった、これは便利な盾である。




