其の壱拾七
『兄さん!浮気ですか!?』
『ヘル!?・・・寝言か。』
朝、下から聞こえてきた痴話げんか紛いの寝言で目が覚めた。
・・・て言うかヘルさんや、アンタの夢の中でもフェンリルさんは浮気・・・いやアンタがそんなに心配性なのか。
カミツキ! 其の壱拾七 「死神の料理にはご注意を」
「た、助けてくれ!」
フェンリルさんが、朝食中に部屋に来た。朝から何なんだろうか、凄く慌てているように見えるし。
「どうしたのフェン?」
「天照か、ヘルが朝食を作った。」
「え、本当?」
フェンリルさんが声を発した途端、部屋に緊張が走った。
俺の部屋に面倒ごとを持ち込まないでほしいし、アマはアマでそれに反応しないでほしい。
「どうしたんですか?」
「あ、景君。とにかく匿ってくれ。
あいつの作る料理は・・・劇物だ。」
劇物・・・それじゃあ、フェンリルさんが死にかけない。
「分かりました、あの部屋にいてください。」
「感謝する。」
そう言って彼は俺が指差した部屋、物置になっている部屋へと入っていった。
あの部屋はそんなに汚いわけでもないから問題はないだろう。
またリビングへと戻り、何も無かったかのように朝食を食べていると。
「兄さ――ゴブッ!」
ん〜、一応説明すると、バンッ!とドアが勢いよく開きあまりの勢いでそのドアが戻りお客さんがそれに当たって悶絶していた。
・・・つまりまたヘルさんが扉の前で悶絶していたわけだ。一回やったよな、この件。でも今回はドアが少し早かったようで彼女の言葉が途中で途切れたようだ。
「ハッ、兄さん!いるんでしょう!?」
「どうしましたか?」
できるだけ何も知らないかのように装いながら彼女に聞く。
やはり彼女は気付かなかったようでフェンリルさんの事を聞いてくる。
「兄さん知りませんか!?」
「兄さん・・・フェンリルさんか。ここには来てないけど?」
「そうですか。」
そう言って彼女は階段を落ちるように下りて行って町へと繰り出していった。
なかなか、上手な演技かと思ったのだが騙されてくれたらしい。
「フェンリルさん、大丈夫ですよ。」
「ん、本当か。ありがとう。」
彼はおっかなびっくり出てきてヘルさんがいない事に気がついて安堵のため息をこぼした。
「そうだ、その劇物は弁当箱に詰めて俺に渡してもらえれば処分しておきますよ。」
「ん、本当か。」
「それじゃ、お願いしますね。」
そう言って彼は帰っていった。
それから暫くすると弁当箱を持って彼は戻ってきた。
さて、処分できるかな。
学校に来てみると処分係である勇は既に来ていた。
「勇、なんか後輩の女の子が勇にって弁当をくれたぞ。
何で俺にくれたのは分からないが。」
「!、本当か景?
きっと彼女は恥ずかしいからお前に渡せって言ったんだろ。貰っておくよ。」
単純なやつだと思う。それにしても意外と自分に演技力があるんだな。新しい自分発見だ。
勇が喜び勇んで帰っていったのを見計らってか、はたまた偶然か凛が後ろから話しかけてきた。
「景、今の嘘でしょう?」
「一部は本当。確かに作ったのは女性だ。まあ勇のことなんて知らないと思うが。
近所の人でその兄が助けを求めてきたから、処分してあげようと思って持ってきた。それだけ。」
今、言ったのは本当のはず。
「凄い演技力だったわね。じゃあ、あれは劇物かしら?」
「そうだな。」
そんな会話を楽しみながら教室へと向かう。さて、お昼が楽しみだ。
――キーン・・・コーンカーン・・・・・・・・コーン・・・
ずいぶんリズムの狂ったチャイムが鳴って今は昼休み。さあ、楽しいことが起こるかな。
「ねえ、景。ずいぶん楽しそうな顔してるけどどうしたの?」
「勇に、朝フェンリルさんから貰った劇物を適当な理由をつけて渡した。以上。」
すらすらと朝の出来事を話す。彼女は朝、佐倉さんに用があったらしくそっちに行っていてこのことは知らない。
「あら、景。もう食べたかしら?」
「まだだよ。」
そう背後から聞いてきたのは凛。顔は見ていないがきっとニコニコと邪悪な笑みを浮かべてるのではないだろうか。いや、浮かべているだろう。
暫く何気ない会話を楽しんでいると勇が弁当を空けた。そこにあったのは・・・
「普通だな。」
「普通だね。」
「普通だわ。」
異口同音。三者同意の満場一致。
そこに入っていたのは至極普通のもしかしたら普通より上手そうに見える弁当だった。
しかし・・・
「いただきまーす。」
そう言って勇がそのご飯へと口をつけた途端。
「カッパー!?」
銅を瞬時で英訳し、それを叫び机へと突っ伏した。・・・生きてる?
しかし・・・
「俺は何を!?」
30秒ぐらい経ってすっと起き上がり、また弁当を食べ初めて・・・
「ソルト!?」
今度は塩を英訳し、机へと倒れこんだ。
結局、勇は弁当を食べ終わるまでその運動を繰り返していた。
「それはなった事ないな。」
夕方フェンリルさんにそのことを話すと彼はそういった。
彼の話によるとヘルさんの料理の毒は毎回起こる症状は違うらしく共通点はその毒のことを忘れてしまうことらしい。
フェンリルさんは昔それを食べている人を見かけたらしくどうやらまだ毒を食べる事態には至っていないらしい。
「それじゃあ、またこんなことがあったら言ってくださいね。」
「ありがとな。」
俺がそう言うと、彼はそう返した。
勇が犠牲になるがしょうがないだろう。




