7月30日 癒し
ボールが投げられない。そんな俺に行き場所はなかった。野球において、ボールが投げられないというのは、ただいるだけとしか言いようがなかった。ボールを握りながら、思いを巡らせた。ボールを握りにながら想いを巡らせていた。野球だけじゃなく、人生も終わってしまうんじゃないか?
このままでは終われないけど、何をしたらいいかわからなかった。もう、高校で野球をすることはない。やるなら、大学。しかし、今の俺が大学なんていけるわけがない。肘も完全に完治していない。まさに八方塞がりだった。
そう言えば、ここ最近、同級生とまともに話していない気がした。野球部を去ってから、他の奴らとも話さなくなったし話したいとも思わなかった。こんな感じだと、これからもずっとこうなんだろうなと思ってしまう。
野球部以外で話すってなったら、誰かいるのだろうか?話すとしたら、東藤と新田ぐらいだけだろう。高校の3年間で二人って。自分は、どんだけ話さないんだ。やさぐれてるな。たまに話す東藤と新田は、俺と似たようなタイプだった。
東藤は、海美高校の唯一ヤンチャな生徒。学校では大きな問題を起こしていないが、外では相当暴れているとか。『fours』のメンバーでもある東藤は、ケンカだと相当なもんらしい。foursのことは詳しく知らないけど、春先の4月に聖徳高校の工藤とやり合ったというのは有名な話だ。
工藤という奴も、foursのメンバーらしいから決して弱くないと思うけど、それ以上に東藤が強いということなのか?ケンカをした東藤は、2週間の謹慎処分になったらしい。東藤は、俺がいるクラスではないからわからないけど、いい奴ではあった。
東藤に初めて会ったのは、1年の頃。同じクラスだった当時、話しかけられたのを覚えた。1年の頃から有名だった東藤は、ケンカを売ってきたのかと思った。俺も野球部とは言え、相当尖っていたからやり合うつもりでいた。しかし、そうならかった理由は、新田がいたからだ。
新田は、バスケ部キャプテンで成績優秀の優等生だった。俺や東藤みたいに尖っていないから、俺たちにとっては癒しの存在になっていたのかもしれない。新田は、いつもヤンチャな俺たちを丸くおさめてくれていた。周囲に馴染めない俺たちだけど、新田の一言で俺たちは上手くクラスに溶け込むことができた。ただ、コイツらとも1年生以来同じクラスになっていないから、段々会う機会も減ってきたのだった。