9月1日 願い
今日から9月かぁ。夏休みも野球ばっかり見て過ごして、みのあることは何もしていないような気がした。もっとちゃんとしないとな。時刻は、まだ、朝の6時だった。朝日がまだ低く空を彩っていた。静かな歩道を走っていく。この時間帯、走っている人は、あまりいない。私は、頭を高く掲げ、気高い足取りで歩を進めていく。ゆっくり走っていることもあってか、周りが落ち着いて見える。
柔らかな風が私の肌を優しく撫でているようだ。半袖のTシャツということもあってか、心地よい微風がつき抜けてくる。私はゆっくり息遣いをしながら、前を見た。私の足音は、アスファルトを鳴らす。一定の
リズムで刻んでいく。すると、左手に通い慣れていた公園が見えた。昔から、この公園でずっとキャッチボールをしていた。投げられなくなった5月頃からは、ほとんど使っていない。
それでも、この公園の周りを回るのは、俺のランニングコースとなっていた。俺は、ここから離れた海美高校だから、周りに知り合いらしい知り合いはいない。聖徳高校や守田工業高校なら、もう少し知り合いも増えたのだろうけど。俺は、公園を回った近くにある一本の太い木を折り返した。この木は、俺の折り返し地点の役割を果たしていた。明るい緑の木々が左右に並んでおり、さっきまで来た道を戻っていく。
俺は、早い復帰を望みながら走っていく。右に曲がると、真っすぐな道が続く。この道を進んでいくと、大きなデパートがあるのだった。俺は、軽やかに地面を踏みしめていく。走り始めた頃より、少しずつ暑くなっているように感じた。Tシャツの胸元は、汗でシミができている。この汗ばんだ感じが、なんだか昔、野球をしていた頃とよく似ている。あの頃は、1試合に二回はアンダーシャツを変えるというルーティンを繰り返していた。周りからは、そんな変える必要があるかと問いかけられたが、変えないと気が済まない性格だった。
調子が良ければ、3イニング目と7イニング目。調子が悪ければ、2イニング目、5イニング目くらいに変え、気分を入れ替えようとしていた。アンダーシャツを変えたからといって、自分のピッチングがよくなるわけではなかったが、そうしてでも、自分の何かを変えたかったのだと今なら思える。俺は、このランニングを通じて自分自身と向き合う時間を作りたい。作って、もう一度あのマウンドにたつ。それが、今考えられる最大の願いだった。




