わざわざ命をかけた決闘に手出しはいらない
4億金貨もの借金を返すために、私はPKという手段を取る事にした、プレイヤーキル、人間は大抵の場合モンスターより多くの金貨を持っている、狩場に選んだ『人魔皆倒の腐剣山』には数万本の朽ちた剣が突き刺さっている、いくつもの屍が残した呪怨が草木を枯らし野生の生き物等居ない不毛の山岳を生み出した。
人類の領地の一端である前線都市と魔族の領地を隔てるこの山は幾度も争いが行われてきた場所であり、ゲーム的には魔界を除く危険度最大のエリアであり、ここや魔族の領地、魔界、ダンジョン等では死亡してリスポーンする際にその時所持していたアイテムや金貨の大半をドロップしてしまう。
モンスターに殺された場合はその価値ある金貨はまるで蜃気楼のように消えてしまうだろうが、プレイヤーを攻撃すればそいつが持っている金貨を得られる可能性があるということだ、人間と魔族の土地を繋ぐ唯一の通り道であるここは、それ故に伝統あるPKの名所なのだ。
というわけで私は夜の剣山の真ん中で心を躍らせ待ち続けている、獲物と出逢えたそのために生まれてきたと思えるその時を。
「でも暇すぎるな〜」
特にやることもないので何も考えずに適当にその辺にある剣を抜いてみる、さっきからやっているが『朽ちた剣』だの『錆びた剣』だのしか手に入らない、そこそこ強い剣が抜けたという情報もあるのだがどうやら相当低確率のようだ、とはいえこのような使い道のないアイテ厶を持っておくことも悪くない、もし万が一返り討ちにあった時に落とすアイテムの抽選で重要なアイテムを失う確率を下げられるのだから。
「『腐食した剣』、『程度の低い鉄剣』えっ新品なのに弱い、なにこれ」
ゴミを掴まされた回数がいよいよ3桁に突入するかと言ったところで、遠くから剣がガチリとぶつかる音が聞こえた、待ち望んでいた獲物の気配だ
「きたきたなんかやってる!『爆縮地』!」
槍を地面に叩きつけて爆発を起こしその反動で音が聞こえた場所の近くへ瞬間移動する、地形に隠れて様子を伺うと、そこには2体の黒い鎧を着た騎士と1匹の悪魔の番犬に襲われている馬車がある、エンブレムを見るにエンデ商会のものだろう。
これはラッキーだ、まさか商品輸送中のプレイヤーを見つけてしまうとは、4人ほどのプレイヤーが馬車を守り、更に4人ほどのプレイヤーが敵と戦っている、黒い騎士が闇を纏った剣で攻撃し犬は口から炎を放射状に吹きかけている、それらが荷物にかからないように守りながら戦わなければいけないために苦戦しているようだ、そもそもモンスターのレベルが高いというのもある。
恐らく馬車を守っているのは戦力に自信の無い商人プレイをしている人達だろう、輸送のために対モンスター兼対PK用の護衛を雇ったというわけだ、護衛の方はかなりの実力を持っているようだが馬車を守りながら戦うのには慣れていないようだ。
分析を終えた私はモンスターとの戦闘の混乱に乗じて仕掛けることにした、一応インベントリから適当な仮面を出して顔を隠すと早速彼らの後ろ側に周りじっくりと近づくと、馬車を守っていたプレイヤーのうち1人を勢いよく突き刺した、彼は驚いて振り返ろうとするもそれすら叶わぬまま体力が尽きて死亡し消えた。そのまま槍を横薙ぎに切り払い2人のプレイヤーに手傷を追わせる、無駄に音を鳴らさないように爆破属性は使わないでおいた。
「なんだと!?PKだ!」
「よりによってこんな時に!?」
「嘘だろ!?こっちはそっちに構えるほど余裕が無い!そっちで何とかしてくれ!」
「何言ってる!?なんのために金払ったと思ってるんだ!?」
「クソっ!やるしかない!」
前でモンスターと戦っている4人は後ろには来ないようだ、商人の3人が覚悟を決めたのか各々の武器を構えて向かってくる、しかし連携が取れておらず動きがバラバラだ、これでは1対3ではなく1対1を3回やっているのと変わらない。
剣を持った1人を射程の差を活かして一方的に足を突いて倒した、そのまま動けなくなった相手に、目にも止まらぬ2回の攻撃で倒す、次に向かってきた槍使いが武器を振り下ろすが、体を半回転させて躱す、更に回転力を活かして槍を回して攻撃すると、それが相手の肩口に深い傷を与えた、武器を取り落とした所を胸に槍を突き刺して倒す、最後の一人が手斧を投げようとしていたのでこちらから走って向かうというフェイントをかける、焦って今投げようとしていた手斧を半端な姿勢で振り下ろしたのを見て立ち止まり、空振って無防備な敵の首を一振りで裂いた、そして馬車と前の護衛やモンスターたちの戦闘の間に挟まるように立つ、これである程度派手に戦っても馬車や荷物にダメージが行くことはなくなった。
前の4人の内1人が異常に気づきこちらに向かい直すと、仲間に号令をかけた。
「商人が全員やられた!荷物は諦めてとにかく生き残るぞ!」
それを聞いて前の3人も戦い方を変えた、さっきまで敵の攻撃の妨害を重視していたが攻撃が脇をすり抜けて荷物に当たるのを無視して戦うようになり、目に見えて護衛たちはモンスター相手に優勢になる。
「私を1人で止められると思ってる?」
「足止め出来りゃ十分だ!後で4対1でボコボコにして装備売っぱらってやるよ」
「アハハ、今着てる装備じゃはした金にしかならないよ、でも君たちのは違いそうだね?…『爆破一閃』」
槍を横に振り払うとその軌道に立て続けに小規模の爆発が起きる。
「クソっ!爆発で前が見えねえ!」
「何が起きてる!?」
「馬鹿!前の戦いに集中しろ!」
「前ってどっちだよ!」
護衛達は混乱しているようだ、かけ声からその困惑が読み取れる。モンスターや私が四方から襲いかかるために戦いはハチャメチャになっている。
「荷物に被害が行く前にさっさと終わらせてもらうよ!」
「この声…!?上か!」
「『爆心地』!」
爆発で目眩しした私はその直後に跳躍していた、私をボコボコにするとか言っていた男に目掛けて落下し、さっきより1回りも2回りも大きな爆発を起こす、吹き飛ばされた相手に追撃するように槍をかまえ突き出す。
「『爆ぜ風』!」
槍から相手に向けて小さな爆発が道のように現れ、そのいくつかが男に命中した、モンスターとの戦いで疲弊していたのもあり男は体力が尽きたのか倒れて動かなくなり消えた。
私はそれで終わらせずに突き出した槍を振り回す、『爆ぜ風』の爆発が周囲に及び、密度は多少落ちたものの大量の爆発が付近全体で発生する。
「クソ!逃げろ逃げろ!!」
「もうダメだ!撤退しろ!」
「グオオオッォオオォ!」
護衛達は逃げていき、プレイヤーに体力を削られていたモンスター達は全員が倒れた。
「よおし!仕事完了!」
私は馬車を確認した、中身はほとんどが魔族の領土で産出される魔鉱石だ、魔族達は現世の魔鉱石という資源を略奪するために魔界から進行してきたという設定なので魔族の領土からは魔鉱石が豊富に埋まっている。
こういったものは人間の領地ではかなり高く取引される、プレイヤー達がドロップしたアイテムや金貨、装備等をかき集める、今から換金するのが楽しみだ。
「この槍とか結構良さそうね」
今持っている槍は借金を負わされた時に逃亡するのを邪魔した門番を勢いでぶっ飛ばしてしまった時に手に入れた物だ、NPCの振りをするために身につけていたが、性能は大したものでは無い、槍だけでなく防具についても酷いものなため私は落ちているものを羅生門して行くことにした。
「よし!さあ換金タイムね!」
私は意気揚々と奪った馬車をバロランに向けて繰り出した。
【スキル】
『爆破一閃』爆破属性の武器でのみ使用可能、魔力を消費して、槍で斬った軌道に小規模な爆破を行い爆破ダメージを発生させる、槍を長く振った方が爆発が増えてお得。
『爆ぜ風』爆破属性の武器でのみ使用可能、魔力を消費して一定効果時間中槍の攻撃で発生した風圧に爆破属性を付与する。




