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3 追われる者

 次に目を覚ました時、私は暗くて複雑な地形の場所にいた。

 おそらくこの暗さは夜だからだろう。全く周囲が見えない程ではないが、やはり動きづらい。

 私は何とか手探りで周囲を探索していき、どうやらここは森のような場所だろうと推測した。複雑な地形だと思っていたものは、巨大な樹木の根元だった。自身が小さくなっているので、余計に大きく感じる。


「さて、これからどうするか……」


 今後の事をいろいろ考えていると、とある方向から不穏な音が聞こえてきた。獣か何かの群れが、こちらに向かって一斉に走って来る音だ。

 今後どころか、今すぐの決断をせねばならなくなった。逃げるか、隠れるか。それとも……


「おや?」


 不意に背後で声がした。

 しまった! 群れの足音に気を取られ、先行する個体の存在を察知できなかった。

 驚いて振り向くと、そこには一人の、人間と思われる少女がいた。

 全身にボロ布を纏い、これも布に包まれた細長い物を両手で抱えている。


「妖精か……これは僥倖だ」


 見た目の印象の割には固い言葉遣いで、少女は私を見て言った。

 今さらだが、言葉の問題はどうなっているのだろうか? 多分、考えても無駄なのだろうが。


「突然で申し訳ないが、私に力を貸してはくれまいか? 今私は、賊に追われているのだ」


 これは困った。

 自分の問題すらも解決の糸口が見えない現状で、人助けをしている余裕などもちろん無い。


「他を当たってくれ。今の私には、お前に貸せる力を持っていない」


 なので、正直に言ってはみたのだが……


「そんな事は無い。妖精であるならば、これを覚醒させるだけの魔力を持っている筈だ」


 思ったより会話ができない相手だった。ちなみにこれとは、彼女が手に持っている長物の事らしい。


「! 時間が無い。とにかく、これに触れてみて欲しい」


 さっきからこちらに向かって来る群れが、彼女の追っ手なのだろう。ならば確かに、もう時間が無い。

 私に何をさせたいのかは分からないが、とりあえず言われた通りそれに触れてみた。

 するとまず、体内の何かが急速に吸い取られる感じがした。さっきの少女の口ぶりからすると、これが魔力なのだろう。

 次に、布の中でそれがほのかに光り始めた。


「思った通りだ。これならいける!」


 そう言って彼女がそれを包む布を外すと、表れたのは淡く青白い光を放つ直剣だった。彼女自身の身長とそう変わらない長さのある、いかにもなロングソードだ。

 少女は光る剣を構え、こちらに向かって来る群れに向き直った。


「さあ、来るが良い!」


 やがてその姿が確認できる距離まで奴等がやって来た。

 はっきり言って、地球上の生物とは似ても似つかない異形の群れだった。これがこの世界の標準的生物かどうかは定かでは無い。

 いくら剣があると言えど多勢に無勢、さてどうするのか。


「これが、王家の剣の力だ!」


 様子を見ていると、少女はその場で剣を振りかぶり、まだ届かない所で振り下ろした。

 そこで起こったのは、まさに言葉を失う光景だった。

 剣閃が光の刃となり、一直線に異形の群れに突っ込むと、そこでいきなり爆発を起こしたのだ。

 夜でも眩しくない不思議な光が荒れ狂い、それが止むと、そこに奴等の姿は無かった。しかも逆に、周囲の木々に損傷は全く見られない。

 まるでゲームのワンシーンのような場面を間近で見せつけられ、改めてここが異世界である事を思い知らされた。


「……ふぅ。これでひとまずは安泰か」


 少女は緊張の糸が切れたのか、全身の力が抜け、表情が幾分緩んだ。

 剣もさっきまでの光を失い、普通の直剣になっていた。それでも充分にファンタジーな代物だが。


「助力に感謝する。報酬を提供したいのだが、生憎今は持ち合わせが無い。何ならこの剣を……」


「いらん。この体では、そんな物大き過ぎて振り回せん」


「確かに。ふむ……では、ひとまず私に付いて来てもらえぬか? やらねばならぬ事を終えたら、改めて報酬を用意させてもらおう」


「……分かった」


 明確な行くあてがある訳でもなく、貴重な情報源となり得る人物とこのまま別れるのももったいない。

 そう判断した私は、この少女に付いて行く事にした。


「良かった。短い間だが、よろしく頼む」


 状況に流される形になったが、単独で行動するリスクを考えると、むしろ丁度良かったのかも知れない。


「そう言えば、自己紹介がまだだったな。私の名はモルガン。事情により放浪の身だ」


「私は……済まないが、今の私に名乗れる名は無い。さっき生まれたばかりの妖精だ」


 もう人間ではない私が、かつての名を名乗るのは違和感があった。なので、彼女には申し訳ないが名無しで通させてもらう事にした。


 小さな体で歩いても遅いので、同行中、モルガンの肩に乗せてもらう事になった。


「この地域に、二匹の竜がいると聞いたのだが、お前は何か知っているか?」


 どこかに向かう道中、手持ち無沙汰だったので、今一番知っておきたい竜に関する事を聞いてみた。


「片方については、詳しくはないが知っている。人づてで聞いた事がある」

 

 そう言ってモルガンは、道中を歩きながら語り始めた。


「ある日、この国の国王がなぜか単身でどこかに遠征に赴き、帰って来た国王は、完全な別人になっていた」


「そいつが竜だと?」


「ああ。自らそう名乗ったらしい」


「自ら名乗った?」


 自ら竜と名乗る位なら、なぜ人間の王などに姿を変えたのだろうか。


「奴が何をしたいのかは私にも分からない。だが奴は、現に人々を虐殺し、さっきのような怪物を放って広範囲で人間狩りをしている」


 どうやらその竜が、あの神が言っていた討伐目標と考えて間違いないだろう。


「ふむ。で、そいつは今どこに?」


「今でも、城にいるだろうな」


 そしてその討伐目標は城にいるのか。まさにゲームのラスボスだな。


「そうか。では、もう一匹については何か知っているか?」


「そちらは、はっきり言って知らない。あそこに見える山の頂上に住んでいる、と言う噂を耳にした程度だ」


 そう言って彼女が指差した方向に、確かに険しい山が見える。


「着いたぞ。ここだ」


 辿り着いたのは、森の中にぽつんと建つ、ほぼ廃屋状態の建物だった。生活感が全く感じられないあたり、元々物置小屋か何かだったのだろう。


「帰ったぞ、アーサー」


 そう言ってモルガンは、小屋の中に入っていった。

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