9月28日 引退試合5
昨日は寝れなかったから、少し寝起きがよくない。俺はそう思っていた。それでも、野球のためならと体を起こし、ストレッチを開始した。
ー9月24日ー
ノーストライクスリーボール。次、どんなボールがきても振ろうとバッターボックスに入った。おそらく、鈴木は必ずストライクゾーンボールを投げてくる。俺は、そうよんでいた。俺は、肩にバットをのせ、鈴木の方を見つめていた。ストライクゾーンをイメージしながら、セットポジションから足を上げた。先制点をとるには、ここで1点取る必要があった。俺は、次のボールにこの一打にすべてを賭ける覚悟ることにした。
俺は深く息を吐き、バットを振るタイミングを逃さないように鈴木に神経を集中させる。球はまっすぐ俺の方に向かっている。ボールは、インコース。まさに、俺が一番好きなコースで待ち構えているところだった。俺は、もてる全ての力を使ってスイングを始めた。俺が振り抜いたバットは、確実にボールと当たる。大きな金属音がグランド内へと響き渡っていく。俺の身体がレフト方向へと回転するのとともに、同時に3塁ベンチから大きな歓声が沸き上がった。ボールは、レフトの頭上を高く舞い上がっていく。どこまでいくのだろうか?そんな会心の一撃だった。
俺が打った打球は、青空を切り裂くように飛んでいく。どこまでいくのだろうか?選手たちも、ただただボールの行方を追うので精一杯だった。レフトの選手はボールを追うことはやめた。ボールは誰もいないグラウンドの端の方に届いたのだった。ボールを追いかけなくなった瞬間、ベンチからさらに大きな声が聞こえた。俺は、スピードをゆるめ二塁ベースに到着する。そして、軽く走りながら三塁ベースを目指した。まさかな。ホームランなんて、できすぎだった。どんな感じでベンチに帰ればいいのか。俺は、打った瞬間の快感を噛みしめながら三塁ベースをふむ。
そう言えば、ここのグラウンドで何本もホームランを打ってきた。その中でも、今日のホームランは一番思い出に残るかもしれない。まだ試合すら終わってないのに俺は数多の思い出よりも今日のことが浮かび上がってしまう気がした。ホームベースを踏むと、三塁ランナーだった中村、次の打者である中田とハイタッチをしたのであった。野球部が待つベンチへ駆け寄ると、そこには彼らの満面の笑みが広がっていたのだった。"俺には野球しかない"。そう思える瞬間だった。




