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8 神を喰らい、そして……

 私は神の存在の核を見出だすべく、蜥蜴の神に対し剣を突き立てた。

 当然、手応えは皆無である。まるで立体映像を相手にしているようだが、今はそれは問題ではない。

 何度も切ったり突き刺したりする()()をしながら、神の命の核を探っていく。


「本当に人間ってのは、無駄が好きだよね」


 目論見通り、奴はこちらの狙いに気付く様子もなく、微動だにしない。私がただの人間であり、神を切ろうと無駄な足掻きをしていると勘違いしている間に、全てを終わらせる必要がある。


「確かに、無駄かも知れない。だが、どうせ何もしなければここで終わりだ。それに、ここには他にやる事が無い」


「へぇ、本当にギースの心臓を使うつもりは無いんだ」


「私の信条は、結果にかかわらず、その時後悔しない選択をする事だ。私は自分が恥じない人生を送るために、今を妥協したりはしない」


 今自分の口から出た言葉に、正直自身が一番驚いた。自分はこんな強い言葉をあっさり言える人間だっただろうか?

 その言葉が私自身のものなのか、それともモルガンのものなのか、もう分からなくなっていた。


「う~ん、僕には分からないや」


「だろうな。何せ私自身でさえ……これは?」


 無駄話をしながら何度も素振りをしている間に、何となくだが、立体映像だった存在に剣が届くような感覚がし始めていた。

 それはただの錯覚かも知れない。しかし、私の直感がこれこそ求めていた感覚だと告げていた。


「あれ? 君、今何をしたの?」


 奴のその一言が、予感を確信に変えた。その違和感こそが、私の剣が神の根源に触れた何よりの証となるからだ。


「捕らえた」


「え?」


 コツを掴んだ後は容易だった。私は自分の感覚を信じ、剣を通じて繋がったそれを、全力で吸収した。

 蜥蜴の神はあっけなく消え、周囲の景色も元に戻っていた。


「こいつぁ驚いた……」


 さっきまで不貞腐れていたのが嘘だったかのように、ギースがその巨体を起こしてこちらを見ていた。


「本当に死んじまったぞ、アイツ」


「そうか……」


 今の私には、それ以上の言葉が出なかった。一連の現象すべてが曖昧すぎて、実感が湧かないのが主な理由だ。


「お前のやった事は確かにすげぇけどよ。でも何でだ? 周りの壁を壊しに行くでもなく、何故直接神を殺す事に固執したんだ?」


「あっ」


 言われて始めて、その方法もあると気付いた。何故かは分からないが、私の中では神を直接討つ以外の手段が思いつかなかったのだ。

 自分でも不思議なくらい、柔軟な思考には程遠い強い思い込み。これは気を付けておいた方が良い悪癖と言えよう。

 ただ、結果だけを見ればこれが最善だった。ただ障害を排除しただけではなく、最終目的を果たす方法まで見つけられたのだから。


「まあ良いか。それより、これでシーラの所まで行けるな。さっき言った通り、城まで連れて行ってやるぜ」


「ありがとう」


「よし、それじゃ俺の背中に乗れ」


 あ、物理なのか。

 何となく転移魔法的なものを勝手に想像していた。やはり私は思い込みが少々強いようだ。



「俺の体じゃこれ以上入れねぇから、ここまでな。それじゃ、しっかりやれよ!」


 あっという間に城の中庭らしき所まで飛んで来て、ギースはさっさと帰って行った。確かに人間用に作られた建物に、竜の巨体は無理があるか。

 中庭は不気味なほど静かで、時間的には昼のはずなのに、時間の感覚が狂いそうな程暗い。

 周囲を警戒してみたが、本当に何もいないらしいので、私は早速入れそうな入り口を見つけて、城の中に侵入した。

 城に入ると、侵入者対策なのか、やけに複雑な作りになっている。しかし、衛兵等の動くものの姿は見当たらない。城の内側だからなのか、そもそもセキュリティが端から機能していないのか。

 道中に敵と遭遇する事は無いような気がしたが、これも危険な思い込みと己を律し、私は慎重にシーラの探索を開始した。

 かつては多くの人が生活していたであろう痕跡がいろいろと見うけられる。石造りの厨房の棚の中には、腐敗を通り越して干からびた、何だったかも不明な元食材が載っている。寝室らしきベッドが並んだ部屋には、人間のものらしき白骨が散乱している。いずれも、ここから人間がいなくなってかなりの時間が経った事を物語っていた。白骨が急に動き出さないかと思ったが、そんな事は無かった。

 様々な部屋を通り過ぎ、ようやく見つけた上り階段を登りきった先に、大広間のような空間があった。

 かつてはふんだんに施されていたであろう豪奢な装飾も、今や見る影もない。広間の奥には、玉座らしき椅子が見える。


「そうか。ギースの来訪は貴様を導く為か」


 そこに座っていたのは、彫りの深い顔に全身を覆う真っ黒な鎧、闇そのもののような黒い剣を携えた男だった。

 こいつがシーラ。国王の姿を奪った、討伐対象の竜。


「随分ずさんだな。警備が皆無とは」


「ここしばらくは、我に歯向かう者が現れなかった故」


 私は奴の動きに注意しながら、ゆっくりと近付いていく。


「貴様は我に何とする? 我に人間の正義を語りつつ、ギースの刃を振るうか?」


「正義など端から語るつもりは無い。私は私の欲望のために、お前を殺し、その心臓をいただく」


 相対距離にして五メートル程まで近付き、剣を構えた。

 シーラはまだ動く気配を見せない。


「そもそも、正義なんてものは己の外に放った時点で悪と変わらない。ましてや暴力になど、いかなる正義も宿りやしない」


「ほう、人間がその真理に至るか。良かろう」


 おもむろにシーラが立ち上がり、黒い剣を握り直した。が、まだ戦闘態勢と言う感じではない。


「まずは貴様に、我が前に立つ資格があるか試す。その剣で我に一太刀浴びせてみよ」


 強者の余裕か、初撃をくれるらしい。

 これは好都合。

 何せ私の能力は初見殺し特化の一発ネタだ。決まれば勝ちだが、見破られれば勝機が一気に遠のく。

 私はその言葉に甘え、そのままシーラに斬り掛かった。

 剣が奴に触れた瞬間、多少の違和感はあったものの、無事吸収する事ができた。シーラの身体は跡形も無く消え、黒い剣と鎧だけが転がり落ちた。

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