8月23日 大会19日目
テレビ画面から映る高校球児は、どこか眩しく感じた。今日は、群馬北高校と學学園高校との一戦。學学園高校には、俺の知り合いである船曳がいる。しかし、今日も試合には出ていないようだった。早く船曳を出せと言わんばかりに、群馬北高校は、序盤から点数を重ねていく。特に、3番の和泉が2打席連続3ランホームランを放つなど、9得点をあげていた。
さすがに9点を取られてしまっては、反撃の糸口すらつかめていなかった。俺の目当ては、船曳だ。學学園を一回戦からずっと追いかけてきたのに、まったく出場機会が与えられない。俺は、本人でもないのにウズウズしてしまっていた。今日こそは、そう思っているともう最終回まできた。俺は、両ベンチを見ながら、船曳の出番を待っている。
群馬北高校のベンチ。エースの中川は、先発することもブルペンから投げることもなく、9回まできていた。中川は、どんな気持ちで選手たちを見ているのだろうか?おそらく、ピッチャーは池田のままだから、チャンスはある。そう思った。
そんなことを、考えていると學学園高校のベンチから、ヘルメットを被った船曳がやってきた。ようやくか。俺は、手を叩きながら、バッターボックスに向かう船曳を見つめた。アナウンスのコールとともに、スタンドから大きな拍手が聞こえてきた。解説者も背番号11の地方予選の成績を紹介し始めた。当然だが、地方大会でもスタメンはわずか1試合。それでも、盗塁はチーム最多の7とかなりの走力がある。ランナーに出したくないですねと解説者は話し始めた。
池田の第一球目を鮮やかにライト前にもっていったのだった。スタンドからは、大きな拍手が送られていた船曳だったが、顔色一つ変えず、足につけていたプロテクターを外していた。これは、あるな。そんな気がしていた。たしかに、9点ビハインドで相手に影響はない。ただ、ここで走るのがこの男だろう。
池田の第一球目を投げるのと同時に走り出した。もちろん二塁になんて投げられない。そして、二球目。またしても、走った。今度は、三塁だ。三塁まで来たこともあり、大きな盛り上がりを見せた。そして、次のバッターが綺麗にレフト前ヒットを放ち、學学園高校待望の先制点をあげたのだった。9点までは遠いが、こうして一点ずつ返していくしか選択肢はなかった。ベンチに帰った船曳は、すぐさま最前列でチームメイトを応援している姿が映し出された。




