9月27日 引退試合4
早くあのマウンドに立ちたい。マウンドから投げているピッチャーを見るとそう思ってしまう。監督からは、来年の4月にはキャッチボールが再開できるかもしれないと言われていた。それまでは、しっかりと体力強化を指示されている。
ー9月24日ー
打席に入った山本は、このチームで最もヤンチャな選手だった。海美と言えば、『fours』の東藤や新田や一ノ瀬が有名だ。しかし、山本は違う。表では真面目そうにして裏でヤンチャなんだ。どっちかというと、女子っぽい気がする。鋭い目つきでバットを振り回す。身長は、180cmあり、パワーもある。山本が打ったボールは、ライトのファール方向へと飛んでいく。向こうのピッチャーである鈴木は落ち着いているが、まだエースとしての貫禄は見られない。
山本の打球は、ライトフライになり2塁ランナーの中村は3塁へと進み、俺はゆっくりと打席に向かう。ふぅー。久しぶりにこの打席からピッチャーを見つめた。打席に立った瞬間、ベンチからの声が遠く聞こえる。ここから、何度もピッチャーの様子を見ていたのにな。目の前には、鈴木が堂々と立っている。大きくなったな。彼の立ち姿は、2年生を引っ張っていくようだった。
サイン交換が終わり、鈴木はセットポジションに入った。足を上げ、しなやかな腕が後方に引かれる。そこから、ボールが飛んできた。インコース高め、ボールだ。俺は、バットを振らずに見送った。ベンチやネクストバッターサークルから見るよりボールがきていない気がした。たしか、鈴木はストレート以外に、スライダーとフォークをもっていた。初球がストレートだっただけに次もストレートという可能性は少ない。だったら、スライダーかフォーク。二択だろうな。
再びセットポジションに入った。鈴木は、地面を蹴り、力強いフォームで第二球目を投じた。ボールが放たれる瞬間、俺は上半身に力が入る。さっきまで見ていたピッチャーからボールへと視界が狭まっていく。俺の方にボールが近づく。ストライクゾーンだ。俺はスイングを決意し、バットを振ろうとした時、アウトコースへと曲がっていく。俺は、バットを止めた。最後は、低めへとボールが外れた。よかった。ボールになって。ツーアウトランナー三塁。ノーストライクツーボール。おそらく、次はストレート。まだ、コントロールが定まっていない鈴木は、ストレートを投げてくる気がした。真ん中付近のボールを待っていたが、そのコースには来なかった。




