其の壱拾伍 上
「今日は最終日!
だからピクニックへ行こう!・・・蟹、美味しい。」
合宿最終日の朝食時、峯下先輩がやっと食べることのできた蟹を食べながら、そうのたまった。
「うん、蟹美味しい。」
先輩の言うとおり実際に蟹は美味しい。
カミツキ! その壱拾伍 上ツ巻 「帰宅部大合宿会 三日目 上」
「う〜、頭が痛いよ〜。」
ピクニックらしく・・・そうでもないかも知れんがいま旅館の辺りを走っている旧国鉄・・・正直言うとJRにのって何処かを目指している。
何処かというのは先ほど先輩が言った「今回の旅は『ぶらり途中下車の旅』だよ!」と言ったからである。
幸いこの辺りは数々の観光名所があるらしくどこで降りてもそれなりに楽しめるそうだ。ほら、例のテーマパークとか。
しかし、このたびを楽しんでいない人が一人いる。そう、ほかの誰でもない清浦天音だ。彼女は昨夜の夕食で蟹を食べられなかったせいでやけになって峯下先輩が始めた酒盛りの餌食となり、現在二日酔いに悩まされているのである。まあ酔い潰すために追加で酒を飲ませた俺らが言うのもなんだけど。
「はいはい、水あげるわ。」
そしてそのアマを介抱しているのは完璧に世話焼きキャラになっている凛。
その凛は昨日のことで責任を感じているのかいないのか知らないが先ほどから水を与えたりしていてさながら雛にえさをやる親鳥だ。
「よし、皆、次降りるよ!」
そんな時、峯下先輩がそんなことを叫んだ。
旧国鉄の車両の中には俺たち以外には客がいなかったので迷惑を掛けることもなく唯、先輩をまたか、というような目で見るだけだった。
『え〜、次は〜、黄泉山駅〜。黄泉山駅です。お降りの方は――』
なんとも物騒な名前だ。第一、何だその山は。黄泉の国と繋がってでもいるのだろうか。
お、駅に着いたみたいだ、早く降りなければ。
この駅を見て思ったことを口に出してしまった。
「廃れている・・・。」
本当に黄泉の国との出入り口があるのではないかと思ってしまうぐらいにボロボロで、もう駅舎の屋根は飛んでいってしまっていた。
周りの人も流石にやばいと思ったのかあの峯下先輩でさえも呆然としている。
しかし椎名先輩はそんなに硬直せずにすぐさま時刻表を見に行って・・・何か変な奇声を上げ、固まった。
「どうしました、椎名先輩?」
「ちょっと、これを見てくれ。」
「くぁwせdrftgyふじこlp」
いけない、いけない。あまりの驚きに先ほどの先輩の発した奇声が口から漏れてしまった。
「ちょっと、皆来てくれないか?」
そんな俺を尻目に椎名先輩はほかの人を呼んで例の時刻表を見せる。
『くぁwせdrftgyふじこlp』
綺麗にハモった。
その光景を見て椎名先輩は唖然。普通こんなことは起きないよな。
しかし今回は普通ではないのでこんなことが起こるのだ。
なぜなら時刻表には二つの電車がくることしか書かれていなかったから。
ひとつは先ほど乗ってきた電車。
もうひとつはあと五時間しなければ来ない電車。そのころにはお日様が下り始めているよ。
「よし、山に登ろうか!」
しかし峯下先輩はそんなことも気にせずに大声で宣言した。
山ってまさか・・・黄泉山か・・・?
「さあ、噂の黄泉山へと出発だよ!」
しかし先輩はそんな不吉な名前など気にせずにボロボロの駅舎を出て行ってしまった。
誰か、あの先輩に思慮深い性格をあげてください。
で、現在は黄泉山の麓の町。
ここが魔界村です、なんていってもそのまま納得してしまいそうな町だ。
殆どの家は漆喰でできていて、ところどころ剥がれているし、屋根瓦もいつ壊れるのか分からない代物だ。
「わ〜、凄い所だね〜。」
峯下先輩がこの惨状を見てつぶやく。
「じゃあ、早速山に登ろうか!
・・・と言いたいんだけど結構私も疲れてるし、皆も疲れているから、少し休憩しようか!」
「でも、峯下先輩。どこで休憩なんてするんですか?」
見たところどこにも休憩できそうなところがない。
いや、一軒だけ喫茶店があるな。『魔界喫茶 佐藤』と書かれている。
ああ、ここの住人も魔界みたいだって分かってるんだ。
「ふふふ、後輩クン、ここに!ここに喫茶店があるではないか!!」
な、なんだってー!!
本当にここで休憩を取るのか、なにか毒を盛られそうで怖いぞ。
周りを見渡すと皆が皆、またもや唖然としている。
「さあ、行くよ!」
しかし先輩は皆のことはお構い無しでずんずんと喫茶店に入っていく。
―――カラン・・・
喫茶店特有のドアを開けたときの鈴の音色。
「いらっしゃいませ。」
しかしその奥には、死神がいた。いや、死神の格好をしている女性がいた。
黒のローブを身に纏い、手には大きな鎌。まんま死神だ。
「五人座れる席はあるかな?ないかな?」
「ええ、ありますよ。
ご案内します。」
おおぅ、この死神の女性先輩の独特の波長にも負けずに冷静に仕事をしている。こんな人初めて見たぞ。
それにしても死神喫茶ってメイド喫茶と同じようなものなのかなぁ。ウェイトレスさんは死神の格好だし。
「こちらです。
どうぞごゆっくり。」
そう言うと彼女は店の奥へと帰っていった。
すごい子だったなぁ、あの峯下先輩をも相手にしないなんて。
「さて、少し休憩にするから自由に何でも頼んでいいよ!
これは経費で落ちるから安心だね!!」
帰宅部、何でこんなものが経費で落とせるんだ。
でもいいや、もらえるものは貰っておけというのが俺の中でも鉄則だからね。
「よし、皆。山に登るよ!準備はいいかな?かな?」
帰宅部名物、無気力な歓声。
「それじゃあ、レッツゴー!」
その掛け声を合図にして俺たちはいかにも禍々しい木々の殆どの葉が落ちてしまっている(多分この山は落葉樹が多いんだと思う)山道を上り始めた。
ちなみにアマはまだ呻きながら凛に介抱されながら上っている。
予定より一日早く復活です。




