陽光を遮る天蓋で覆われた大地の底に這う怪物
前回のあらすじ
ムラビトは対人戦の5Killルールの大会、『PPT』に出るために対人戦のチームを探すことにした。
掲示板に張り出されていた募集に片っ端から応募していく、そしてそれらの面接ほぼ全てに惨敗、どうやらMP1462(最初は1500だったが負けて下がった)の初心者を受け入れるチームなどないらしい。
既に日が暗くなっていたが気を取り直して最後のチームの面接場所に赴いた、これでダメならMPを上げるか金貨稼ぎは別の方法を探すしかない、そんな後ろ向きな考えと共に到着した、部屋では2人の男性が何かについて話し合っているようだった、俺はノックをしながら話しかける。
「メンバーに応募したムラビトです、よろしくお願いします。」
「はい!入ってください!今日からよろしくお願いします!俺は有橋有橋、こっちは辺銀ね」
「よろしく、MPは?」
部屋にいたのは男性と少年だった、そのうち辺銀と呼ばれた少年からマズイ質問が飛んできた、俺は気合を入れて答える、世の物事の全てを気合いで解決したいと俺は思っている。
「1462です!でもやる気はあります!」
「低っ!…じゃなくて!!いいですね!1500取れるように頑張ってるんだ!」
「何戦ぐらい行ってそれ?」
「…1戦です!」
まだ一戦しかしてない初心者を暴かれてしまった、もう無理か?
「初心者ってことですね!なるほど道理で」
「まあ1ヶ月あるしな、最低限レベルにはなるだろ」
何とか行けそうだ、拾う神ありってやつかもしれない。
「よかった!よかった!今日ここで一日中雑談してるだけになるかと思った!」
そのセリフを聞いて少し引っかかる、他のチームに面接に行った時は同じく面接に向かう人がそこそこ居た、集団面接もあったくらいだ。
「そんなに応募する人来ないんですか?」
「ん?まあね!気にしなくていいよ!それよりムラビトさんは対人やってる人知り合いに居ますか?なかなかメンバー集まらなくってね!」
俺は思考をめぐらせる、いた気がする…村にはスタジアムが無いからいるわけなくて…昔一緒に大会に出たRONは人じゃないカスだからからカウントしないとして…そこまで考えてやっと思い出した。
「あ、一応1人います、同じギルドのちょこさんって人なんですけど」
そういうと2人は動揺したかのような反応を見せる、辺銀さんが慌てて聞いてきた。
「ちょこってあのちょこ?MP5000ある?」
「はい、多分その人です」
「すごいじゃん!その人にPPTどこのチームで出るか聞いてみてよ!あわよくば…」
「バシ、ムラビトにもちょこさんとの関係があるだろ、出来たらでいいよ、それよりこの後空いてるか?軽く5Killを教えてやるよ」
「大丈夫です!よろしくお願いします!」
部屋を出ていく辺銀さんに続いてついて行くことにした。
スタジアムの待ち合わせ室を出て試合の受付に行く途中、ご自由にお取りくださいと書かれた本がある、俺は何となく手に取ってみた。
「…『パープラ偉人伝・5Kill編』?」
「おいムラビト!早く来いよ!」
「あ!すみません!」
「敬語いらないから、試合始まったらvc俺にしか聞こえないようにパーティーチャットにしとけ」
「ああ、分かった」
俺と辺銀のふたりがパーティーとして登録され、マッチングが始まる、数秒も経たずに5Killの試合が始まった、俺はチャットをパーティーだけにして話しかける。
「これで出来てるか?辺銀、でもわざわざ聞こえないようにする必要あるのか?」
「出来てる、この時間帯の奴らは地下太陽の光を浴びてないから情緒が不安定なんだよな、NPCには関係ない話だろうけど、それにルールを今教えてるの聞かせたらあいつらブチギレるだろ」
「あ、現実は夜なんだ、でも見た感じみんな普通っぽいけどな」
味方の2人のプレイヤーはオープンチャットで挨拶など行っている。
「よろしくお願いします雑魚ども」
「よろスク水!」
一瞬で普通じゃなさを見せつけてきた。
「なるほどね、こりゃやばいな、バケモンいるし」
「ムラビト、どっちのこと言ってんの?」
「両方バケモンすぎるだろ」
『yorosiku』
そうやって挨拶がチャット欄に表示されたのは3人目のプレイヤーの名前だ。
「なんで喋らないんだろ?」
「さてね、声聞かせたくないとか?ほら装備買え、ステ振りも忘れんなよ?」
「ステ振り?」
「ステータス1で始まるからな、ムラビト振らずに行ったのか?そりゃ負けるな、格闘家やるなら速度は多めに振っとけよ」
「なるほどね、まあ適当にやるか…こんな感じで、装備は何買えばいいんだ?」
「まぁランクに即席パーティーで行くならまずボム買って…適当に装備揃えて回復用のポーションと監視用のトーテム1個も買えば波風は立たないだろ」
「トーテムって何?しかもそんなに買ったら装備全部は揃わないけどいいのか?」
「監視カメラみたいなもんでな、トーテム置いたらその場所の視界が取れる、装備はガチガチに揃えても死ぬ時は死ぬしな、ある程度揃えばそれより有用なアイテムは多い」
「なるほどね」
俺は言われた通りに装備を買い準備を終える、するとさっきまでは悩んでいたから聞こえなかった会話が聞こえてきた、残りの3人は仲良く談笑していたようだ。
「カタカタチャット打ってねえで喋れや雑魚」
『oremp2600dakedo』
「mp2600あって報告の重要性わからんか?」
『mojidejyuubundaro』
「読みづらいしお前タイピング遅いんだよ雑魚、ていうかなんで素手のやつ2人もいるんだよそんな要らねえだろ雑魚ども」
『oresokugaisitakarasoitugawarui』
…ん?いつのまにか俺に飛び火してる?
「素手のビルドはスキルっていう要素が無い対人じゃ火力が低くなる上そもそも敵と射程差があるから難易度が高い、武器持ってるやつに簡単に殺されるイキリプレイヤーから転じてトロールのイメージがあるのは事実だ」
「マジかよ知らなかった、でも俺これ以外できる自信ないんだよな」
「まあいいだろ、無視しとけ」
「てかそっちの2人も喋らねえじゃん、何やってんの?」
「そうだぞお前ら挨拶くらいしろよ、よろスク水も言えねえのかよガキが」
どうやら本格的に着火されたようである。
「ひぇぇぇええ意味わかんない絡み方される…」
「ガチでうるせえな、邪魔だから全員ミュートしとけ」
「ほい」
俺は3人をミュートにした、彼らの声やチャットが届かなくなったはずだ、それと同じくらいに準備時間が終わったようでエリアの制限が無くなり行動可能になる、3人も動き始めた。
「ようやくゲームが始まるのか、無駄にエネルギー使わされたな…」
「そうだな、とりあえず足音消して俺についてこい、攻撃側は塔に近づくところからだ」
「了解」
俺は片手剣と盾を装備した辺銀の後ろについて行く。
「爆弾設置までの猶予は3分間、設置してから爆発するまで1分だから1ラウンドは最大4分ということになる、ちょっと止まれ」
「いて、なになに?」
「基本防衛は壁裏や曲がり角、扉なんかから奇襲してくる、それの対策にトーテムを投げて視界を確保するんだ、使い捨てだから考えなきゃ行けないけどな、マップ見えるか?今俺たちはこのマップのAttackBaseからCenterBaseの間の通路にいるちなみに今後場所の名前はアルファベット2文字で言うからな、大文字になってる部分だ、覚えろ」
「お、おう、わかった」
「CBの敵が待ち伏せしてる可能性がある、そういう時はトーテムを投げて索敵する、トーテムから見える位置に敵が居れば自動でマップに映るってわけだ」
そう言いながら辺銀は手にしたトーテムを投げる、木で出来た四角形の箱のようなアイテムで顔が彫られている、それが置かれるとマップのトーテムの視界に当たる部分が半透明に青く光り、CB全体やCSとRLの1部に敵が居ないことが確認できた、よく見ると俺を含めた味方のプレイヤーの視点も可視化されている、現在俺たちはCB AB間に2人、RLに3人という配置になっている。
「これでCBは安全ってことが分かったってこと?」
「そうだ、だけど敵に弓使いが居たらCSから矢が飛んでくるかもしれん、射線には入らないようにしとけ」
「了解」
俺たちはCBに突入して様子を見る。
「味方がCBに敵が居ないのを確認して上がってる、RLを通ってRTの塔を折る気だな、俺たちはアイツらの設置が上手くいくかを見つつCBで待機するぞ」
「分かった」
マップの3人の挙動に注目する、3人は少しづつ進んでいって、RLからRSが見えるようにトーテムを投げた、するとRSからRLを待ち伏せしていたプレイヤーが2人、LSの中間ぐらいに居た相手が1人の計3人がトーテムに映った、それを見て味方の3人は即座に敵の2人に襲いかかった。
「まじか!今急げば挟み撃ちできるんじゃないか!?」
「無理だ、CB入口からRS奥まで行くのはさすがに時間的に厳しい、それにCSは十中八九トーテムで視界が取られてる、情報戦で不利に回りたくない、それより多分残りの敵はDBだな、ムラビトはLLを通って足音消してLS前で待機しろ、ただLTから見えないようにしておけよ」
「わ、わかった!」
俺は言われた通りに1度戻ってABに行き、そこからLLを上がっていく、LTから見えないギリギリまで前に進んだところで、RSで起こった戦いに決着がついた、どうやら味方の3人は全員倒れたが、代わりに敵の2人も倒れたようだ、俺は息を潜める、トーテムに映っている情報によると敵はこの壁の裏にいるのだ。
「3対2で引き分けになったのか…」
「違うな、今味方が観戦から話してるんだが、LS奥の奴は弓使いらしい、実際は3対3で戦ってたって訳だ。」
「なるほどな、ともかくこれで2対3か、どうすればいいんだ?辺銀」
「さっき味方が話してたんだが、LSにいるやつは弓使いらしい、まだトーテムに映ってるだろ?壁の裏だ、いいか?今から『アイソレーション』ていう戦術をやる、誰かが敵をブロックして、味方と敵の1on1を作るっていう動きだ、今回の場合俺が2人止めてお前が弓使いと戦う、至近距離では弓より素手の方が圧倒的に有利だ、一気に近づいて殴り倒せ」
「分かった、よし!やってみるよ」
辺銀がCBからCSを通ってDBにたどり着く、辺銀が自分の視界で確認したところ彼の予想通り敵の2人はDBで待機していたようだ、それと同時に俺はLSの敵と相対する。
弓は近くの敵に対し極端に弱い、そのため俺が走って一気に距離を詰めようとしたところ弓使いの相手が矢を放ってきた、俺はそれを腕でガードして受ける、体力のダメージは大したことないが出血が付与されて腕の操作にペナルティが入る、しかし俺はそのまま突っ込み敵が次の矢をつがえる前に接近戦に持ち込むことに成功する、それに対して弓使いは弓を捨て素手で立ち向かってくる、俺は上手く動かせない腕の代わりに足技で弓使いの足元に蹴りを入れて体制を崩し、次に回し蹴りでダメージを与える、弓使いはダメージを受けて膝を着いたのでキックでトドメを刺した。
「弓使い倒したぞ!辺銀」
「ダウンしたって言うんだ、覚えとけ、ポーション飲んでからこっち来い、2対2作るぞ」
マップを見ると辺銀は後ろ向きに後退してCSからLSに入ってくる、敵がそれを追って来ている、到着するまで時間がありそうなのでポーションを飲むと体力が少しづつ回復していく、腕のキズも塞がりそして到着した辺銀と俺、敵の2人の2対2で向かい合う。
「行くぞムラビト、これに勝ったらラウンドが取れる」
「了解!」
結果から言うと、その試合に俺たちは負けた、対人戦の戦いは思ったより難しく、剣を持った相手に近づくのも難しい中、辺銀との連携も上手くいかずに俺が先にダウンしてしまった、観戦モードに入りしばらくのあいだ辺銀の善戦を眺めていたが2対1が厳しいのとさっきアイソレーションを引き受けた時に受けたダメージが残っていたためにダウンしてしまい。1ラウンド目を取られてしまった、その後の2ラウンド目も散らばって守りに着くも敵の奇襲を受けて早々に俺がダウン、人数差を活かされて負けてしまったのだ。
その日は後何戦かしたが何ラウンドかは取れても最終的に勝つことは1度もなかった、仕方なく一旦終わることにして俺達は帰ることにした。
「ごめん辺銀、俺のせいで全部負けちゃったな」
「気にしなくていい、初心者だろ?まだまだ時間はある、じゃあな、また練習しよう」
そう言ってくれた後辺銀とは別れた、俺は家が無いためとりあえずギルドの拠点に戻る、ソファで眠ることにしてふと思い出して本を開いた、今日手に入れた『パープラ偉人伝』だ、5Kill編と書かれたそれを開くとこんな書き出しだった。
『パープラ偉人伝はパープラ内に潜む悪質プレイヤーの名を完璧書院が調査し、記したものである、心して見よ、そして対策するのだ、今回は対人戦の5Killの悪質プレイヤーを紹介する』
そしてずらずらとプレイヤーの名前とそいつが何をやらかしたのか等が記載されている、そして奥に進むと『超危険人物』と書かれた項に入る、そこにはRONの名前もあり、まあ当然だなと納得したのだが……
「…『辺銀』『有橋』」
俺が入ったチームの2人の名前も見つけてしまったのだ。
『有橋:5Kill界隈では知らぬもののいない有名なトロールプレイヤー、普段はMP2500帯程で聴力に非常に優れており索敵を得意とする、反面主に装備やアイテムでふざけていて体力全振りメイジや、ポーションがぶ飲みアタッカー等、勝つ気のないと思えるビルドを組みながらゲラゲラ爆笑している、大会にて2対1で戦えば勝てるだろう場面で味方を殴り倒して「わざわざ命をかけた決闘に手出しはいらない!」と言い放ち突貫、敗北したことが話題になり一時期『手出しはいらない』というセリフが一世を風靡した』
『辺銀:MP2900帯程でプレイしている、5Killの立ち回りについて詳しく、高度な戦略を使いこなすが、面倒になるとフィジカルで解決する傾向にある、連携の取れなかった味方に対して結果論を用いた精神攻撃をよく行うため非常に揉め事が多い』
となかなか香ばしい紹介の仕方をされている、俺は2人のチームに人が集まらない理由を知ってしまった。
「不安要素多すぎだろ…優勝できるかな…」
みんなは日光を浴びて正常な脳の働きを取り戻そう。
【ゲームモード】
『5kill』5対5で戦うPvPルール、全てのプレイヤーは一定の金貨で買える装備と平等なステータスで勝負する、自分が元々持ってる装備やアイテム、スキルなどは使えず純粋な通常攻撃や魔法のみで戦わなければならない。
勝利条件は敵を5人全員倒すか、爆弾を設置して爆破、もしくは塔を守りきること。




