其の参拾壱
「一体これはどういうことだ?」
俺がぼそりと呟いたのは他でもない。演劇祭当日になって台本が書き変えられたのだ。
他の出演する人たちも皆唖然とした表情をしている。そんな中、
「ごめーん」
申し訳なさそうに手を合わせている佐倉さんがいた。
カミツキ! その参拾壱 「開始直前」
「佐倉さん、これは何?」
珍しく凛も焦ったような口調で彼女を問いただす。
「いや、文芸部の子がちょっと、ね。」
「・・・でも佐倉さん――「ちょっと、清浦君!!その格好どうしたのよ!!」
「ちょっと、佐倉さ――「可愛いじゃない!!」
走って寄ってきた・・・あ、あれか。ずいぶんと久しぶりだな可愛いものを見ると抱きつきたくなる衝動。
・・・マテ。
まず佐倉さんを避けてから考える。
彼女は俺に抱きついてきた。(一応避けはしたが。)
そして彼女の悪癖は可愛いものをみると抱きつきたくなる、だ。
・・・結果。俺、清浦景子は今可愛い・・・。
ちーん・・・
「で、凛。今から覚えなきゃならんのか?」
「そうなるんじゃないかしら?」
「だよな・・・」
台本の内、改稿されたのは約一割だ。新規加筆されたのはほんの一部だから覚えることはギリギリ可能かもしれない。まあ無理だったらどうにかするしかないのだが。
「じゃあ、覚えるしかないのか。」
俺、清浦景はスカートを穿いたまま、つまり清浦景子はそう呟いた。
『次の二年三組まで十分の休憩とします。』
もう演劇祭は始まっている。
俺たちの劇まで休憩が挟まれるのは不幸中の幸いか。
「覚えたかな・・・」
そういう俺はロングコートを羽織っている。これはただ寒いだけとかそういうことではなく下が女子制服だからだ。こんなものを着て歩いていたら不審者か変態扱いされるからな。
で、俺は台詞の再確認。朝追加されてもどうやら上手くいったようで覚えきることができた。
「なあ凛。もう覚え終わったか?」
「台詞?」
「ああ。」
「大体は覚え終わったわよ。後はアドリブを織り交ぜてどうにかするわ。」
「それはこっちからするとかなりきついんだが。」
「そうかしら、まあがんばって頂戴。」
「がんばってって。」
鬼か。とは言うのはやめておいた。
「おーい、もうそろそろ準備するよ〜」
遠くから佐倉さんが声を掛けた。
『それでは、二年三組の雨天接吻です。』
アナウンスの声。そして俺はステージへ出た。
勿論、女装をして、だ。




