其の参拾
俺は台本を大きな音が鳴るぐらいに力強く閉じた。
「何なんだよ、この話は。」
何故なら話の最後に問題があると思うからだ。
カミツキ! 其の参拾 「口吻って・・・」
「しょうがないじゃない。」
「しょうがないじゃないよ、凛。」
「でもこういう台本なんだからしょうがないんじゃないかしら。」
今俺が文句を言っているのはこの劇用の台本『雨天接吻』の最後のシーンだ。
最後は結城水夏(俺)が神谷直希(凛)にキスをするというシーンだ。別にキスはしなくてもいいとのことだがなんだかやり辛いものがある。
「それにしてもなぁ・・・」
「まあやり辛いといえばやり辛いわね。」
「だろ、ねえ佐倉さん。これ変えてくんないかな?」
二人で話した結果やり辛いということになったので近くにいた佐倉さんに呼びかける。
「無理ね。だって面白くないじゃない。」
「面白くないって・・・」
「じゃあ、変更無しでよろしくね〜」
そう言うと彼女はさっさと立ち去ってしまった。
「・・・どうする?」
「やるしかないんじゃない?」
「だよな。」
やっぱやるしかないんだろうな。
「・・・・・。」
「・・・・・。」
どうも空気が重い気がする。勿論、俺たち二人だけだが。
「・・・やり辛いわね。」
「そうだな。」
かれこれこのやり取りを数十回繰り返している気がする。
「まあ、やるしかないんじゃないかしら。」
「そうなんだよな・・・」
こういってもこういうのはどうもやり難い。
「でも佐倉さんは変更してくれないって言ってるしな。」
先程からずっと変更を要求してはいるのだが取り合ってはくれない。
「じゃあ、練習再開するわよ。」
「ああ、そうするか。」
最後のシーンのやり直し。これ精神的に疲れるんだよな・・・
「・・・・・。」
「・・・・・。」
「いいじゃないの!」
黙る俺と凛、そして何か凄いはしゃいでいる佐倉さん。もしかして佐倉さんはこういうことが好きなのか?
「それじゃ、今日はこれでお終い。解散!」
彼女の声で解散する。
やっとこの地獄のような練習から開放されるよ・・・。




