8月3日 船曳亨
俺は、意を決して公園に来ていた。10mほど離れた先には、船曳がいた。足をあげ、グラブの位置を上げる。ボールを持った右腕を引いた。しかし、船曳にボールが届くことはなかった。腕からこぼれ落ちたボールを拾いながら、俺の方に向かってきた。
船曳「大丈夫か?」
俺 「ああ」
俺のことを相当心配しているみたいだった。ありがたいというか迷惑というか、、、、。
船曳「やっぱり、痛むか?」
俺 「そうだな。何もしてないしな」
表情が曇っていた。俺たちは、公園の日陰に移動した。
船曳「でも、お前が辞めたって聞いた時は驚いたよ」
誰から聞いたかすら、興味がなかった。そして、テンションが高い船曳にどこかイラッとしている自分がいた。
俺 「‥‥」
でも、俺が辞めたのを驚いたやつは多かった。まぁ、辞めたのか部活に行ってないのかは知らないけど。
船曳「大学はやるんだろ?」
俺 「さぁな」
大学かぁ。今は、全然考えられない。
船曳「さぁなって」
俺 「それより、お前はこんなところでゆっくりしてていいのか?」
船曳は、こんなところにいていいやつではない。
船曳「今日の夜、戻るさ」
俺 「ふーん」
船曳亨。今年、石川県代表で全国大会に出場する學学園高校に在籍していた。予選は、6試合中4試合、レフトでスタメン出場していたらしい。全国大会でも、試合に出るんじゃないかと勝手に思いこんでいた。
船曳「まぁ、負けたら、また来るわ」
俺 「来なくていいよ」
船曳とは、高校3年の3月。練習試合で対戦した時に初めて話したのが最初だった。その時に、連絡先を交換した仲だけだ。それから、そんなに連絡もしていなかったのに、急に会う流れになりおかしいと思っていた。
船曳「そんなこと言って、来てほしいんだろ?」
俺 「んなわけ」
學学園は、今年で10度目の全国大会出場となった。過去最高成績がベスト8。今年は、ベスト8以上を狙っているとか。船曳は、試合に出れるかどうかわからないと言っていたが、あのシュアな打撃はとても捨てがたかった。
春の練習試合では、2対0で俺たちが勝ったんだから俺も少しは自慢してもいいのかもしれない。しかし、俺が投げなかった2試合目は、1対15というスコアで負けてしまったのだ。さすが、名門校。層の厚さが違った。俺は、船曳と公園を後にしたのだった。