ワールドを代表するトップギルド
「お前たちはなんのためにバロランに来たんだ?」
弓士の男が問いかける、俺は簡潔に事情を説明することにした。
「あぁ、拠点を無くしたからさ、NPCは拠点がない状態で死ぬと世界から消えるからここを拠点にしに来たんだ。」
「ふうんそうか、だがバロランはNPCの拠点にはならないぞ、じゃあ達者でな」
そう言って男は立ち去って行った。
「え?いや本当だな、バロランを拠点に登録出来ない、なんでだ?」
「私たちは冒険者と違いこの都市を拠点に出来る設定のキャラクターでは無いからということだろうな」
イシャの説明を補足するとこうだ、NPCはそれぞれ自分の設定を持っている、例えば俺はバケモノ村の村人、バケモノ村生まれ、バケモノ村育ち、バケモノ村在住、となると必然的に拠点はバケモノ村になる、バロランを拠点にすると設定に矛盾が生じるのだ。
「俺はバケモノ村の住民だから仕方ないけど、2人もダメなのか?」
「私は職場は別の都市で住所はバケモノ村だ、バロランに定住できる理由は無いな、カジヤもそんな感じだろう」
「まじかよ、じゃあ俺たちはどうすりゃいいんだ?ここは安全エリアとはいえもし今PKにでも出くわしたらやべえぞ」
俺は少し考えて結論を出す。
「ギルドに所属すればそのギルドが所有する土地を拠点にできるはずだ、テンインがどこに行ったか分からないし、先にNPCを受け入れてくれるギルドを探すとするか」
「だったら心当たりがあるぜ!『エンデ商会』ならNPCでも歓迎だろ、金儲けが目的のギルドだし俺も取引したことがある、その時勧誘もされたくらいだぜ」
羨ましい、鍛冶屋と言えば人気NPCだ、戦闘大会でどれだけの戦果を残せばそんな職につけるのだろう、俺なんか今じゃ設定上バケモノ村を開墾しただけのほぼ無職村人だと言うのに、しかもそのバケモノ村は消滅したときた、悲しい。
「なるほど、見る限りあの1番大きな建物がそのエンデ商会のギルド拠点だろうな、テンインからの連絡を待ちながら行くとするか」
イシャが指した方向には確かに巨大な建物があり、俺たちはそこを目指すことにした。
外壁は滑らかな黒い大理石で覆われた建物にたどり着いた。
入り口には巨大なガラスの自動ドアがあり、その上にはエンデ商会のロゴが誇らしげに掲げられている。
ドアを開き入るとビルのロビーは広々としており、床は白い大理石で、豪華なカーペットが中央に敷かれている。ロビー中央には、美しい噴水が設置されており、その周囲にはエレガントなソファとテーブルが配置され、来訪者を迎え入れる。
受付カウンターは磨き上げられた木製で、その背後にはエンデ商会の歴史を示す写真や賞状が整然と飾られている。
その立派なビルに似合わない喧嘩、大声で言い争う男女の姿があった。
「……ムラビト、あれテンインじゃないか?」
「おいマジだぞ!テンインこんなとこにいたんだな!」
確かに2人が言うように言い争っている女の方はテンインだ、俺は近づいて話しかけた。
「テンイン!探してたんだぞ?その人は?」
「ムラビト!なんかこの知らない人が変な言いがかり付けてくるんだよ!」
「知らない人とは酷いですねえ?私どもはあなたの事を忘れることは絶対に有り得ませんよ、レアちさん」
男はテンインのことをレアちと呼ぶ、彼らは一体どういう関係なのだろうか?
「知らないって!私はテンイン!NPCだから!そのレアちさんとは関係ないって!」
「全くくだらない言い逃れですねえ、まさかNPCの振りをして隠れていたとは、しかし証拠があります、これが当時の監視カメラに写った映像ですよ」
「え?」
テンインが見るまに青ざめていく、完全にやましいことがあった人の顔だ、一体何があったのだろうか、テンインが何をしたのか?男の手から放たれるホログラムの映像に注目する。
【かつての前線都市バロラン】
「全く迷惑な話ですねえ、魔王襲来イベントとは、壊れたビルの復旧にいくらかかるやら」
今俺たちの前にいる男がエンデ商会のロゴ入りの倉庫の前に立っている映像だ、それなりに慌ただしくしているようで周りの同じくエンデ商会所属であろう人間達に指示を飛ばしている、遠巻きに見ている先には魔王らしきモンスターが暴れ回っており、何百人ものプレイヤーが戦っている。
魔王は、その存在だけで空間を歪めるほどの強大な力を持っている。その体は巨人の如く巨大で、立っているだけで大地が震え、空気が重く感じられる、肌は漆黒で、まるで夜の闇そのもののようだ、その上に赤く輝くルーンが浮かび上がり、常に動いているかのように見える、だがモヤがかかっているようになっており詳しいことは分からない。
多くのプレイヤーが攻撃を仕掛けるも1部のプレイヤー以外の攻撃は意味をなさないようだ、反対に魔王の攻撃で1度に何人ものプレイヤーが葬られる、即座に都市でリスポーンしないところを見るとどうやらイベント中は復活できないようだ、魔王は既に手傷を負っているがこのままだとさすがに冒険者側が負けるだろう。
男はそれに参加せず迷惑そうにただ見物をしている。
そこにテンインが歩いてやってくる。
「まあまあそう言うこともないんじゃない灰画さん、勝てば莫大な利益を得られるんだよ」
「レアちさんですか、いえ、あれはそもそも魔王の情報をチラ見せするだけの負けイベントでしょう、闇属性の魔法主体の攻撃、と言ったところか、我々エンデ商会としてはその耐性装備を揃えて一儲けしようと算段を立てる、その程度のイベントですよ」
テンインはレアちと呼ばれて返事をしている、間違いなくレアちとはテンインの事なのであろう、そしてレアちに灰画と呼ばれた男はもう既に戦いに興味を失っているようで後のことを思案している。
「まあそう言わないで、不利な点だけじゃないよ?襲撃イベントなら本来の魔王戦の制限人数より多くのプレイヤーが参加出来る、正直結構行けると思わない?商会も本気出せば多分いい線行くと思うんだけど」
「エンデ様はそのような不確実な方法で利益を得ることを嫌います、それに正直我々では微力が過ぎるでしょう、あなたのようなトッププレイヤーこそ戦いに行くべきでは?まあ無駄でしょうが」
「私もそう思う、正直勝てないだろうね……でも例えば商会が火の粉が飛んでこないように今守ってるこの大量の兵器アイテムがあれば勝利は一気に近づく」
魔王は暴れ回って周りの建物に被害を出しまくっている、自然に治るわけじゃないし都市に住んでいる人間は打撃を受けるだろう、エンデ商会は自分達の資材を守っているというわけだ。
「……これらは全て消耗品であり、商会が総力を上げて手に入れた"商品"であると理解していますか?価値にすれば6億金貨相当、不確実な戦略のためには使えませんよ」
灰画が少し面食らったようになりながらレアちの出方を伺う、レアちは確信めいたものを持った顔で言い放つ。
「ふふふ、6億金貨ね、そんなの魔王討伐の参加賞で賄えるわ!もうこっちに誘導したから!後は吹き飛ばすだけね!」
「!?バカな!こちらに向かってくる!?」
魔王は一体何をされたのか怒り狂ってこちらに突っ込んでくる!青ざめた灰画に対しレアちは輝くような笑顔だ。
「私の報酬から払うから!楽しみにしといて!」
「なんてことを……!!」
「必殺!!『爆心地』!!」
レアち……この映像によれば恐らくテンインのことだろう彼女が鎌のような武器を振りあげると一撃で破壊された倉庫から魔王に向けて飛び散る火花、炸裂する雷撃、何重にも重なった衝撃、このゲームに存在するありとあらゆる兵器攻撃が花火となって破壊をもたらす、都市中から歓声が響いた。
「全くとんでもない……!こうなった以上貴女に賭けますよ!?レアちさん!」
「任せといて!『爆縮地』」
そう言ってレアちは魔王の元に飛翔する、魔王は大ダメージを受けて片膝を着き、プレイヤー達の攻撃が続く。
それからしばらくレアちや他の実力派プレイヤー達が魔王に挑む激戦の映像が流れたが途中で映像が切られる。
【そして今】
「結局この後貴女達は魔王を倒せるところまで追い詰めた!だが最後まで残ったあの甲冑が何故かトドメを刺し損ねたせいで敗北、我々は大損害を被ったんですよ!エンデ様は何も仰らなかったがレアちさん、しらばっくれられるとは思わないことだ、あなたがリスポーンした現場も写真で既に抑えてある、都市を拠点にするNPCにテンインなんて名前のやつはいない、そろそろ認めてはどうです?」
「ぐぬぬ」
話を聞く感じだと普通にテンイン……というかレアちが悪い、しかしこれはどういう展開になるのだろうか?
「過去の悲劇は清算されなくては、つきましてはあなたが無断で使用した兵器アイテムの値段6億金貨、1ヶ月以内に用意出来なければあなたのアカウントを差し押さえします!」
「嘘〜!!!?」
はい終わった
【スキル】
『爆縮地』爆破属性を極めた者が一つだけ選んで習得できるスキルのひとつ、この世界中のどこでも移動可能な最強移動スキル、距離に応じて魔力を消費する。




