其の壱拾六
三連休明け、学校からいつもどおり部活動をしてくるとアパートに引っ越し業者が来ていた。誰か引っ越してくるのだろう。
すると、業者さんの向こうに見覚えのある後姿、灰色の髪をした背の高い人と、ゴスロリ服を身に纏い手には物騒な鎌を持っている女性の姿だ。
・・・多分、フェンリルさんとヘルさんかと。
カミツキ! 其の壱拾六 「お引越し」
「よう、少年。」
やっぱりフェンリルさんでした。あ、あの耳がなくなってる。
どうやら上手にに顕現できるようになったらしい。
「あ、フェンリルさん、こんにちは。」
「あれ、フェンだ。」
「ああっ!兄さんっ!!浮気ですか!?」
「いや、ヘル。これは――「浮気なんですか?」
「だからこれは――「どうなんですか!?」
ヘルさんが有無を言わさぬ表情で彼に詰め寄る。
それにしても、ヘルさんは前にあったときよりパワーアップしてる気がする。勿論、ブラコン度が。
「だからヘル――「いいです、兄さん。今から話し合いしましょう!」
「話し合いって――「さぁ、部屋に行きましょう兄さん!!」
そう言って彼女は自分の部屋の扉を空け・・・何故か開かずに扉にぶつかって悶絶。そして気絶。
・・・あ、部屋が違う。彼女の部屋は隣だ。
「ははは、それじゃ。景君だったかな?これで失礼する。」
そう言ってフェンリルさんは引越しの住んでいた部屋に絶賛気絶中の妹を引っ張り込んでいった。
「景、帰ろうか?」
「・・・ああ。」
もう外で突っ立っていても意味がないからな。確かにアマの言う通りだ。
あ、俺たちの部屋はフェンリルさんの上なんだな。
アパート小宮荘はアパートの名が惜しいようなどちらかというとマンションのような造りの建物だ。
だから俺やアマが別の部屋になることができたんだし、このアパートの人気の元でもある。そんなアパートだから防音設備も確り備わっていて、柔な音じゃ隣の部屋に漏れたりしない。
しかし・・・
『兄さん!結局どんな関係なんですか!?』
ダダ漏れである。
恐らく唯、声が以上に大きいだけなんだろうと俺は思っておくことにしよう。
『だから、ヘル――『言い訳は聞きません!早く吐いてくださいよ!!』
言い争い。いや、痴話喧嘩といったほうがいいのだろうか。
「私は、どうにもできないよね。」
「俺も嫌だ。」
今、俺の前で苦笑いしながらそんなことを言ったアマが仲介に行ったら余計状況が酷くなりそうだし、俺がいったところで何も変わらないだろう。
「どうする?流石に五月蝿いと思うんだけど。」
「同感。だけど俺たちじゃどうにもできないんだよな。」
また苦笑い。相変わらず下からは痴話喧嘩が聞こえてくる。
『兄さん、ほかの女に手を出したらどうなるか分かってますね?』
『だから俺はそんなこと――『どうなるか分かってますね。』
『どうなるかって・・・・・あ・・・。わ、分かったよ。』
『なら良いんです。』
一体どうなるんだろう。話しぶりからしてかなり怖いもののようだけど。
「アマ、分かるか?」
「一回見たことあったかな。確かしつこく言い寄ってきた女の指を一本一本・・・いや。思い出したくないよぅ。」
どうやら指を一本ずつ・・・していったらしい。鎌は使わなかったのだろうか。
ふと、アマのほうを見ると「ボキ・・・ボキ・・・ボキ・・・」とうわ言のように呟いている。擬音語が恐ろしいのは・・・気のせいだよ、うん。平常心だ俺。
こういうのなんて言うんだったけな、前に勇がこんなことを熱く語っていた気がする・・・たしかヤンデレだったかな。そんなのの気がする。
「お〜い、アマ?」
「一本・・・二本・・・三本・・・」
はぁ、アマが壊れた。それも重症。
「お〜い、大丈夫か?
・・・アマ?お〜い。生きてるか?」
「・・・九本・・・十本。手が終わった・・・。」
「アマ、アマ、清浦天音?」
「三本・・・四本・・・」
「神様、天照大御神?」
「・・・七本・・・八本・・・九本・・・十本。足終わった。」
聞いているだけで恐ろしいうわ言をまだ呟いている。手に足って・・・考えるのはよそう。背筋が凍る。
そんなことより今はアマの意識を復活させねば。
「アマ、元気か?」
「次は右腕・・・」
「“加糖ミルクセーキEX+”欲しいか?」
「・・・左腕・・・。」
まだ何か恐ろしいことを言っている。流石にあの飲み物じゃ釣られなかったか。
それじゃあこれだな。
「アマ、クッキー食べさせるぞ。」
「!・・・右足・・・。」
微妙な反応を見せた。チャンスだ。
「今、姉さんが来て作ってくれたから食べなよ。」
これが決め手になった。
「駄目駄目!それだけはって・・・居ないじゃない。
て言うか今までの光景はどこへ?ヘルは?」
「はい。混乱しない。」
そう言って、パチンッと指を鳴らす。するとアマは一瞬吃驚したもののいつも通りの顔つきに戻った。
今、やったのは昔父親に習った技で、相手を冷静にさせる技らしいのだ。理屈は知らんが。
「まずアマ、お前は今どこにトリップしていた。」
「さあ、分かんないけどかなり怖かったな。」
まあこれはいいだろう。
「あと、安心しろ。ここには姉さんもいなければクッキーもないから。」
「よかった。」
後者は俺が好きだから置いてあって嘘だが。
「そういえばフェン達引っ越してきたんだよね。」
「ん、そうだが?」
嫌な予感しかしない。
「ちょっと挨拶してくる。」
「ちょっと、待て。」
しかしアマはもう既に行ってしまっていた。早い。
その後、下の階で第二次痴話喧嘩が勃発したのは言うまでもないだろう。
・・・事件にならなければいいが、痴情のもつれで人殺しちゃったりとかさ。
ヤンデレって怖いね。




