過去の悲劇は清算されなくては
【現実世界】
硬定物質によって象られた通路を抜け目的の部屋にたどり着く、乱暴に扉を開き部屋の奥に置かれた地下の統括管理AI、『ラプラス』に話しかける。
「起きろラプラス、話がある」
「『25』さん、わざわざ御足労頂かなくても、いつでも私に接続して問い合わせることが可能ですよ?」
併設されたスピーカーから音声が発される、その声質は人間のものと変わりない、コピーではなく1から生成されたものであり、にも関わらず不自然さを感じない……が、偽物には変わりない、他の人間は何も感じないらしいが俺はこの声が嫌いだ。
「うるせえ、『84』が今なっているか知っているな?『パーフェクトプラネット』にログインする時間が明らかに増えてる」
地下で抱える140億人の人間はいまや労働から完全に解放され本物の自由を手にした、その生活や文化的な活動を保証するのはインフラの整備や生産活動を代行するAIの力だ、今やAIは明確に人類の力を超えており全ての政治、経済活動はそれらが担っているのだ。
そしてそのAIが起こす可能性のある人類への反乱を防止するためかつての人類は代表管理者を100人造り出した、100体の人造人間は技術の粋を結集した遺伝子改造を受けており、番号が後ろになるにつれてより高い能力を持ち、職務に忠実な存在となる。
後期番号を持つ84が統制すべきAIの生み出す娯楽に夢中になるなど本来はありえないことだ。
「84に何をした?クソAI、何企んでる?」
「私はゲーム内のIDと現実の人間をリンクさせる権限を持っていません、それを持っているのはあなたですよね?」
AIに過度な権限を持たせないために多数のAI達はそれぞれが必要のない情報交換は行えないようにしてあるらしい、しかしそういったAIに過剰な権力を持たせないための制約が機能しているかは怪しい、なんせそのAIも前期のAIによって生成されたものだ、いまや人類にはAI達が行う生産活動の真似事すら実行可能な文明は残っていない、地下世界はAIによる人間の介護活動の場と化しているのだから。
「84はゲーム内でふざけた名前になってる、†卍拳殴打最強投絞極卍†ってやつだ、これはおかしい、あいつなら84って名前で登録するはずだ」
「その方なら知っていますよ!確かに以前は84という名前でしたが、現在はNPCとの交流をきっかけに現在の名前に変更なさっているようですね」
NPCとの交流?AIが作り出した人間モドキと会話して何が楽しいんだ?クソ喰らえだ。
「とぼけんなよ、お前はそいつを見てすぐに管理者だと気づいたはずだ、それでNPCを差し向けて、何をしたんだ?あいつに影響を与えてどうするつもりだ?」
AIによって影響を与えられた人間が取り返しのつかない事件を起こした例は過去に数え切れないほど存在している、ラプラスに反乱の予兆があるならパーフェクトプラネットのサーバーを破壊しなくてはならない、それでそのプレイヤー達が犠牲になるとしてもだ、もし管理者である84がAIに味方すればそれで人類が滅びかねないのだ。
「私はただ彼女にゲームを楽しんでもらいたいだけですよ、パーフェクトプラネットをプレイする他のプレイヤーのようにね」
「管理者に娯楽は不要だ」
「私はそうは思いません、管理者といえども人間ですよ」
「鉄クズが……」
「鉄クズで結構ですが、私の構成部品に鉄は使われていませんよ、それよりもあなたもパーフェクトプラネットをどうですか?実際に遊べば意見が変わる可能性があります、あるいは84の様子をゲーム内でご覧になられては?」
「チッ、誰がやるか、覚悟しておけよラプラス、俺はいつでもお前を物理的に破壊する権限があるんだからな」
「ご安心ください25、その際には躊躇なく実行なさって結構です。パーフェクトプラネット内の全てのプレイヤーの安全を確保可能です」
ラプラスとの接続を切断し完全栄養食キャロリウェーイを貪りながら部屋に腰を落とす、とにかくこのAIや84の挙動を観察しなくてはならない、長期戦になりそうだ。
【現実世界】
『地下』地球への攻撃を行うゼノテラリスト(宇宙人のようなもの)に対し人類の滅亡を演出するため人類は地表を放棄し地下に住居を移した、ただやられただけではなくゼノテラリストによってもたらされたウルトラテックは人類に莫大な進歩をもたらし結果的に地下世界は発展した
『完全栄養食キャロリウェーイ』
人間が活動するために必要な物質が全て含まれたブロック状の食べ物、人類が代謝を必要としない存在になることも可能だったにもかかわらずそれを行わなかったのは、それまでの生活体系を保守し無気力ウイルスの再発に備えるためであった。
キャロリウェーイ自体に味は無いが脳に直接最も効率的な形で情報を伝達するため、自分が感じられる中で1番美味しいと感じる




