8月24日 大会20日目
夕暮れ時、小さなバッティングセンターの扉を押すとゆっくりと開いていった。俺は、野球を見ていると無性にバッティングがしたくなったからここへとたどり着いた。大会20日目で、決勝進出の二つの高校が決まった。いよいよ、明日は、決勝戦。今年残ったのは、群馬北高校と有秀高校だった。開幕前にともに優秀候補の位置付けにいた高校だ。
群馬北高校は、投打の軸を中心にここまで勝ち抜いてきたチームだ。投のエース中川は、今大会未だ無失点。25イニングを投げて、35奪三振と脅威的な数字を残していた。一方、池田や川上たちの防御率は、あまりよくない。誰が投げるかによっても大きく変わるだろう。打線は、3番の和泉が4試合で4ホーマーとチームの中心的な働きをしていた。チームの守備でも何度も救って来ており、精神的支柱だ。
一方の有秀高校は、昨年の全国大会の優勝に続いて二年連続を目指す。エースの松戸から宇川に繋ぐ系統のパターンでこれまで勝ち進んできた。松戸、宇川ともに150kmを超えており、二人から点をとることは大変だ。一方の打線は、どこからでも点が取れる超強力打算だった。しかし、4番の筒井がここまで不振にあえいでいた。14打数2安打となかなか当たりが出ない。それでもヒットの2本は、ともにホームラン。彼に当たりが戻ってくるようだと一気に流れが変わる。
選手層的には、有秀高校の方にぶがあったが、群馬北高校の中川が出てくると流れが一気に変わる。いくら有秀高校が相手とはいえ、なかなか簡単に打てないと考えていた。しかし、中川が投げなかったり、リリーフとなると、一気に有秀高校にチャンスが回ってくる。先制点をとると、そのまま松戸と宇川で逃げ切ってしまうと考えていた。
そんな試合展開を予想しながら、中から漂うメタルの匂いと共に、バットを持った。俺は、いろんな速度があることを確認しながら、何キロのところで打つか迷っていた。どこも、煌々と輝く明かりに照らされながら、バッティングを続けていた。俺の前のケージは、約120km。ゲージに立つ青年は、まるで剣士のような表情から次から次へとバットを合わせていく。
バッターの目は、真剣そのものだった。ピッチャーマシンから力強くボールを放つと、彼は鋭い目でボールを見つめ、全身の筋肉で引き締まった腕でバットを振り上げる。ゴルフボールのように飛んでいくのだった。ボールは、ネットに当たり、跳ね返ってくる。




