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2 現世と異界の狭間で

 目を覚ますと、そこは謎の空間だった。

 あえて言うならプラネタリウムが近いか。真っ暗な中で、星のような瞬く光が全方位に見える。


「お目覚めかのぅ」


 声が聞こえた方を振り向くと、さっき自分を殺したあの老人がそこにいた。


「お前! さっきはよくも……ん?」


 しかしよく見ると、はっきり何がとは言えないが、微妙に違う。それより何より。


「大きいな……」


 目測で五メートルはあろうか。少なくとも、私を殺したのはこんな巨人ではない。


「ワシはお主をここに送ったのとは別個体じゃよ。元は同じであったとしてもな」


 話によると、元々こいつらはこれから私が送られる向こうの世界の神なのだそうだ。

 他所の世界から被害者(救世主候補)を引きずり込むにあたり、現地への適応をスムーズにするために、自身を分割して役割を分担したのがこいつらしい。


「そうそう。ここでは分からぬじゃろうが、ワシが大きいのではなく、お主が小さくなっておる。人以外の種に転生するのは珍しくもないが、よもや妖精とはのぅ」


 いきなりトンデモ発言をしてきた。

 しかし、ここには鏡はおろか大きさを比較できる物さえ無いので、今は捨て置く事にする。

 ちなみに、今の私の背中に羽など無い。


「ところで、ここはどこだ? お前達の世界か?」


「いや。ここは世界の狭間、ワシが用意した空間じゃよ。ここでお主にはその身での生き方を知ってもらい、その後にあちらに赴いてもらう」


 それから私は、さっき出た妖精と言う種族についていろいろ教えられた。


「妖精種の特性として、内包する魔力は総じて高い。だからと言って魔法が使えるかどうかは本人の才覚次第じゃがな」


 などの授業が続く中、以外かつ印象的だったのは、その食事方法だ。


「妖精は食物を摂取しない。生命体から直接、生命力そのものを吸収して自らの糧とするのじゃ」


「どうやって?」


「方法は個体差が大きく、本来なら生まれながら本能的にできるものなのじゃが……」


 そりゃそうだろうな。


「そうじゃな。実際にやってみるが良い」


 私の目の前に、一匹の鼠が現れた。

 大きさは私の膝ほどあり、意外と存在感が凄い。調整されているためか、生きてはいるようだが動く様子は無い。

 最初こそ勝手が分からなかったが、いろいろ試していくうちにコツを掴み、最終的に手で触れた対象の生命力を吸収できるようになった。それにしても……


「生命力を奪われた生き物ってのは、骨すら残らないものなのか? それとも、お前が用意したものだからか?」


「いや、それはお主の食い方の問題じゃな。生命力を奪われただけの生き物は、むしろ傷一つ無く、原型をとどめておるものじゃ」


 まさに骨まで残さずしゃぶり尽くす癖、と言う事か。吸い方を調整できた方が良いのは当然だが、こればかりは仕方が無い。


「まあ良かろう。生き方の基本は身に付いたようじゃし、そろそろあちらに送るとしようか」


「いや待て」


 まだだ。まだ大事な事を聞いていない。


「あちらの世界で何が起こっているのかをまだ聞いていない。生態系がどうとか言っていた気がするが」


「そうじゃな。簡単に言えば、一匹の竜が異常行動を起こし、人間()()を虐殺し続けておる」


 竜と言うのは、私が認識する空想上の生物で合っているのだろうか?

 まあ妖精が実在するのならば、竜くらいはいてもおかしくは無いか。


「ではその竜が、そのまま人間を虐殺し続けるとどうなる?」


「世界から特定の種族のみが不自然な形で絶滅した場合、未来が、神ですら想定し得ないものとなる。最悪の場合、世界そのものが破綻しかねん」


 神と言っても、全能の創造者ではないらしい。


「つまりはお前達が人攫いを続ける理由は、その竜を倒させるためか?」


「然り。出来る事なら、かの竜を滅し、人類の絶滅を食い止めて欲しい」


 こうやって聞いていると、何だかファンタジーRPGの導入みたいだな。

 実際に自分がここに立たされるのはたまったものでは無いが。


「逆に、竜を殺す事で発生する不具合は無いのか?」


「無くはないが、そちらは想定の範囲内じゃ。どうとでもなる」


「事情は分かった。では次の質問だ」


 そこから私は、思い付く限りの知っておくべき情報を聞き出そうとした。

 しかし、収穫はほぼ無し。どうやらこいつ自身は、現地で具体的に何が起こっているのかを全く知らないらしい。

 ただ二つだけ、有益な情報を入手できた。


「あやつの他にもう一匹、近くに生息する竜がおる。その竜はあやつの兄弟にあたり、人間に対しても好意的と聞く。もしかしたら、力を貸してくれるやも知れぬな」


 一つめがこれ。確かに、相手と同じ竜の力を借りられれば、心強い助けとなるだろう。

 そしてもう一つが……


「全ての生物の頂点に君臨する竜の心臓には、手にした者の願いを叶える程の力が蓄えられておる」


 途中でふと思い出した、素晴らしい第二の人生とやらの根拠を尋ねた時に言われたのが、これである。七つ集めるとかよりはまだマシだが、よもや心臓を(えぐ)り取るとは。

 しかしこれで、嫌でもやる理由はできた。

 竜の心臓を手に入れれば、元の世界に戻る事ができる。そうすれば……


「で、そろそろ覚悟はできたかのぅ?」


「ああ。ここでやる事はもう無い」


「よかろう。では、達者でな」


 急速に意識が薄れていく。

 こうなってしまったのはもう仕方が無い。精々やる事をやりきり、新たな目的を果たすとしよう。

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