其の壱拾参 上
「後輩クン!
明日は遂に、帰宅部大合宿会の日だね!」
昨日の朝、学校の校門の前で峯下先輩がそんなことを言ってきた。
「何ですかそれ?」
「今朝、私が決めたんだよっ!
明日の朝、7時30分に校門に集合だからねっ!」
そう言い残し・・・ふと隣を見ると目を輝かせながら『帰宅部大合宿会のしおり』と書かれた冊子を2つ持っているアマがいた・・・。
・・・用意周到だな。
明日は土曜日、ちなみに月曜は開校記念日かなんかで休みなので三連休である。
カミツキ! 其の拾参 上ツ巻 「帰宅部大合宿会 一日目 上」
「やあ、帰宅部諸君。朝から呼んですまないねぇ。
ところで、この人数の少なさは何かな?かな?」
現在人数・・・5人。
峯下先輩、知らない男性の先輩、凛、アマ、俺。の5人。
「まあいいか、じゃあ早速行こう!!」
いいのか。
でも、この適当なノリが帰宅部のノリなんだ。
ということでバスの中・・・何故こんなに大きいのだ。
普通マイクロバス程度だと思うのだが大型バスに乗っているんだ・・・もともとマイクロバスで十分だっただろ。
そんなことは皆気にしないのか各々好きなことをしている。
「やあやあ、後輩クン。暇してるかな?かな?」
「何でしょう、どう見ても読書中でしょう。」
普通バスの中で読書なんてしたら酔うのだが、昔ふと試しに本を読んでみたら酔わなくて、それ以来、平気な顔で車の中でも読書ができるようになった俺。
これはもう特技なのかな?
「まあまあ、いいから。
それじゃあこれ。」
そう言って先輩が渡してきたのはビンゴカード・・・今からやるのだろうか。
先輩は他の3人にもビンゴカードを渡し、バスの前のほうにあるマイクを手に取った。
「それじゃあ、ビンゴ大会を開始しまーす。」
毎度お馴染み無気力な歓声が上がる。
「早く抜けた人からこの箱の中身を引いてってね〜。」
そう言って先輩が出したのは『black box ver.1.51』と書かれた箱。
・・・バージョンアップしてるんだ。
「それじゃあはじめようか!」
「じゃーん、13番!」
よし、リーチだ。
「やった、ビンゴ。」
「おお、天音ちゃん。早く引いてね。」
アマが一番にビンゴ。引いたものは・・・
「紙?
・・・・・え〜と、温泉に1時間入り続ける?」
「そうなのです、今から温泉旅館に行くのでそこで1時間温泉に浸かってもらいます。」
「え?」
なんと、罰ゲームじゃないか。
「じゃあ次行くよ!
・・・それっ、50番!」
先輩はアマの「ええっ!?」という困惑の声を軽く無視して続けてしまう。
・・・えっと、50番は無いな。
「ふ〜ん、誰もいないのか・・・
じゃあ次は・・・8番!」
お・・・あった・・・でもビンゴじゃなく2つ目のリーチ。
「上がり。」
今度は凛が上がった。
「じゃあ、早く引いてね〜」
謎のアップデート済みの箱から凛が引いたのは・・・
「・・・旅館の息子をフルボッコする・・・?」
「その通り。旅館に息子さんがいなかったら甥とか姪とかでもいいよ〜。」
凛はそのまま固まっている・・・こんな凛はじめてみたぞ。
あれからずっとビンゴ大会は続き、残るは俺と峯下先輩だけになってしまった。
俺はリーチが4つと言う記録を打ち出している。
「それでは次は・・・・・じゃーん、55番!!」
「ビンゴです。」
やっとビンゴになった・・・長かったなぁ。
「う〜ん、それじゃあこれ引いてね。
余ったのは私のだがら。」
いつの間にかver.1.61にバージョンアップしていた箱から一枚紙を引く。
「・・・一日中水分補給禁止?」
「うん、鍋とかの汁はしょうがないけど意図して水分を摂っちゃ駄目だからね。
冬だから大丈夫だよね!
じゃあ私は・・・・・はうっ、蟹食べちゃ駄目!?」
蟹?
「今日の夕食の主役は蟹料理なのに・・・うぅ・・・。」
そういえば今日は海沿いの旅館に行くってしおりに書いてあったな。
確か旅館の名前は・・・温泉旅館安倍、だった気がする。
するとバスが止まった、どうやら旅館に着いたようだ。
皆、降りて(先輩はまだ何か言っていたが)旅館に行くと・・・
「あ、景じゃねえか。」
何故か勇がいた。
話を聞くと勇はここの旅館の女将の甥らしい。
なんか3連休だから小遣い稼ぎついでに手伝いに来ているらしい。
蛇足だが女将さんに子供が居なかった為、勇が凛にフルボッコにされた。だが勇だからどうでもいい。
・・・・・喉渇いたなぁ・・・。