其の壱拾四 上
「喉渇いた・・・。」
帰宅部大合宿会の二日目、昨日何も飲んでいないせいでとても喉が渇いていた。
当然ロビーの自動販売機まで急ぎ足で向かっていく。
そこには涙に明け暮れている峯下先輩がいた。
カミツキ! その壱拾四 上ツ巻 「帰宅部大合宿会 二日目 上」
話を聞くと、昨日の夜また女同士でビンゴゲームをやって、“蟹を食べてはいけない”になってしまったらしい。
何でまたやるんだよ・・・
「で、先輩は何でまたやったんですか?」
俺はお茶を片手に聞く。
「一個、蟹食べ放題って入れたんだよ。
それが欲しかっただけなのに・・・。」
「なら、そんなことしなきゃ良かったじゃないですか。」
そもそも、食べ放題なんてあったかな?
「・・・その手があったか!」
先輩が「エウレカ!」と叫んで、裸で飛び出さんとする勢いで立ち上がった。
・・・てか、気づいてなかったのか。
「じゃあ今から食べてくる!」
「・・・待ってください。」
「ふぇ、どうしたのかな?」
どうしたもこうしたもないでしょうに。
「先輩は蟹食べちゃいけないんですよ。」
「はぅっ、そうだった!」
そう言ってまたソファーへとダイブする先輩。
何か落ち込んでても愉快な人だな。
「それじゃ、俺はこの辺で帰りますね。」
「・・・・・」
返事がない。ただの屍のようだ。
部屋に帰ると昨日の夜、連れて帰った勇が死んでいた。
・・・という訳でもなく、普通に寝ていた。それと、椎名先輩は何処かに行っているようで居なかった。
何か寝顔がニヤニヤしていたので写メを撮ってメアド知っている人全員に送ってやった。
するとその皆から勇を罵倒する内容のメールが返ってきた。これぞ俺の友達。
そんなメールを楽しみながら見ていると何故か部屋にいなかった椎名先輩が帰ってきた。
「椎名先輩、おはようございます。」
「おはよう。」
「そういえば何処に行っていたんですか?」
「僕は朝風呂を浴びにね。
せっかく温泉に来たんだからはいんなきゃ損だしね。」
「それもそうですね。
俺も行ってきます。」
確かに行ってもいいだろう。
そう思い温泉へと向かう。と、
「う゛〜・・・・・」
なにやら唸っているアマがいた。
何か前にも見たことがある気がする、これがデジャヴ?
「どうしたアマ?」
「温泉に一時間・・・」
把握できた。
あれだな、昨日夜やったビンゴゲームだな。
「・・・しかも少し休憩したらまた一時間・・・・・。」
マジか。
「私はそろそろ入んなきゃいけないから・・・」
そういってアマはふらふらしながら温泉のほうへ入っていった。
大丈夫かな。
「あ、俺も温泉に行くか。」
すっかり忘れていた。
温泉がこの時間混浴だった〜、とかいう現象など起きるはずもなくそんなものおきたら旅館がおかしいだろ。と思いながら温泉へと浸かる。
椎名先輩の言ったとおり結構気持ちいいものだ。
「ぐへへへへへへ」
諸君、今の声は俺ではない。
声のした方向に居たのは大方の予想通り勇。彼は朝から女風呂に侵入しようと企んでいる。
しかし、
「テトロドトキシン!」
変な叫び声を上げ、海へと落ちていった。南無。
・・・何故落ちたんだ、今?
「あ〜、景居る〜?」
「アマか?」
「ちょっと力使っちゃった。」
「神通力的な?」
「そうだよ〜。」
それを勇に放ったと。
「よくやった。」
「ありがと〜。」
ちなみに蛇足だが結構大声である。
「で、アマちょっといいか?」
「・・・・・」
「あれ、アマ?」
「・・・・・」
・・・やばくないか?
急いで脱衣所に行き、携帯で凛に連絡を入れる。
そして、服を着て温泉の前で待っていると一分もたたずに凛が来た。
「アマの返事がないの?」
「まあ、急いだほうがいいと思う。」
「わかったわ。」
そう言うとさっさと温泉の中に入っていった。
しかし、しばらく待つと・・・
「景ー、ちょっと手伝ってー」
「無理。」
彼女が中から応援を要請してきた。無理だろ。
「じゃあ、誰か呼んでよ。あとたぶん峯下先輩は無理だからね。」
蛇足だがこれまた大声である。
「ん〜、分かった。」
さて、女将さんでも探してくるか。
女将さんは結構早く見つかってアマを助けてもらった。
やはり、アマは上せただけらしい。
今日も大変なことになる、そんな予感がした。
ちなみに峯下先輩はずっと落ち込んでいる。