今までありがとう、これからは自分たちでなんとかやって行く
前回のあらすじ
イシャと3人の冒険者は蜃気楼の塔の仮攻略を終わらせた、本格的にボス討伐を目指すのは明後日から。
窓から差し込む真昼の日差しを受けて体が暖まってすごく心地良い、昨日『蜃気楼の塔』から帰ったのは真夜中を回った頃だったため起きるのが随分遅くなってしまった。
『散々な目』のギルド拠点のログハウスに置かれたソファーは無駄に豪奢な飾り付けが行われており素朴で清貧あふるる景観にそぐわない…がしかし寝心地は最高だ。
ピッと機械音がなってメッセージが届いたことが通知された、ゲームのウィンドウを開くと寝ていた間に1件のメッセージ、そしてちょうど今ビデオ通話の招待が送られてきたようだ、私は先に送られてきた方から目を通しておくことにした。
『2時にあたしの店に来て、絶対ね』
古い付き合いの友人からの招待だ、今日はちょうど予定も無いし旧友の顔を見るために足を運んでもいいかもしれない。
彼女に会いに行くために身支度を整えながらもう一通のメッセージであるビデオ通話を起動する、この数日ですっかり見知った3人が画面に飛び込んできた。
『見えていますか?聞こえていますか?私です、Gyです、メイと狩るるも居ますよ』
『イシャに会えなくて寂しいよ、明日は一緒に登ろうね』
『…』
私に話しかけてくるGyと狩るるの裏ではメイが1人で敵と激しい戦闘を行っている、黒い仮面をつけているから喋られないのだろう、それに緑色の幽霊剣士達からスキルを使う隙もない猛攻を受けている、さながらル○ージマンション、これまた見慣れてしまった蜃気楼の塔のどこまでも変わらない風景だ。
「君たち、私抜きでダンジョンに潜っているのか?メイ君が1人で戦っているようだが、可哀想だろう」
『メイは強いからいいでしょ、それに敵の攻撃パターンを覚えるためだから』
『そうですよ、実はボス攻略のためにも道中の攻略効率を上げるためコソ練しておこうと思いましてね、明日イシャさんを驚かせるつもりだったのですが、狩るるが美少女成分が欠乏していると騒ぎ始めまして、あまりに喧しいのでイシャさんと会話させることにしたのです』
『構って』
「構うのは構わないが、構うが」
今日は約束がある、今がだいたい11時、約束が2時だから……
「1時くらいまででもいいか?」
『ギリギリ良い』
それから約2時間ほど狩るると交流し思いのほか楽しい時間になった、Gyはたまにしか会話には混ざらなかったが戦う意思は見せなかったため、結局メイは1人でモンスターの攻撃を覚え続ける苦行を強いられることになったが。
「イシャ、誰かと話してるとこ?」
「ん?あぁテンイン、じゃなくてレアちか、最近知り合った人達でな、そろそろ切りあげようと思っていたんだが」
レアちがいつの間にか入ってきていたようだ、真っ黒のローブを目深にかぶって全身を隠した人物も後ろにいる、まるで肌を露出することを恐れているようだ。
『!別の女の子の匂いがする、2人分、どこどこ』
『狩るる、太鼓になっている場合ではありませんよ、そろそろメイ1人では厳しいので私達も行かなくては』
『誰が狩っちゃんだ』
謎会話を一方的に繰り広げて唐突に通話が終了した。
「なんかよくわかんないけど楽しそうでいいね!あ〜これ重いんだよね」
向かいに座ったレアちが持っていた大仰なカマをその辺りに捨てた、後から着いてきた黒ローブはしゃがみこんでカマを見つめては、抗議するようにレアちの方を交互に見ている。
「そうだな、だが金貨集めは芳しくないんだ、蜃気楼の塔に何かあると確信できたわけじゃないし……今日それを確かめられるかもしれないが」
「そんな深く考えなくていいって!最悪エンデ商会とギルド戦争すればいいんだから!」
「そんな勝手なことをしてもいいのか……?」
「大丈夫、私最強だから」
「そうか…」
「…それより最近のイシャいろいろうわの空じゃない?どうしたのかな〜…って」
突然レアちが私の隣までやってきて内緒話をするように顔を寄せてくる。
「絡みですかぁ?」
突然黒ローブが顔を上げて話しかけてくる、とは言ってもやはり顔は隠されているのだが。
「でっどちゃんはずっと黙っててね」
「はいぃ」
「そんな扱いでいいのかその人……というか、君との会話を蔑ろにしたつもりは無いんだ、すまない」
「いやいや!いいんだよ〜?でもどうしたのかなって、心配だしさ、今なんのこと考えてたの?」
「ん…さっきは、そういえばカジヤはどうしているのかと考えた、こういう時突飛なことをしがちだろう?心配なんだ」
「やっぱりね!そんなことだと思ったよ!イシャ!はっきり言うとそれはね……恋だよ」
「恋!?恋ってなんだ!どうして突然そんな話になるんだ!」
「前々から言おうと思ってはいたんだよ、自分で気づくまでじっくり待とうと思ってたんだけど、このまま待ってるとまた何かあった時に後悔すると思ってね」
ほんの一瞬、彼女の顔が暗くなったように感じた、まるで過去に思いを馳せているようだ、今までにも何度かあったが、人間にはいろいろあるのだろうと深く考えずにいた。
「何かって……」
何かなんて起きるはずがない……とは言いきれないだろう、現にカジヤは1度バグを起こして私たちの前から姿を消している、しかし……
「恋…?恋とはなんだ、どうしてそんなことが言えるんだ」
「それは普段の様子とかそういうのだよ!好きでしょカジヤのこと」
「好きだが……普通にな、私はみんな好きだ」
「へえそう?じゃあ今度カジヤに会った時にちょっと意識してみなよ」
「あぁそうするとも」
その瞬間突然空中からカジヤが現れた、あまりの驚きで心臓が止まったかのように感じてしまう。
「確実に今のがボスだな…まあいいや、さあて3日後までどうすっか!カニハサミか、オリハルコンの装備作っか、むむむ」
こちらに気づいていないようなのだゆっくり落ち着いて声をかけることにした、平静を装うが心臓はまるで早鐘を打ったように鼓動している。
「カジヤ、ダンジョンに行っていたのか?」
「あっはは!ボコられて帰ってきたんだ、まあ私もだけど」
「おっイシャ、レアち、そうだぜ?見ろよこの大量のオリハルコンをこの勢いなら、まあ俺の腕次第で1億は行ける!」
「ならダメそうだな…1金貨も得られて居ない私の言えた事ではないが」
「まあまあ!落ち込むなよイシャ!お前がダメでも俺が代わりに2億稼いでやるよ!」
「ひゅう!やるじゃんイケメン」
いつも通りにカジヤと目を合わせることが出来ず目を伏せてしまう、変に思われていないだろうか…と思ったところで少し不思議なものを見つけてしまった、彼が誰かと同行していた証拠…
「ありがとう…だがそんなことよりも、パーティーを組んで行ったのか?」
「おう!まあな!」
「むう…長い髪の毛がついているぞ、女性がいたのか?」
彼の服に着いた髪の毛を取る、この長さの髪はどう考えても女性のものだろう、彼とはかなり交友関係が共通しているつもりだが私に心当たりは無い、最近知り合ったのだろうか。
「おう!いるぞ、嵐っていう侍なんだけどな、超つえーの、楽しかったぜ、でもさそいつやばくてさ、目隠しして地雷原を歩こうとすんだ、仕方なく手を引いてやったりして、他にもおもしれえことが」
何故か、何故かは分からないが彼が知らない人について話すのを聞いていたく無くなってしまい、私は気づけば席を立っていた。
「もういいぞ、私は用事があるから失礼させてもらう」
ちょうど用事があるのだ、私は友人との待ち合わせ場所に向かってギルド拠点を出た、何故か彼の顔を見ることが出来なかった。
【占い館『運命の窓』】
私の古い友人であるメリナは前線都市で占い師の仕事をしている、彼女がオーナーをやっている『運命の窓』という占い舘は白い木造のコテージ風の建物で、屋根はカーブを描く青色、大きな丸い窓が特徴で、その窓からは月明かりが差し込むように設計されている、入口には白いカーテンがふわりと風に揺れており、幻想的な雰囲気を醸し出している、彼女が設計士と120時間打ち合わせて作った渾身の作品だ。
中へはいると室内はシルバーとブルーの色調でまとめられ、床には柔らかいカーペットが敷かれている。壁には月や星に関連するアートワークが飾られ、中央には透明な水晶球が置かれたテーブルとそれとセットになった椅子があり、そこに彼女はいた、なにやら机に並べたものと向き合っているようで、余程集中しているのか私にも気づかない。
「何をしているんだ?私見ちゃいけないやつか?メリナ?」
「……うるさいわねえ、今いいとこなのよ…これピース足りないわよね」
異常な集中力をジグソーパズルに発揮していた、生返事でこちらのことを認識もしていない、つまりチャンスだ!
「……わぁ!」
「!?ちょっと!脅かさないでっていっつも言ってるでしょ!」
「ごめん、面白いから」
「あたしは面白くないって言ってんのよ!まぁいいわ…そこに座りなさい」
そう言って彼女が指した椅子に座る、占い舘に来た客が座る位置だ、以前ここに来た時のことを思い出す。
「それで、前の占いの結果はどうなったわけ?」
「まだ何も見つかっていないし何のクエストも発生していない、一応冒険者のパーティには会ったぞ」
「あぁそう、じゃあそれが"運命"ね、そいつらがよっぽどテキトーな奴らじゃなきゃきっとなんか起きるわよ」
彼女の職業は占い師であり、普段は日々迷える冒険者を導いている訳だが、度々NPCに関する"予言"を夢の中で突然言い渡されそれを伝えることをライフワークにしている、早い話が運営が冒険者向けのイベントを起こすための便利なNPC扱いをされているという訳だ(本人に言うと怒る)
パーフェクトプラネットで発生するイベントの1割ほどは『〇〇はある占い師に予言をされた』で始まるという研究結果も出ている。
何を隠そう私もまた先日途方に暮れていたところを彼女に呼び出され、蜃気楼の党に1億金貨が眠っているという予言を受けてそこに向かうことにしたのだ、もちろん鵜呑みにはせずちゃんと考えた結果だが。
「でもそれって怪しいわね…」
「何がだ?」
「あたしはあんたが1億金貨を手に入れる代わりになんかを引き起こして、それがイベントの発生に繋がると思ってたのよ、でもその感じだとその冒険者もイベントの発生に関わっているってこと」
「つまり彼らと私が蜃気楼の塔で何かをやらかすということか?」
「いえ、というよりは『イシャ』が既に進行中のクエストの必要キャラクターだってことの方が納得いくわ、それなら唐突に村が無くなってあんたが金貨を必要とする事情が生まれたことにも説明がつくわ」
「彼らの進行中のクエストでは蜃気楼の塔が重要で、そこに私も必要だから彼らが蜃気楼の塔を攻略し始めたタイミングで村が無くなったということ?」
「多分、まぁあくまであたしの想像だけどね」
もしそうだとすれば一体私の何がクエストに関わるのだろうか?私である必要性が感じられない、塔攻略でもあまり貢献できていないしな……
「……もしあんたが困ってるならさ、あたしに言いなさいよ、ギミックとかこっそり教えてあげないこともないわよ」
「いや、それは必要ない、私達なら上手くやれる気がしているんだ、それになんとなくは検討が着いている」
それに、彼らと一緒に冒険するのは私にとってかなり好ましい経験だった、もし失敗したとしてもそれも挑戦の1部だろう、まあ行き先が殺風景な塔でなければなお良かったが……
とはいえ本当に失敗すると借金を返せないのでちゃんと困る、その時はメリナに泣きつこう、そうしよう。
「ふうん、まあんなことはどうでもいいのよ、ついでに聞いただけだから」
「?そうか、用件を聞いていなかったな、どうしたんだ?私に会いたかったとか?」
「違うわよ、あんたその感じで彼にも行けばいいのに……これ、このパズルよ、手伝いなさい」
「ん、分かった」
彼女の趣味はパズルだ、壁にかけられた宇宙の景色を模したパズルは横に3m、縦に1.6mもの大きさがありなんと20000ピースで出来ているという、今机に並べられているものはそれよりは遥かに小さいが、やはり大作には変わりない、私とメリナは早速それにとりかかった、単純作業ではあるがハマるとなんとも言えない充足感がある。
「そう言えばこないだカジヤがウチに来たわよ」
「え!?彼がどうしたって言うんだ!?」
「なによ急に、1億金貨稼げないかって聞いてきたから多分行けるって言っといたわ」
「そ、そうか、私について何か言ってなかったか?」
「あ〜〜〜……あんたって数字の6みたいらしいわよ」
「それどういう意味なんだ……?」
「あんた本業はどうなってんの?」
「どっちのだ?」
「職業の方よ、学会には戻る気ないんでしょ?」
「そうだな、今年もなかなか豊作だ、最新AIも失敗するんだなと思うと安心するよ」
「ふうん、いつの世も無くなんないものなのね」
「そうだな、ちゃんと大切なことを書いておいても、読めなきゃ意味ないな」
「ね」
「すみませェん、占って貰えるって聞いたんですけど」
「取り込み中よ、また今度来なさい」
「ダメだろうメリナ、お客さんは大切にしなさい」
「やだ、今日からこの曜日は定休日よ」
「へぇ?ま、いィんですけどね、また来ますよ」
「あぁ、帰ってしまった…君とんでもないぞ」
「ふん、いいのよ、どうせあたしは便利なNPCですから、無限に運営様から仕事が配達されるのよ」
「ごめんって」
「……あ、落とした」
「ちょっと絶対無くさないでよ、終盤で足りないのが1番クるんだから」
「……」
「ちょっとなんで黙るの?ねぇアンタ!?無くして黙ってないでしょうね!ちょっと!」
「いや、多分大丈夫だ、多分な」
「そういえばこのパズル、完成したら何になるんだ?なんか色が明るいけど」
「ピカチュ〇らしいわよ」
「それ雰囲気違わないか?」
「家に飾るわよ」
「完成だな」
「……あたしの目は騙せないわよこのピースだけ品質が違う……あんた"やった"わね?」
「『創造の記録第1章の断片』、私とパズルの作者の合作ということにしよう」
「……まあいいわ、どっちが無くしたのかわかんないしね」
メリナが出来上がったパズルを額縁に入れた。
「あんたもう行くの?」
「うん、明日の攻略に備えてアイテム買っていこうと思って、最低限は必要だろう」
「ふうん、ま、頑張んなさいよ」
運命の窓を出てひと息ついて市場に向かおうとすると突然横から声をかけられた。
「イシャ、探したぜ、どこ行くんだ?」
「カジヤ…市場にな、アイテムを揃えていこうと思って」
村にいた頃は彼がよく私の家にやってきていたのを思い出す、今のように優しく話しかけてくれていたのだ、顔が熱くなる、空が赤いから多分バレてない。
「あ〜、俺も持ってねえや、一緒に行こーぜ」
「うん、行こう……カジヤ」
「なんだ?」
「いや、何も無い、呼んだだけだ」
「なんだよそれ」
カジヤと2人で歩くのはずいぶん久しぶりだ、私は今までには無かった感情が芽生えているのを悟った。
【神聖魔法】
『クリエイト』どんなものでも作り出す魔法、作れるのは手のひらサイズまで。
【システム】
『アイテム』ダンジョン毎に持ち込めるアイテムの所持数制限が決まっている、ポーションをがぶ飲みしながら攻略することは出来ない。
『メリナの占い』冒険者は彼女に占いを乞うことで未来を知ることが出来る
『市場』冒険者やNPCがアイテムを売り買いしている、通常はグルグル金貨が用いられるが、バロランではヘニョヘニョ金貨も流通している。
【光】
『空が赤い』夕方くらいになると空が赤くなる
【口袋妖怪】
『ヒ〇カチュウ』電気ネズミホ〇ケモン
【客】
『なんか追い返されたんですけど』また今度行きましょうね、お姫様
【娯楽】
『ジグソーパズル』枠内に四角形のピースをはめていって絵を完成させる、正しい絵にならないならハマらないようになっている。
【伏線】
『エピソード27』この話、これでもかってくらいばら撒いておいた
『大爆発』この伏線は爆発するぞ、この小説が振り絞れる最後の力といっても過言では無い、うん
『後付け』度々後付け設定を行う度矛盾が生じる、そういう時どうするか?改稿、これが答えだ。
【故事成語】
『蛇足』必要のないものを付け足して品質を下げること、小説のあとがきがこれにあたる
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