其の参拾六
「ところで後輩クン。いきなりだけど部長をやってくれないかい?」
目の前の女性、峯下先輩がそう言った。しかし、これだけは阻止したい。だってめんどくさいからね。
何故か櫛名田ちゃんに懐かれたらしく、最近はアマと二人で子守りをする羽目に遭っている。一体、須佐之男さんはどこで何をやっているんだろうな。
「無理です、生徒会入ってますし。」
勿論、嘘。うちの生徒会は前にも言ったとおり何故か人数が飽和状態になっていて仕事がないのが実情だ。
そもそも生徒会に入ってようが、たとえ生徒会長でも出来るのがうちの部長なんだけどね。だって活動実績ゼロだし。
カミツキ! 其の参拾六 「任命と嘘八百」
次の日。
「後輩クン、たしか先代の部長って生徒会長だったよね。」
く、痛いところを突いてくる先輩だ。確かに先代の部長というか、この部の創設者は生徒会長だった。てか姉さんだし。作った理由は作りたかった、と言うごく簡単なものらしい。どうでもいいけどね。
ちょっと頑張って逃げるための口実を考えとかないと本気でやらないといけなくなる。
「そうでしたか?」
適当に惚ければ考える時間も増えるだろう。
「うん。それじゃあ、帰りまで答えを出しておいてねー。」
そう言って、手をひらひらと振る先輩。そういえばこんな時期まで部長なんてやっていていいのだろうか、もう卒業まで数週間じゃないか?
・・・まさか推薦で通ってたりして・・・まさかね。一応あとから凛にでも聞いておこうか。
「え、まさか知らなかったの?」
俺が聞いたときの凛の反応がこれだった。
「じゃあ、推薦で通ってるのか?」
「勿論よ、知らなかったの?」
「ああ、知らなかった。」
本当に推薦で大学が決まっていたとは・・・だから部長もあんなに長く続けていたのか。納得。
「ん、じゃあ先輩って頭良かったりする?」
「ええ、定期考査は大体が一位らしいわよ。これはあくまでも噂だけどね。」
「マジか・・・それ?」
「ええ、マジよ。」
真顔で言う凛。失礼だけど結構先輩はおちゃらけたような性格をしているからそんなに頭がよいかとは思っていなかったんだけど、そんなに頭が良かったとは、意外だ。
それにしても一位とは頭良いんだなぁ。
「ところで、凛。帰宅部の――「無理よ。」
速攻拒否された。そんなに嫌そうな顔しなくてもいいじゃないか、少しぐらい話を聞いてくれてもねぇ・・・
「それじゃ、頑張ってね。」
そうにこやかな笑顔を残して凛は去って行った。凛さんや、そんなに悪魔的にまで天使のような微笑みをしなくてもいいじゃないですか。泣きたくなってきた。
しょうがない。そこにいる野生(謎)の勇で鬱憤を晴らさせてもらおう。
「やあ、勇。何か言い残すことはあるかい?」
こう急に言うのがミソだ。
「え、あ、出番が――「あっそ。」
右足を軸足にしての回し蹴り。凛みたいに綺麗にはできなかったけどまあよしとしようか。
ついでに今、いいことを思いついた。さっそく峯下先輩のところへ行こうか。
「あ、峯下先輩。」
「ん、何だい後輩クン?」
「実は部長にふさわしい人がいるんですけど。」
「え、誰だい?」
冷静に作戦を実行する。
「うちのクラスの石橋君です。」
ちなみに下の名前は忘れた。みんな石橋君、石橋君って呼んでるからみんなも忘れてるんじゃないのかな。
「石橋・・・石橋・・・。あ、彼か。」
「分かりました?」
「うん、思い出したよ。あの副委員長の子だよね。」
「そうですね。」
「うむ、それなら安心だね。しっかりしているはずだから、彼に決定しよう。
ありがとうね、後輩クン。」
また手をひらひら振りながら去って行く峯下先輩。石橋君には心の中で謝っておこう。
更に次の日。
「・・・・・」
石橋君に怨めしそうな目で睨まれた。しかも無言。
ここは気付いていないような風を装っておこう。うん、そうしておこうか。
・・・ちなみにそれから一週間ずっとそんな感じだったのを最後に付け足しておこう。正直つらかった。




