其の四十六 やる気のないコンビニ
炎天下を帽子なしに歩くのは、危険だ。
俺の家に帽子を持参していなかった花には、俺のキャップを被せてやった。麦わら帽子の方が涼しそうだと思ったが、あれは両親の部屋のクローゼットにある。今朝は寝坊を決め込んでいる母さんを起こすのは忍びなかったので、ここは勘弁してもらおう。それに、ちょっとぶかぶかなのがあざとく可愛い。
俺も同じ様にキャップを被ると、腰にパーカーを結びつけ、ちょっとダサいが首にタオルを掛けた。
「花もやっとけ」
「うん」
コンビニと呼んでは烏滸がましい規模の、個人商店がポツポツと点在する一角にあるコンビニに立ち寄る。町中にあるコンビニとは違い、朝は比較的早い時間から開店しているが、夕方は六時には閉店してしまうという恐ろしくやる気のない店だ。
フランチャイズの為せる技らしいが、それでも弁当やおにぎり等、コンビニブランドの商品の入荷だけはしっかりとある様で、独り身の年寄りにとってはなかなかにありがたい存在だ、とは母さんのコメントだった。
中に入ると、やる気のないコンビニオーナーの息子が、無精ひげを生やしたままレジの前に座っている。まあ、ずっと立ってろとは言わない。だが、いらっしゃいませ位は言ったっていいんじゃないか。
彼は、勉強が苦手で高校を中退、親のすねを齧りに齧った三十路のゲーマーだ。引きこもりよりは若干外出頻度が高い程度で、しかも来る客は皆見知った人間で自分の評判の悪さも知っているとなれば、挨拶するだけ徒労だと思ってしまう気持ちは理解出来なくはないが。
なまじ親が土地を持っているとああなっちゃうのかしら、なんて母さんが言っていたが、土地を持っていない人間のひがみにしか聞こえないなと思ったことは、一生秘密のまま留めておきたい話だ。
凍っているペットボトルの水を二本に、普通に冷えたお茶を二本選んだ。花は相当腹が減っていたのか、おにぎりを三つ手に取り悩んでいた。そんな花の横に行って手元を覗き込んでみると、唐揚げおにぎりだの煮玉子だのチャーハンだの、いわゆるイロモノばかりだ。――健康志向の花は、一体どこへ行ってしまったのか。
「花? お前そういうの苦手じゃなかったっけ?」
「いや、すごいのあるなって思って」
「ふうん?」
花は、普段はあまりコンビニに行かないのかもしれない。基本主婦なので、スーパーがメインなのだろう。となれば、コンビニ特有の珍しい具は花の目には新鮮に映るのかもしれない。
無難にカツサンドと鮭おにぎりを選んだ俺は、かごに入れると花の手の中にあったおにぎりを全部かごに放り込んだ。
「え、全部食べられるかな」
「まあ、食べきれなかったら俺が食べるから買っちゃえば?」
「やった。やっぱり優しいから好き」
外でのまさかの好き発言に、自然と俺の頬が緩む。昨夜からやけに大胆になった理由が聞きたかったが、聞いた途端恥ずかしがって元に戻るのも残念だ。従って、当面花の心境の変化には触れない様にしよう、と心に決めた。
「当然だろ、彼女が食べたいおにぎり位さ」
例の如く、勿論自分で稼いだ金ではないが、俺は偉そうに言う。すると、花が俺の腕にぎゅっとしがみついた。とてもいい弾力に、俺の鼻の下は伸びそうになる。
レジに肘をついてスマホを弄っていたオーナーの息子が、苛立たしげに舌打ちをした。さすがにそれはどうかと思ったが、恋人なんぞに縁のなさそうな男だ。アオハル真っ最中のカップルを見るのは、なかなかに辛いのかもしれなかった。
「花、出口で待ってて」
「えー?」
「レジ済ませてくるから。な」
「うーん、分かった」
腕から弾力が消えたところで、レジへとひとり向かう。
極力他の男の視線に晒したくないと思うのは、狭量だろうか。
「お願いします」
「……毎度」
男の視線が入り口の花に注がれそうになったので、身体をすっと間に入れた俺だった。




