其の七
「なあ凛。今日だったよな。」
俺は凛に聞いた。確か今日だった気がする。
「ええ、今日よ。」
正解、なんせこれを聞いたのは一ヶ月前なんだから自信が無かった。
カミツキ! 其の七 「帰宅部」
「場所はどこだったっけ?」
「いつもと同じ講堂よ。」
「ん、サンキュ。」
いつも思うが、あれだけのことをするのに講堂を使うのはおかしいよな。
「景、今日何かあるの?」
アマが近づいてきた。
「部活だよ。」
「え、部活って、景って入ってないんでしょ。だって帰宅部だって言ってたし。」
帰宅部・・・そう。帰宅“部”なんだ。
「うん、帰宅部・・・帰宅部という立派な部活だよ。」
「帰宅部って・・・」
しょうがない、実際にあるんだし俺と凛はそこの部活の部員なんだから。
「たしか部活にまだ入って無かったよな。」
「うん。」
「じゃあ見学するか?今日は活動するから。」
アマに聞いておいた。
「ん〜、分かった。今日言ってみよっと。」
どうやらアマは帰宅部を見学するようだ。
「え〜、今から今期第七回帰宅部会合を開始します。」
その声を聞いて「わ〜」やら「ひゅ〜ひゅ〜」やら「ぱちぱちぃ〜」というあからさまに無気力な声援が上がる。ちなみに俺は「ひゅ〜ひゅ〜」派である。
そして今宣言をした講堂の舞台の上に立っているのは峯下梨香先輩、この部活の二代目部長だ。
ちなみに初代部長は去年の生徒会長。
帰宅部の部員数は10人に満たない。確か7人ぐらいじゃないか?そしてこんな部活には部室が無いからこういうときは空いている部屋、つまり講堂を使っている。この学校の講堂は大きいものでゆうに1000人は入るほどだ、無駄遣いにもほどがある。
「まずは今日の議題に入る前に清浦君に質問です。その女の子は誰なのかな〜。かな〜?」
先輩はその頭のアホ毛をぴょんぴょんさせながら質問してくる。一説には気分が沈んでるときはそのアホ毛が垂れるらしい。
「見学者です。」
「おや、こんな時期に見学者とは珍しいね。彼女がウワサの転校生なのかな?」
確かにこんな時期の見学者は珍しい。この学校では部活には強制参加、なので学期途中での見学者は殆ど転校生ぐらいしか居ない。
「ええ、まだ入っていなかったようなので連れてきちゃいました。」
「偉い偉い。二階級特進だ。」
「俺は戦死していませんって。」
まったく・・・不吉なことを言う。
「じゃあ、ゆっくりしていってね!!」
「あ、はい。」
アマが・・・先輩のペースに飲み込まれている・・・
・・・別にあの先輩のペースに勝てる人は居ないんだけどね。
「じゃあ、本日の議題。十二月期の目標について話し合いたいと思います!」
また無気力な歓声が上がる。
「誰か案のある人〜」
すっと一人手を上げた。
「はいどうぞ〜」
「『安全第一、道交法厳守、でもなんだかんだで道交法って結構大雑把なんだよね、とにかく安全に気をつけ帰宅する!』でいいと思います。」
なげぇ・・・しかもすごくグダグダだ。
「でもそれって今月の同じじゃないかな、かな?」
でもそんなんが今月の目標だから困る。
「でも今年はというか設立以来ずっとこれですよ。」
その人が尤もなことを言う。今気づいたけどわがクラスの副委員長の石橋君だった。
「それもそうだよね・・・。よし石橋君の案を採用します!」
無気力な歓声。
「じゃ、今月の会合は終わりだよ。今度は12月の20日だからみんな忘れないでね〜。」
またも無気力な歓声。
「そうだ、その転校生クン!我らの部に入ってくれるのかな?」
「ひとついいですか?」
「おうともさ。何でも来い!」
そう言って部長はむんっと胸を張る。
「この部活どんな活動をしてるんですか?」
「さっきみたいな会合を月一回とあとは安全に帰ることができればよし。それだけっ!」
今度は腰に手を当てて胸を張った。なんなんだろうこのノリは。
「う〜ん、じゃあ入ります。」
「よしよし、入部手続きは私がしておくからもう今日は帰っていいよ。じゃーねー。」
気前がいい。ふと見るとアホ毛が垂直に立っていた。
なんかもう、自然の摂理とか物理学とかいろいろ無視している気がする。
「それではさようなら。」
「じゃあ後輩クン達。安全に帰りな。さらばだ!」
そういうと彼女はスタっと舞台から飛び降りどこかに行ってしまった。
降りるときにスカートが・・・いやなんでもない。
「景、帰ろうか。」
「そうするか。」
本日、帰宅部にアマが入りました。
いつかやろうと思っていた帰宅部です。