10月3日 セット
鋭いスピードのボールがこっちへと飛んでくる。まだ、完全に治ったんじゃなかったのか?俺は疑問をもってしまう。それくらい、サッカーが上手いということなのかもしれない。
一ノ瀬「早く転がしてこいよ」
少し茶髪かがった髪がなびいていた。
俺 「うるせぇな」
新田 「まぁまぁまぁ」
新田が転がすボールの後に、俺もボールを転がした。
俺 「お前、勉強はいいのか?」
新田 「ああ。もう今からしても遅いしな」
俺 「今からは、もう遅いのか?」
ドヤ顔で俺の方を向いた。
一ノ瀬「おい、次いくぞ」
くそぉ。アイツ俺らのことを奴隷だと思ってるんだろ。今度は右足でどんどん蹴っていく。さっきまで左足から蹴っていたのに。さすがスカウトがかかるくらいではあるな。
俺 「おい、お前外れすぎなんだよ」
新田 「聞こえてねぇぞ」
静かな声で新田は、囁いた。くそがぁ。一定ペースでまだまだうってくる。
俺 「アイツ、マジで集中してるじゃねぇか」
新田 「アイツらしいといえば、アイツらしいな」
俺 「まぁ、そうだな」
一ノ瀬のところには、残り5球くらいしかない。そろそろ拾わないとまた、キレられそうだ。
新田 「なぁ、お前も一回蹴ってみたら?」
俺 「は?」
新田 「いつも野球ばっかしてるから、たまには違うスポーツしてもいいんじゃないか?」
なんかコイツの言ってることも一理ある気がした。最後のボールを蹴った一ノ瀬は、こっちに向かって叫んでいるのがわかった。
一ノ瀬「おい、ボールこっちよこせよ」
新田 「一ノ瀬!!今度は、春風に蹴らせてみろよ」
一ノ瀬は、何かを思ったように後ろを振り返った。
新田 「早く行ってこいよ」
俺 「え?」
新田 「お前もサッカーできるだろ?」
俺 「逆にサッカーできないなんてことないだろ」
新田が指差す方向は、一ノ瀬の方だった。
一ノ瀬「おい、何してんだよ」
そろそろ行かなきゃ、アイツはキレそうだった。俺は、急いで走り出した。一ノ瀬の方に徐々に近づいていく。
俺 「待て待て!」
一ノ瀬「なんだよ?」
俺 「俺に蹴らせろ」
一ノ瀬「は?」
俺 「ずっと、ボール拾いは疲れるんだよ」
さっきまで一ノ瀬がセットしていたボールの位置に今度は俺がセットしたのだった。




