其の壱拾九
「兄さんが帰ってきません!!」
冬休みの初日、皆で遊びに行こうと誘い合いを行っている所で下の階の住人、ヘルさんが階段で転んだのかおでこを赤く腫らしながら玄関で叫んだ。
・・・痛そうだけど、そんなことより
「うちは相談所じゃない。」
これがいつも言いたかったのだ。
カミツキ! 其の壱拾九 「失踪!捜索!遭難?」
「兄さんが昨日から帰ってこないんです!」
ヘルさんが叫ぶ。
「まあまあ落ち着いて。」
「そうだよヘル。どこに行ったか心当たり無いの?」
俺たちに言われたヘルさんは落ち着いたのかどうなのか分からないが椅子に座ってくれた。
結局あの後、アマがリビングにヘルを招きいれ(この家は俺の家だったはずなんだが)、ヘルさんの話を聞いた。
どうやら昨日の朝、フェンリルさんが失踪した後、帰ってきていないらしい。
「一日ぐらい何の――「問題大有りです、早速捜索しましょう!」
「捜索ってそん――「早く行きましょう!」
必死に反論を試みているのだがまったく相手にしてもら得ない。
「お、面白そうだね。捜索しよ。」
「流石天照さん。日本の最高神は物分りが良い。」
「早速仲間を集めよう!」
そう言ってアマは携帯電話を出す。
そしてまだ携帯に慣れていないようで、おぼつかない手つきで誰かにメールを打ち始めた。
「それじゃ、景さんもお願いします!私はいろいろ準備してきますから。」
「え・・・――「お願いしま――ゴフッ・・・」
玄関の段差につまづき転んだ。勿論、悶絶した。
「それじゃ、峯下先輩あたりでいいか。」
ヘル、つまり死の国の女神の鎌の餌食になりたい訳でもないので適当なところに電話をする。あの鎌は大きくて人ぐらいなら一刀両断できると思からね、まあ素人目から見てだけど。
『もしもし、後輩クン。どうしたのかな?』
「あ、先輩。まず誕生日おめでとうございます。」
『おお、覚えておいてくれたのか。お姉さん嬉しいよ。
それで何か願い事かい?今なら、何でも叶えれそうな気分だよ。』
「じゃあ、実は近所の人が失踪しまして、捜索をお手伝いしてもらえればと思いまして。」
『そうかい、そうかい、捜索かい。
捜索しよう、そうしよう。ってことで今から君の家に行くからね!』
そう言って先輩は一方的に電話回線をお切りになられた。次は・・・
『どうした、我が心友よ。』
「お、死ん勇。ひとつ手伝ってもらいたいんだ。」
『何でも言え。俺たちは心友だからな。』
「それじゃ、用件。
実は下の階に住んでいる見目麗しい女性が――」
『オッケー、手伝うぜ。今から行くからな。』
また一方的に電話を切られた。今日は厄日か?
―――ピンポーン♪
玄関チャイムの軽やかな音色。
「今出ま――「後輩クン!この猫さんは誰なのかい?」
今日はよく言葉を遮られる。やっぱり厄日か。
「ああ、この猫はですね、シャルロットです。
結構、高級そうな猫でしょう?これで野良猫なんですよ。うちの前に棲みこんでます。」
気付いたらこの白い美しい毛並みを持った高級そうな猫、シャルロットは家の前に棲みついていた。この愛くるしい表情のおかげで今ではこの小宮荘のマスコットキャラクターだ。野良猫とは言っているのだが餌をやったりしているので飼い猫といっても語弊はないのかもしれない。
「なるほど。お持ち帰りしちゃいけないのかい?」
「それは駄目です。」
「そうか、残念だな。」
先輩の手から開放されたシャルロットは開いていた玄関からうちの中へ入り込んだ。中でアマが何かいっているが気にしないでおこう。
「まあ、上がってください。」
「分かった。中でネコさんと戯れてるからね!」
そう言うと彼女は颯爽と猫のいる部屋へと走り去っていった。そんなに気に入ったか。
「景、私も上がるわよ。」
「ん、・・・凛か。上がっていてくれ。」
「分かったわ。」
凛は・・・アマが呼んだのか。
それにしてもいつも思うのだが、彼女の動き一つ一つが礼に適っていると思う。なんというか動きが美しいんだな。
「ん、どうしたのかしら?こっちを見て。」
「いや、なんでもない。」
「そう。」
彼女は興味をなくしたのか、そんなに元々無かったのか、軽い返事で奥へ入って行った。
勇は・・・来てないな。と、
「やっほうっ、心友が来たぜ!」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
玄関でいきなり叫んだ死ん勇に部屋の中の3人と俺、勇の裏にいたヘルさん、それと峯下先輩の腕の中のシャルロットが無言の叱責。シャルロット、君は偉い。
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
まだ続く無言の叱責。
「うわぁー、もうやめてやるぅ!」
遂に叱責に耐えかねたのか勇は涙を流しながら立ち去って行った。
「・・・にゃあ。」
シャルロットが満足そうな表情で一言鳴いた。




