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後編

微エロ有です、苦手な方はBrowser Backでお願いします。

試験が終わってもセドリックがパトリシアと登校することはなかった。パトリシアから、これからも早めに学園に行くから迎えは不要だという連絡がきたのだ。しかし実際にはセドリックが馬車を降りてしばらくするとパトリシアの馬車が到着することがほとんどで、それほど早く来ている様子はなかった。

以前のセドリックなら勝手にパトリシアを迎えに行っていたかもしれないが、明確な拒否を示された今となってはそうすることはできない。そもそもパトリシアは伯爵令嬢で、子爵令息のセドリックが強引に事を進めて良いような相手ではないのだ。

コナー家の家紋のついた馬車の存在に気づいていながらも、セドリックひとりで校門をくぐるのが常となった。


そんな彼に安堵を伝えるのは同じクラスのデイジーだ。彼女はセドリックがパトリシアから送迎を強要されていたと思っているうちのひとりで、彼がその役目から解放されたことを喜んでいるのだ。

「従者のように扱われることがなくなってよかったじゃない」

デイジーの無神経な発言にセドリックは遠慮なく顔をしかめてみせた。

「俺とシアはそんな関係じゃなかった」

「なかったってことは今はそうだってことでしょ?」

「今は!」

声を荒げてみたところで、それ以上、言葉を続けることができなかった。

今の自分たちは想い合っているとは言えない状態だ。パトリシアの笑顔はレイモンドに向いてしまい、自分は明らかに避けられている。

従者ほどの接触すらないこの状態をどう説明しろというのか。

黙ってしまったセドリックにさすがのデイジーも言い募ることはできず、そっと離れていったのであった。


そんな状態になってからの、とある日の放課後、セドリックが帰宅しようと教室を出ると驚いたことにパトリシアが廊下で待っていた。

「今日、帰りに寄りたいところがあるの。もし時間があるなら付き合ってほしいんです」

「ごめん、今日はすぐに帰らないといけないんだ」

パトリシアの誘いにセドリックは断りを入れるが、これは仕方のないことなのだ。他国に出かけているブライス子爵からの書状が今日、届くことになっている。その内容を精査し対応をするのが留守を任されているセドリックの役目。この責務を放棄することは子爵令息には許されないことだ。

「そうなの、残念だわ」

パトリシアはそう言って明らかに気落ちした顔をしている。

彼女の誘いを断ったのは正当な理由があるのだから、後ろめたく思う必要はないのだが、パトリシアの残念そうな顔にセドリックは、明日なら行けると言おうとした。

しかしそれより早く、彼女は言ったのだ。

「殿下にお願いしてみるわ、急いでるのに呼び止めてすみません」

パトリシアはそう言ってセドリックにぺこりと頭を下げると廊下を歩いていってしまった。おそらくレイモンドの執務室に向かったのだろう。

王太子であるレイモンドの身分ではそう簡単に城下に降りるなどできないはずだ。でもパトリシアは殿下にお願いすると言っていた。つまり、彼女がお願い(・・・)すればレイモンドは、簡単ではない自身の街歩きも可能にするだけの労力を割くということだ。

ふたりのやり取りを聞いていた周囲はちらちらとナタリーの席に視線を走らせている。彼女は今日も欠席している。王太子妃となるナタリーには王宮での学習があるため、ときどき学園を休むのだ。

パトリシアとレイモンドが連れ立って出かけることをナタリーはどう考えるのだろうか。

皆、そう思い、不在のナタリーを思い浮かべ、その空席に視線を送ったのであった。


それから二日後にセドリックは登校した。書状にあった父からの指示に時間を取られ、なかなか学園に来られなかったのだ。

学園に通う生徒は全員貴族のため、学園での学びはもちろん大切であるが、それと同じくらい貴族としての執務も重要とされている。そのため、こうやって家の用事で休むことは珍しいことではない。だから、セドリックは特に気にすることもなく、いつもと同じように教室に向かった。

馬車を降りた瞬間から、不躾な視線が絡みつくとは思っていたが、彼が一歩教室に入ると、そこはシンと静まり返った。

一体何事かと訝し気に思っていると、ジェフリーが飛んできた。

「セドリック、ちょっと来いよ」

「あぁ」

セドリックは自分の席にカバンを置いて、ジェフリーと共に教室を出た。


人気(ひとけ)の少ない渡り廊下についたところでジェフリーはセドリックに向き合った。

「単刀直入に聞くけど、パトリシア嬢との婚約破棄って本当か?」

「はぁ?」

セドリックの間抜けな返事にジェフリーは驚きながらも笑った。

「だよなぁ、俺もなにかの間違いだと思ったんだよ」

しかし笑えないのはセドリックだ。

「どういうことか、詳しく聞かせてくれ」

彼の真剣な眼差しにジェフリーは躊躇しつつも、

「最近、ナタリー様がよく休んでいるのは知ってるよな?それが健康上の問題じゃないかって言われ始めてる、病弱な者に王太子妃は無理だろ?それで殿下の新たな婚約者として名前が出てるのが、その」

そこでジェフリーは言いよどんだが、それはセドリックがあとを継いだ。

「パトリシアってわけだな」

彼のため息と共に吐かれたそのセリフに、ジェフリーはバツが悪そうな顔をしながらも頷き、口を開いた。

「王太子殿下が、パトリシア嬢を口説いてるって噂は前からあったけど、少なくともお前が休んでいたこの二日間、パトリシア嬢は連日、殿下の執務室に呼ばれてる。執務室には側近もいるだろうからいかがわしいことはないし、呼び出しなんてあからさますぎるから、俺個人としては全く違う用事だとは思ってるけど」

「全く違う用事って?」

セドリックの問いにジェフリーは首を左右に振り、分かるわけないだろと言った。友人はセドリックを思って希望的観測を述べてくれたのだ。


予鈴が鳴り、ふたりは急いで教室に戻った。間もなくやってきた教師により授業が始まったが、セドリックは先ほどジェフリーから聞いた話で頭がいっぱいであった。

ナタリーは確かに欠席が多いし、なんなら今日も休んでいる。しかし、それは王妃教育があるからだと考えていたが、実際にはそうではなく本当に体調不良で休んでいたらしい。

レイモンドはすでに王太子としての公務を始めているし、パートナーを必要とする行事も数多く抱えている。ナタリーが本当に体調不良であれば、このまま王太子妃になるのは難しいだろう。仮にナタリーとの婚約を解消したら、レイモンドはすぐにでも新たな婚約者を据えなければならず、そこにパトリシアの名が挙がっているというのだ。

セドリック不在の二日間、レイモンドはパトリシアを連日呼び出していたとジェフリーは言っていた。ジェフリーの言うように、レイモンドが執務室でいかがわしいことをするなどとは思わないが、そうでないとも言い切れない。

昼休み、パトリシアに直接聞いてみるしかない。

セドリックはそう結論付けて、その時を待つことにした。


セドリックはどうやってパトリシアを誘おうか考えていたが、それは杞憂に終わった。というのも、

「今日、お弁当持ってきたの、一緒に食べませんか?」

パトリシアのほうからセドリックの教室に来てランチに誘ってきたのだ。

二人分が入っているのであろう大きな籠を下げたパトリシアは、セドリックの席の前に立ってそう言った。

「いいよ、行こう」

ふたりの動向をチラチラと横目で見てくるクラスメイトに嫌気がさして、セドリックはパトリシアの手をとって小走りに教室を出た。


誰もいない空き教室を見つけてふたりでそこに入る。入ってしまってから、婚約中とはいえ学内で男女が密室に二人きりでいるのはよくないと思いうろたえた。

しかし、当のパトリシアはさっさと籠の中身を広げると、

「わぁ、とってもおいしそうよ。セディも早く座って」

と彼に笑顔を向けている。

セドリックは口を開きかけたが、気を取り直し、黙って彼女の隣に座った。

「うちのシェフに作ってもらったの、お弁当なら静かなところで食べられるし」

パトリシアはサンドイッチを手にとってそう言うが、つまり、彼女にとって学生の集まる食堂は静かな環境ではないと言っている。

「最近、殿下からの呼び出しが続いてるって聞いたけど」

セドリックの問いにパトリシアは慌てて顔をあげた。

「あれはそういうのじゃなくて!」

パトリシアはそこで言葉を切り、視線をさまよわせ、あの、とか、つまり、とか言っている。

「俺には言えないこと?」

セドリックがそういうと、パトリシアはすまなそうな顔をして頷いた。

「ごめんなさい、殿下に口外を禁止されてるの」

パトリシアはそう言った後、早口で続けた。

「でも本当にみんなが噂してるようなことじゃありません。わたしもナタリー様も、気が早すぎますって何度も言ってるんだけど聞き入れて下さらなくて」

つまりパトリシアは、互いの婚約が片付いていないうちから言い寄るのは反則だと言いたいのだろう。

「俺は別にかまわないよ。シアの好きにしたらしい、俺は反対しない」

そう言ったセドリックにパトリシアは驚いた顔をする。

「本当にいいの?」

「良いも悪いもないよ。殿下が望まれてるんだ、そうするしかない」

するとパトリシアは途端に笑顔になった。

「よかったぁ。セディは反対するだろうと思ってたから、どうやって説き伏せようか考えていたのよ」

まだまだ先の話だからどうなるかはわかりませんけどね、とパトリシアは笑っているが、レイモンドの婚姻は彼とその婚約者の卒業を待っているほど急いでいる状態だ。もう卒業試験も終わり、あとは式を待つばかり。となれば、婚約者のすげ替えはすぐにでも行われるだろう。

発表は卒業パーティだろうかとセドリックはパトリシアと同じくサンドイッチを手に取り、鬱々と考えていた。





卒業パーティ、セドリックはパトリシアと共に参加をする。今のところ、ふたりの婚約は継続しているのだから、パトリシアのエスコートはセドリックの役目だ。

「お待たせ」

パトリシアは深いグリーンを基調としたドレスとアクセサリーを身に着けており、落ち着いた雰囲気の彼女によく似合っていた。

もちろんこれを彼女に贈ったのは婚約者であるセドリックである。

自分の色を使ったドレスを贈る男性もいるが、自分たちの婚約は間もなく白紙になるのだ。元婚約者の色のドレスが手元に残ってもパトリシアが困るだろうと思い、普通に彼女に似合う色のドレスを仕立てた。

ドレスに合わせて作ったアクセサリーに、自分の色の小さな宝石を使わせたのはせめてもの抵抗だ。パトリシアが王太子妃になったら、セドリックの贈った品物など二束三文の扱いとなり、彼女が身に着けることはないだろうが、それでも良い思い出として彼女の手元には残して欲しかった。

セドリックの気持ちを知っているのかいないのか、パトリシアは少し頬を赤らめてセドリックの前に立ち、

「どうですか?」

と可愛らしく首をかしげている。

「よく似合ってるよ」

そう言ってパトリシアの指先に、最後になるであろう口づけを落としたセドリックであった。


パトリシアのデビュタントで彼女のエスコートをしたのはセドリックだ。あれから何年か経ったが、何度来ても煌びやか過ぎる王宮の大広間は慣れない。

しかも今日は格別に居心地が悪い。それもそのはず、レイモンドは今夜もひとりで参加しているのだ。彼の婚約者であるナタリーは控室に籠っているらしい。許されるなら自分もそうしたかった。

セドリックは今夜、この華やかな祝いの場で婚約破棄を宣言されるのだ。


概ねの生徒が入場したところで、ついにそれは始まった。

「皆、聞いてくれ。我々の卒業という喜ばしい日に、良いニュースを付け加えたい」

レイモンドは王族らしく威厳のある声をあげた。集まった一同は姿勢を正し、あれだけ騒がしかった会場はシンと静まり返る。

「パトリシア嬢、こちらへ」

レイモンドの呼びかけに、パトリシアは前に進み出て、彼の隣に並び立つ。

ついにこの時がきた、とセドリックは覚悟を決め、男としての矜持を総動員し、その場にしっかりと立った。


「わたしの婚約者、いや先程、我が妃となったナタリー・ボールドが懐妊した。無事、子が産まれた暁には、その教育係(ナニー)にパトリシア嬢を任命する」


レイモンドの言葉に、集まった学生たちは一様に疑問符を浮かべていた。が、彼の側近候補である宰相令息が、おめでとうございますと言い拍手をしたことで慌ててそれに追随した。

しかし、内心では誰もが思ったことだろう。


婚約破棄じゃないのかよ、と。


しかも、婚前交渉の上に妊娠など、非常に外聞がよろしくはない。よろしくはないが、跡継ぎを儲けることが最も重要な責務、且つ重圧であることが嫌というほどわかっている彼らにとっては、難なく授かったレイモンドとナタリーが大変にうらやましい。

よって、何とも言えない生暖かい空気の中で、その茶番劇は幕を閉じたのであった。




なんのことはない、ナタリーの体調不良は悪阻(おそ)であった。子ができたと喜んだレイモンドは、いち早く、才女と名高いパトリシアに教育係(ナニー)として仕えるよう口説いていたのだ。

当たり前のことではあるが、やることをやらなければ子は成せない。ナタリーの懐妊はレイモンドとナタリーのあれやこれやの結果であり、めでたいことではあるものの、ふたりの婚姻が済むまでは伏せておくべき極秘情報であった。

婚約者であるセドリックに隠し事をしたくなかったパトリシアではあったが、レイモンドはずっと前から、卒業式と同日に婚姻契約を交わすと公言していた為、卒業までのわずかな間だけならと口外しないことを約束した。

しかし、それでもセドリックから甘く問い詰められたら隠し通せる自信など、彼女にはない。その為、パトリシアは彼から必死に逃げ回っていたのだ。



レイモンドのある意味驚きに満ちた発表の後、セドリックとパトリシアはいつかのバルコニーでふたりの時間を過ごしていた。

「まさか、ナタリー様がご懐妊とは思わなかった」

セドリックの言葉にパトリシアは苦笑した。

「わたしもよ、殿下に打ち明けられたときはどう返事をするのが正解なのか、すごく困ったわ」

「なんて言ったの?」

「おめでとうございますって」

「シアほどの才女でも、普通のことしか言えなかったんだな」

「他になにを言ったらいいのよ、わたしには無理だわ」

男女の営みがなければ子は成せない。パトリシアが少し顔を赤らめているのはそういうことだろう。才女などと誉めそやされている彼女ではあるが、セドリックの前ではこんな風に少女のような愛らしい顔をみせる。

「シアはかわいいなぁ」

自分たちだって似たようなことはもうしている。それなのにこうやって初心な反応を見せるパトリシアにセドリックは改めて愛おしさを再認識したと同時に、心から愛するこの女性が誰にも奪われなかったことに安堵した。


セドリックはパトリシアをそっと抱き寄せる。

「放課後、シアが俺に出かけようって言った日を覚えてる?」

「覚えてるけど、それがなに?」

彼の問いにパトリシアは少し不機嫌そうに言った。その理由に思い当たらないセドリックではあったが、疑問に思っていたことを聞いてみた。

「殿下に頼むって言ってたけど、あのあと一緒に出掛けたのか?」

「どうしてわたしが殿下と出かけなきゃならないんですか?とある論文が書店に入ってないか確認したかったんだけど、セディに振られたから、腹いせに殿下の伝手で入手して頂いたわ」

パトリシアの言い分にセドリックは吹き出すように笑った。

「王太子殿下をなんだと思ってるんだよ」

「彼の口止めせいでわたしはセディから捨てられそうになったのよ、迷惑料に論文だなんて格安だわ」

「捨てられるって、それはこっちのセリフだよ。とうとう子爵令息が伯爵令嬢に愛想をつかされたって噂になってたんだからな」

「誰?そんなひどいことを言う人は?抗議しましょう!」

いつかのセドリックのようにパトリシアは彼への暴言に本気で怒っており、彼の心の中は温かくなった。愛する人が自分のために怒りを見せてくれるなど、これほど嬉しいことはない。

「もう終わったことだ、君はこれからも俺の婚約者、いや、もうすぐ奥さんかな?」

そう言ってパトリシアの顔を覗き込めば、彼女はわかりやすく頬を染めた。

「わたし、あなたの奥さんになるのね」

「そう、俺だけのシアになるんだ」

赤らんだ頬にそっと手を添え口づけをかわす。パトリシアのそれは何度味わっても甘く、セドリックがその甘さを堪能しているとバルコニーに別のカップルがやってきた。

「おっと、これは失礼」

それはレイモンドとナタリーのふたりで、彼はセドリックとパトリシアの睦み合いに苦笑いをしている。これからというところを邪魔されたセドリックではあったが、パトリシアが恥ずかしがって自分の胸に顔をうずめてくれるきっかけをつくったことは感謝してもいい。

そこでふとパトリシアの迷惑料という言葉を思い出した。自分たちは彼の暴走で迷惑をかけられたのだ、少しくらいは許されるだろう。

「お見苦しいところを見せましたか?ですが、俺は彼女を奪われた男だと揶揄されていたのですから、そうでないことを証明しませんと」

セドリックの言葉にレイモンドは素直に謝罪した。

「それについては申し訳ないことをした。まさか、わたしとナタリーの不仲を勘繰られるなど思っていなかったのだ」

ここでパトリシアとの噂ではなく、ナタリーと自身の仲を語るところに彼の溺愛っぷりが窺い知れるというものだ。

「わたしの愛はナタリーの懐妊が証明しているとは思わないか?」

ニヤリと笑ったレイモンドにセドリックも笑った。

「そうですね、おうらやましいことです。我々はこれから努力をしなくては」

そう言ってパトリシアに視線を送れば、努力の意味に思い当たった彼女はまたも羞恥から顔をうずめた。

「とはいえ、シアには学問を続けてほしいと俺は願っております。できますれば殿下のお口添えを頂きたく」

才あるレイモンドはセドリックの言わんとすることをすぐに読み取り、少しの思考の後で言った。

「なるほど、賠償としては少々高すぎる気もするがいいだろう」

彼は邪魔をしたなと言って立ち去った。

「ねぇ、なんの話?」

パトリシアはセドリックに尋ねるも彼はなんでもないと首を振り、先ほどの続きと言わんばかりに、再び、彼女に深い口づけをした。

「セディ、これ以上はダメ」

夢うつつで囁くパトリシアの吐息がセドリックの思考を焦がしていく。彼女の艶やかな一面を知るのは自分だけだという仄暗い悦びがセドリックの中にわきあがり、その思いのまま彼女をそっと横抱きにした。

「シア、帰ろう」

帰宅先はもちろんセドリックの屋敷、彼の私室。

セドリックとパトリシアは今日、卒業したのだ。学生だから子供ということはないし、卒業したから大人ということもない。でも少なくともこんな風に濃厚な色香を漂わせる行為をしても許される年齢になったのだ。

その夜、ふたりが大人の『あれやこれや』をしたことは言うまでもない。






後日、コナー伯爵家に正式な辞令が下された。


『コナー伯爵令嬢パトリシアに上級学院への入学を命ずる』


セドリックの言っていた口添えというのはつまり王太子としての命令だ。王族の下知ならば立派な公務、そして公務には公費が付く。

セドリックは渋っていたパトリシアを命令という形で後押しし、彼女が気にしていた学費は公費で解決したのだ。

「迷惑料にしてはやりすぎです」

パトリシアの反論にもセドリックはしれっとしている。

「論文ひとつじゃ割に合わないって君も言ってたじゃないか」

「そうね、言ったわ。言ったけども」

まだ言い足りないのであろう彼女の口をセドリックは己のそれで塞いでしまう。

「シア、これは商談だ。それがうまくいったのだからブライス家の若奥様ならきっと歓迎するよ?」

突然の口づけとその囁きにパトリシアは驚きと羞恥で赤面しながらも、

「ありがとう、セディ。大好きよ」

と、パトリシアのほうから口づけをしたのであった。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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