返り血が溜まる神秘の泉にて問う声の主
1億もの大金を稼ぐなんて普通のNPCには無理な話だろうな、だが俺様のようなスペシャルな鍛冶屋にとってはわけないこと、グレートな装備を山ほど作って売り捌けば済む話だ、そのためにはプレシャスな素材が必要である、俺様はオリハルコン鉱石を確保するために『幻想希石の大鉱山』というダンジョンに来ていた。
「入場料は100万金貨です……はい、確かに承りました、門を開きます」
今見知らぬ冒険者が入っていった門を管理しているのは『クロト財閥』のNPCだ、クロト財閥管理下のこの鉱山の門は入場料を払わなければ通れない、パーフェクトプラネット内で最も多くの金貨を保有しているという設定のクロト財閥をエンデ商会はいつか破産させてやると息巻いている、運営から無限に金貨を供給されるクロト財閥を破産させられるかどうかはエンデ商会の努力に運営が答えてくれるかどうかにかかっている訳だが。
「へっ!100万金貨ね、誰が払うかあ!とう!」
俺様はダンジョンの唯一の出入口であるはずの門の隣を見つからないように壁をすり抜けて内部に侵入する、今や俺は壁すり抜けバグによりダンジョン攻略の申し子となったのだ。
門を通るには入場料が必要だが門は通っていない、もし職員に詰められたらこれで解決しよう。
「おーし!気合い入れて儲けていくぜえ!!」
ツルハシを片手にテキトーにダンジョン内を練り歩く、お目当てはこのダンジョンの目玉のオリハルコン鉱石そのものである、非常に優秀な無属性装備の素材であるオリハルコンは高値で取引されている素材であり高品質な装備の材料になること間違いなしだ。
「ん、金の匂いすんな、こっちか!」
急いで匂いのした方へ向かう、そこには。
「カニーーーー!!!」
叫び声をあげるカニの生物がいた。
「おう、ハズレだな」
『ダンジョングラブ・オリハルコン』はこのダンジョンにのみ生息するモンスターだ、ダンジョングラブの中にはラージなやつとかマジックなやつとかこいつとはバージョンの違うカニもたくさんいるがこのダンジョンオリハルコンのカニみたいなやつしか住んでいない。
そしてなんとこいつらはオリハルコンをドロップする、このダンジョンのメイン報酬と言えるだろう。
「まあ試しに行くぜ!必殺!『白刀斬り!』」
俺はど白ー刀をサッと取りだし素早くスキルで切りつけるが、斬撃はカニの甲羅に当たるもほとんど手応えなく弾かれ、カニはビビって穴を掘って逃げていった。
「やっぱダメか、まあいいや」
俺の攻撃力じゃとてもこのカニを仕留められない、しかも戦いになるならまだしも、逃げるしな、そもそも相当レベルの高い冒険者が挑戦しても逃げられるかもしれないような相手だし仕方ないのだが。
気を取り直して以前エンデ商会との共同活動でここに来た際に分けてもらった地図を見る、ダンジョンの地図は複製が手間なためそこそこ価値があるのだ、手に入れようとすれば財布に打撃を与えることは間違いない、しかしこの地図がなければなんのヒントもなくダンジョンでカニに出くわしては逃げられてろくに収穫無く帰ることになる、新規に優しくないタイプのラビリンスである。
以前印を付けておいた場所へ壁を抜けて最短距離で突き進む、途中で凶暴なカニに目をつけられたりしたが壁を抜けると諦めてくれた。
「おっ、あったあった」
本命のお目当てであるそれを見つけた、オリハルコンの鉱脈、ツルハシを振り下ろして手に入れる、それが砕けて少量のオリハルコン鉱石になった、それを続けて鉱脈を取り尽くす、もう一個くらい鉱脈があれば装備1個分くらいにはなりそうだ。
「ここまで10分くらいか、悪くないな」
壁を抜けられなければ最低でも30分かかっただろう、その上門を通ったプレイヤーはクロト財閥に特殊な魔術をかけられて1時間でダンジョンから追い出されてしまうのだ、100万払って1時間の間にオリハルコンを集めるというのがこのダンジョンの趣旨である。
「まあ俺様なら壁とおりぬけて入ったし追い出される理由がない!問題ないな!どんどん集めて荒稼ぎしてやるぜえ!」
それから鉱山内の地図にマークをつけた鉱脈を巡ること1時間ほどで追加で2つの鉱脈を掘った、浅い場所の鉱脈が既に誰かに掘られていることが多かったために奥の方へ進むことにしたのだが、進むにつれ他の冒険者なんかと出会うことも減り、普通よりでかかったり別の鉱石をしょってたりするカニが現れたりしたが大抵は会った途端逃げていくし、仮に好戦的なやつが出ても壁を抜けると追ってこなくなったから何とかなった……のだが。
「ガチで!なんなんだこいつはァ!!」
俺は突如出現したこちらを追いかけてくる巨大なカニボールに苦戦していた、デカいカニが何匹か固まってゴロゴロ転がってくるそいつは壁をすり抜けて逃げても壁を掘ってぶち抜いて、再合体して追跡してくる、既に方向感覚を失って自分のいる場所が分からなくなっていたのだが、曲がり角を曲がったところにこのダンジョンの奥の方にしては珍しく冒険者がいた、何故か目隠しをした侍風の衣装の女だ、長い髪をポニーテールにしている。
「おおい!助けてくれ!」
俺はカニボールのターゲットを押し付ける気満々で近づく、侍はこちらに気づいたようでゆっくり歩みよってくる。
「「「カニーーーーーー!!!!」」」
こちらに突っ込んでくるカニボールと俺の間に侍を挟むように動く、これで狭いダンジョンの通路を侍と迂回できないカニボールは戦わざるを得ないはずだ。
「悪いな!恨まないで俺様の囮になってくれ!」
「そうはいかない、君は少しそこで待っていてくれ」
「なに!?え!?なんて言った?今」
予想外のセリフに思わず立ち止まってみてしまう、カニボールはずんずんと近づき侍の攻撃可能な距離まで近づくも、カニボールが侍を踏み潰すかと思ったがなぜかカニボールが侍のことをすり抜けてこちらに向かってくる。
「嘘だろ!?なんでだ!」
侍は幽霊か何かだったのか?とにかく目を閉じ頭を庇って目の前まで迫ったカニボールが俺にどんとぶつかった時、それが勝手に真っ二つに割れた、どうやらあの時通り過ぎる一瞬に侍に斬られていたのだ、カニ達の体から吹き出した大量の血が侍の体を真っ赤に染めている、それをものともしないように侍はその鮮血の泉の中でこちらに問いかけてくる。
「君はこんな奥まで隠密してやってきたのか?」
「……え?あぁだいたいそんな感じだ、それにしてもお前はすげえな」
「ふふ、そうだろう?」
俺様が褒めると侍は綺麗なドヤ顔を決めた。
「ゆっくり話したいところなのだが私はもう時間が残っていない、また明日この迷宮の門の前で話せないか?」
「え?まあいいけど、俺様はカジヤ、NPCだ、そっちは?」
「私は嵐、ではまた会おう」
そう言うと嵐は光に包まれて消えた、1時間の時間制限を迎えた時の現象だ、どうやら俺たちは相当ギリギリで出会ったらしい。
「……う〜ん、まあ今日のところは帰るかあ」
そして俺は気づいた、デタラメに逃げたせいで帰り道が分からない、景色が様変わりしているためもはや地図は頼りにならないし、俺には帰還魔法はかけられていない、結局アイテムを落としてしまうことを覚悟、デスポーンのために自分を殺してくれるカニを探したがこういう時に限って凶暴なやつは見つからず帰れる頃には日付が変わっていた。
【モンスター】
『ダンジョングラブ・オリハルコン』
高い防御力を持ち体力も決して低くは無いために総合するとイカれた耐久力を持っている、状態異常や属性耐性も高い、その上殻の部分はほぼ攻撃無効レベルの性能の防御である。その上攻撃されると途端に地面に潜って逃げようとする、この時殻の部分しか露出しないためいよいよ倒すのは困難、運良く倒せたとして鉱脈を掘るよりも鉱石のドロップは少ない、その割に1部の個体は凶暴で無駄に絡んでくる&すぐ逃げるため日々オリハルコン目当てのプレイヤー達をイライラさせている。
【スキル】
『白刀斬り』剣術を一切知らない人間の斬撃、攻撃の当たった部位などに関わらずクリティカルが発生する可能性があるという特性がある、他の剣術系スキルを学ぶと使えなくなる。




