9月29日 DH
一ノ瀬「この前、引退試合したんだ?」
俺 「ああ」
俺たちの引退試合が行われたのを知っていたんだ。意外だった。
一ノ瀬「怪我してなかったのか?」
俺 「守ることはむりだけどな」
結局、引退試合で俺は5打数5安打。2本のホームランを放ち、チームを7対3で勝利に導き出すことができた。勝てたことはよかったけど、これでよかったのかはわからなかった。
一ノ瀬「へぇー。野球って守らなくてもいいんだ」
俺 「普通はダメだけどな」
一ノ瀬は、DHという野球の制度を知らないみたいだった。
一ノ瀬「特別?」
俺 「この前はな」
言っても仕方がないと思い説明することはしなかった。
一ノ瀬「プロ野球とかであるDHとかのやつか」
俺 「それだよ、それ」
知ってるじゃないか、ちゃんと。
一ノ瀬「おもしろいな」
俺 「そうか?サッカー部は引退試合ないの?」
一ノ瀬「あるよ」
サッカー部もちゃんと引退試合があるんだ。よかったな。
俺 「いつあるの?」
一ノ瀬「まだ決まってないらしい」
俺 「なんで?」
どういうことか理解できなかった。
一ノ瀬「今年の引退試合は、聖徳とするんだってさ」
俺 「へぇー、凄いな。聖徳サッカー強いんだろ?」
凄いな。引退試合って普通、後輩とするもんだと思っていた俺だったから驚いてしまった。もしかして、コイツが考えたのか?なんとなくそんな気がしてしまった。
一ノ瀬「ああ。この前まで全国大会出てたからな」
俺 「まじ?そんなに強いの」
そんな全国大会に出るチームとよく練習試合を組めたな。俺は、感心してしまった。
一ノ瀬「ああ。アイツらスカウトも来てたし」
俺 「スカウト?」
一ノ瀬「聖徳の沢田、工藤、宝来。この3人は、大学やプロからスカウトがきてるんだ」
俺 「そうなんだ」
そこまでの奴らだとは思わなかった。
俺 「なんで、そこまで強い高校に試合申し込んだんだ?」
一ノ瀬「強いからだろ?」
俺 「それはおかしいだろ」
一ノ瀬と俺の考えは、ここでも対立した。
一ノ瀬「どこがだよ?」
俺 「引退試合なんて最後の試合だろ?思い出の方が大事だろ?」
一ノ瀬「お前が思い出なんて言うんだ?俺は、思い出なんていらないよ」
あっさり言ってしまうあたり、コイツの方が信念がある気がした。




