労働!今日も労働!毎日労働!死ぬ気で働けえい!働かぬ者食うべからずだ!
『私たちは気づいたら船の上だった、波の音、騒々しい怒鳴り声、そこは別世界のようで、しかしそれでも平穏の延長線上に過ぎないだろう』
「舐められたままでいいと思ってんのか?」
「ん?んむむ、んも、誰にだい?カジヤ君」
嵐が両手に持っていたキッシュを次々自分の口に詰め込みながら、その合間に俺の質問に答えた、テルと蒼月は答えない、こちらもやはりキッシュを咀嚼するのに忙しいと言った様子だ、それが問題なのである。
「カニにだ」
「んむ、んんんも」
「食ってから喋…食うのをやめろ!」
「んぐ!ん、舐められたままと言うのはどういうことだい?カジヤ君」
「俺たちはこのダンジョンにカニを狩りに来たのに、特に理由もなく腹が減ったからと言って飯を食い始めた、そして今カニは俺たちのことを敵だと認識してねえ!見ろ!」
俺が指さした先にいたカニが自分に注目が集まったことに驚く、そしてこちらにピースサインを向けたあと土に潜って帰って行った、逆に言えばついさっきまで俺たちを脅威だと思っていなかったということだ、なんなら今も思っていないだろう、ヘラヘラしてたし。
「だがカジヤ、腹が減っては戦は出来んと言うだろう、いざと言う時弓を引く指が空腹で震えてしまうかもしれない」
「そうだぞカジヤ!この食べ物は美味しい!ははは!」
「それになんかこのダンジョン入場料を払わなくて良くなったしね、いい事あったら祝わなきゃ損だよ、ねーみんな」「「ねー」」
「ねーじゃねー!」
確かにそれはいい事かもしれん、俺が白刀修練場での修行を終わらせて彼らと合流し、このダンジョンの探索を再開したあとの話だった、タイムリミットギリギリまでマッピングを終わらせた後のことだ、皆で門に帰るとなぜか門番が居なくなっていたのだ、それどころかクロト財閥の職員1人もいなかった。
そのため入場料がかかることも無い、実質無料で入れる(後で怒られないのか?)上に時間制限もないという事実が俺たちから緊張感を奪った、その結果俺たちはこうして空の見えない洞窟の下ピクニックに興じているというわけだ。
「助けてくれッ!!!」
「ほら!あんなふうに緊張感を持って探索に挑むべきだろ!」
遠方から助けを求めて叫び声を上げている男がいる、制服を着用していることから恐らくクロト財閥の職員だろう、雰囲気からして俺達の無銭入場を咎めに来たということでは無さそうだが…
「え?あれは誰だ?緊張感というより何か危機を訴えているように聞こえるが」
「ふむ…さらに前方にキラーテックが見える、襲われているのかもな」
テルが目を凝らして確認する、財閥の男はやたらめったらに走って逃げているようだ、俺たちを認識してはいないだろう。
「なに!?キラーテックとはなんだ!」
「お前なんで知らねえんだ…大金持ち歩いてたら追い剥ぎしてくるやつだよ」
キラーテックとはパーフェクトプラネットに存在する勢力であり、その性質は危険の一言に尽きる、鉄の体を持った生命体、とはいえ目的は不明、意思の疎通もほとんど出来ない、唯一奴らについてわかっていることはその出現条件、それは金貨を多く所持している人物に襲いかかり奴らに倒されると金貨をロストしてしまうというものだ。
エンデ商会と仕事した時なんかはよく襲われたものだ、あまりに強くて当時の俺には手も足も出せなかったために、エンデ商会のプレイヤーに任せるしか無かった。
「にしても必死だね、命かかってない?」
「クロト財閥員にとっては金貨は命みたいなものだろう、一人助けと行くか」
嵐が刀を手に敵と向き合う…向き合っているつもりになる。
「…逆だぞ、ちょっと思ってたけどお前耳悪いだろ」
「…」
無言で振り向き今度こそ敵と相対する嵐、キラーテックは既に交戦体制を取れる距離にいる。
『世界の平等にご協力ください』
『世界の平等にご協力ください』
『世界の平等にご協力ください』
『世界の平等にご協力ください』
「むむっ!?素晴らしい…!」
「平等か?確かにな、全ての人間が1本の矢しか持たなければ、世界は平和になるだろう」
「いや!彼らの音声は耳に悪い!非常に不快だ!そしてそれがいい!!」
1匹でも騒々しいキラーテックが4匹も集まり好き勝手に騒ぎ立てるためもはや精神的ダメージを発生させるほどになっている。
「さっさと黙らせようぜ!喰らえ俺様の必殺!白刀斬り!」
1番手前にいたキラーテックを狙って阿修羅手裏剣を投擲する、それに続いて味方達も援護してくれる。
「合わせるよ、『気裂き・業凪』」
「うむ!『鷲の羽撃き』!」
嵐の横凪に放った斬撃と蒼月の拳圧が手裏剣に続き立て続けに機械にダメージを与える。
「やつら全員近接タイプのテックだ!近づかれる前に遠距離で削れるだけ削るぞ!」
「なんで弓使いのお前がいちばん何もしてねえんだよ!」
テルの言うことは間違ってないがやっていることは間違いだろう、手伝え。
とはいえ手裏剣を投げ終わった俺にももうできることは無い、大人しくど白一刀を手に持って敵を待ち受ける、嵐と蒼月に敵を削る役割を任せてテルと一緒に攻撃を止めるために前に立つ。
『世界の平「うるせえ!静かにかかってこい」「『弓転動地』!」
喚きながら俺の方に突っ込んできた人型テックは鎌のような2本の腕をX字に振り下ろしてきた、それをど白一刀を縦に置いて受け止める、テルは隣で芋虫型のテックの突進を上手く向きを変えさせていなしたようだ。
「2人とも完璧だ!行くぞ…『二発大猿粉砕撃』!」
蒼月の両手の筋肉がはち切れんほどに隆起し強く紅潮する、そして空間を揺らす轟音と共に放った2発の打撃が凄まじい衝撃を産んで2体のテックに襲いかかる、それを放った蒼月も反動で吹き飛び、2体の敵も重大なダメージを負ったようだが、少なくともまだ機能停止はしていないようだ。
「っ!?やはり驚くべき硬さだな!!」
「充分だ、『気裂き・双墜』」
嵐が剣を振り上げるとどういう原理かふたつに別れた気が飛び、さらに奇妙なことにヒットの瞬間に強い打撃音が響く、斬撃の効き目が薄いテックに対応したのだろう、相手は2体とも機械の断末魔のようなものを上げて動かなくなったなんともトリッキーなサムライである。
「あと2体だ」
残るテックのうち1匹は先程の2匹より小型の球体のテック、もう片方は今までで1番太く、キャタピラで体を支えている、両手に盾を持っており、後ろのメカを庇うようにしている。
嵐はそれらと戦った経験があるのか、それについての説明をしてくれる。
「面倒な組み合わせだな、後ろのテックは蘇生スキルで倒れたテックを生き返らせようとする」
「俺の矢なら後ろのやつまで貫けるぞ、撃つか?」
「その必要はねえ、見てな、とっておきだ」
インベントリからついこないだ倒した悪魔が落とした刀、『黒刀ナカセ』を取り出す、噴煙を纏った赤黒い刀身に鈍い紅の炎が走る。
「これが黒刀ナカセの能力!」
俺が刀を気合いとともに振り下ろす、刀から噴煙が湧き出て当たりを満たす。
『キラーテック復活進捗50%』
無機質な機械音と共に倒れた2匹のメカの傷が遠隔で修復されている、メカたちは無反応で、味方は困惑している、つまり何も起きていない、いたたまれない空気。
「な、何が起きたんだ?カジヤ君」
「いや、武器説明によると敵のスキルを封じるはずなんだが…」
「それは刀気を用いる能力なのではないか?」
「それだ!何とかしろ嵐」
刀を押し付けると嵐は少し困惑してからそれを構える、このゲームでの刀は刀気という独自のパラメータが存在し、刀ごとの能力や使用者のスキルを使用する際に消費される、刀ごとに刀気の質は違うため、手に入れた刀をすぐに扱えるかどうかは本人の資質によるものが大きいのだが。
「…!はァ!『黒大火』!」
嵐が刀を地面に突き刺すと球場に黒炎が広がりそれがその場の全員を包んだ、球場のメカが復活スキルを使えなくなり停止して動かなくなる、でかいメカも構えていた盾を下ろしただ傍観しているようだ。
「うお!すげえ!多分これだろ!」
「ふふふ、溢れんばかりの力、圧倒的な刀気を感じるよ、これなら私が支持する流派
の最終奥義が放てるかもしれないぞ」
「な、なんだと!行け嵐!やっちまえ!」
「疎まれるは技…『気裂き・断』」
…何も起きない。
「私もスキルが使えないではないか!」
「…おう、このテック片付けるな」
「うむ、俺に任せてくれ、金属を素手で殴る痛みには耐え難いものがある」
蒼月が暴力的な方法で、スキルを使えない上に攻撃手段を持たないテック達を一方的に破壊し、その亡骸を解体していく、それぞれからムカデ型、カマキリ型、ネコ型、カニ型の『テックコア』やそれぞれのパーツが手に入る。
「…これ売れないんだっけ?エンデ商会ですら荷物の邪魔になって捨ててた記憶があんだけど」
「今のところ何一つ使い道のないアイテムだな、そんなものより彼をどうしようか」
テックに襲われていたクロト財閥の職員は気絶して伸びてしまっている、その体にはやつらに付けられたであろう傷が多くやや痛々しい。
「傷が酷いな、出血で死んでしまうかもしれん、だれかポーションか薬草の類を持ってないか?」
蒼月が軽く調べてから言う、傷に詳しそうな男ではあるが。
「俺は持って無いな、体力の予備は心を鈍らせるだろう」
「私も回復縛りをしているからな…カジヤ君はどうだ?」
「は!こっちはド白刀エリートだぜ!みてな!『白刀マスタリー』『エンチャント』『神聖魔法』」
最初の両手が刃物の敵が落とした『鎌形刃テックパーツ』というアイテム、一応武器としての性能があったようなのでその可変性を消費して効果を付与する
「おりゃ!『ヒール』」
職員の体についた傷がみるみる塞がっていく。
「治ったぞ!」
「なに!カジヤ、君はカジヤでもありエンチャンターでもあり神聖魔法使いでもあったのか!?多才だな!」
「いや黄緑、ちげえんだけどな、説明すると長くなるからまた今度な」
「なんにせよ彼が助かってよかった、ここは私のとっておきの超便利アイテムで彼を街まで返すとしよう、『世飼箱の魔法の鏡』」
嵐が丸い鏡を掲げるとそれが砕けて職員の体が消え「うわ壊れる確率0.1%なのに!」まじかよ、え?まじで?
「それあいつどこかに消え去ってねえか?」
「いやそれは大丈夫だ…さあ、もう行こうか」
ようやく皆が重い腰を上げた、探索再開だ。
洞窟の地下2階にたどり着き、前回俺が1人できた場所までたどり着く。
「うむ!明らかに様子の違う壁があるな!」
それまでの洞窟の岩壁とは色が変わっているエリアがあることを発見した、とはいえ一周してみてもその中に入る道が見つからない、外壁が囲まれているようだ。
「正規の方法ではたった1時間の制限でここまで進むことが出来るのだろうか?」
「余裕だろ、この中に入る方法を調べる時間が残るかは別として」
壁抜け無しでもきちんと地形を把握してオリハルコンの誘惑から逃れて敵との戦闘を避けて向かえば、30分程度でたどり着きそうだ。
「それで、この色の違う壁の先には何が居たんだ?」
「あぁ、こないだ入った時には突然襲われたから何が居たか分からなかったんだ、そこでもう1回覗くことにした」
「もう1回だと!?人生に2度目はない!」
「あるぞ、行ってくる」
壁を超えるとそこは大きな広間…ということはなくやはりいつも通り迷宮になっている、地下二階が第2ステージのようなものだと認識していたが実際はここがそれに当たるのかもしれない。
「カジヤー!そっちには何か居たか!?痛そうな罠とか無いといいんだが!」
「おう!そういうのは無い!前は入ったらすぐに敵が来たんだけどな…」
黄緑の壁すら貫通する大声を受けて少しすると、遠方からなにやら走ってくる。
「出やがったな!」
高速で近づいてくる敵は人型ではあるがオリハルコンの体を持っている、ところどころに傷が残る肉体は、しかし強さを顕示するように微かに光っている、人間なら手がある場所には両方とも地面につくほど巨大なハサミがついている、カニがモチーフなのは間違いない、大きな海賊帽子と金の刺繍の入った黒のコートはまるで彼と多くの年月を共にすごし、荒波に揉まれたように傷だらけだ、その目は目隠しに覆われていてその意中を探ることはできない。
「やべぇ!あのカニ魔人速すぎだろ!」
急いで入った壁を抜けて出る、敵は俺が通った壁を切り付けているようだ。
「カジヤ君敵がいたのか?」
「いた!この俺が一撃でぶっ飛ばされるくらい強えんだよ!カニ海賊みたいなやつな!」
「なるほどな、パイレーツ・オブ・カニビアンだ」
テルがふざけ…ふざけているのか?しかも特にこちらの反応を待たずに話を続けていく、まさか真面目に言ってるのか?
「それで、そいつと戦うためにこの中に入るためにはどうすればいいんだ?」
「何か見落としがあるのか!?」
ツッコミなしで話が進行していく、仕方ないから俺も話を進めることにした。
「まだそんなに探索してないし、隠されている何かを見つけられる可能性はありそうじゃね?」
「…面倒だ!最悪1階も洗い直さなくてはならんのだろう!?精神的苦痛には耐えられない!」
「おう、そうか」
黄緑が不満をこぼす、精神を鍛えるのに精神的苦痛は嫌だ…?奇妙な主張だ、だが実際探索は死ぬほど面倒だ、探している間に地形が変わる可能性もある。
「よし、それでは伝統のこの方法で行こう」
嵐が人数分のツルハシを取り出した。
カツン!
「そういえば1時間しかなかったらこの壁絶対壊せねえな」
カツン!
「何度も入れば可能だ!根性しだいということだな!」
カツン!
「何を言っている?1度の挑戦で出来ないならそれに価値は無い」
カツン!
「いや…それ以前にその方法では難しいだろう、なぜなら」
ずごごごごごごごごごがごがご
「…こうなるからだ」
採掘の途中にもかかわらず壁が震え突如洞窟中が震撼し構造が変化していく、最初はてっきり壁が崩れるかと思ったものだがそうでは無い、長居して始めて気づいたが、地下二階は上よりも変化の頻度が激しいようだ、地形が変わるのを何度も目撃するくらいには。
「また耐久値リセットかよ!クソっ!」
俺はツルハシを放り投げた、やってられるかこんなクソゲー。
「ううむ、この洞窟の構造が変化するのも採掘対策だったのか」
「苦痛だ!もう何時間こうしているのか考えたくもないぞ!やめようみんな!」
「おうやめるぞやめるぞ」
「あぁ、また出直して探索し直すとしよう」
俺たちは踵を返してダンジョンから出ていく、何時間も時間を無駄にしたが帰り道がそう長くないのはいい事だ。
「あ〜あー、なんか便利なヒントNPCとか居ねえのかよ、そうだバロランの占い師に占っても…らおう…なんだこりゃ」
ダンジョンから出ると数え切れない程のキラーテックが当たりを闊歩していた、遠くのクロト財閥の詰所の近くに特に多く徘徊している、多人数の財閥職員が詰所で籠城しているようだ。
「何してるんだありゃ」
「…なにか様子がおかしいように思える、彼ら、すごく脅えていないか?」
嵐に言われて見ると、確かにNPC達の表情は暗く、時折施設を破壊しようとするキラーテックの動向に怯えている。
「怖いだろう!変なロボットに殴られるのは痛いからな!」
「設定いじれば痛くなくなる…それに死はそう恐るべきものでもない、ここはアイテムドロップエリアではあるが、荷物をロッカーに預ければ実質ペナルティは無くなるはずだ」
テルの言う通り、モンスターが大量出現するイベントは大して怖いものじゃない、最悪適当な拠点にリスポーン地点を固定してゾンビ戦法で駆除すれば済む話だ、彼らの場合はクロト財閥の施設がリスポーン地点になるはず。
「むむ…とにかく助けるか!?」
「いや、俺は疲れた、帰ろう」
テルがあからさまに嫌そうな顔をする、矢を1本しか撃てない(撃たない)彼にとって多数の敵を相手にするのはストレスのかかることなのだろう、とそうして帰ろうとするテルを見つけた職員が窓を開けてこちらに大声で語りかけてきた。
「そこの冒険者の皆様!もう帰るようですね、しかしその前にここでのおもてなしを受けてください!」
「おもてなしってアイツらなぁ、素直に助けてって言やぁ良いのに」
「ああ、そうだな…いや待て、あれを見てくれ、あれは使えるんじゃないか!?」
嵐が指さした先にはドリルを壁に向け、今にも施設を破壊しようとする一際大きなテックが居た。
【装備】
『黒刀ナカセ』魔神ソーンドが持っていた刀、光の道への怒りを噴煙に、闇の道で生まれた力を漆黒に変えて燃えている、その攻撃力や刀気は生半可な武器では比べ物にならず、強い力を持つものに振るわれれば武器に籠った刀気が魔力、そして炎への姿を変え、その斬撃を避けられたものにも致命傷を与えるだろう、だがこの刀は闇の道で生まれた、それを握るならば、光の道を辿ることは許されない。
装備中、自身はスキルを使用できない(ユニークスキルは使用可能)、また黒い刀気は単純な攻撃だけでなく、周囲の全ての存在がスキルを使用できなくする『黒大火』を使用可能にする。
【スキル】
『二発大猿粉砕撃』両腕をゴリラと見紛うかと言わんばかりに隆起させ、その腕で渾身のパンチを放つ技、その代償として鈍い痛みと短時間のクールダウンの時間を要求されその間腕は使えない。
『気裂き・断』気裂き系統の3つの最終奥義の1つ、とにかく、全力で、斬る、相手は死ぬ。




