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神隠しの子  作者: ミドリ
12/64

其の十二 かくれんぼ再開

挿絵(By みてみん)


一部改稿を行ないました。ストーリーに変更はございません。(2021/11/12)

 本の世界とは素晴らしいもので、もしかして幽霊なんじゃないかと少しだけびびってしまっていたのに、気が付けば俺は恐竜の世界にどっぷりと入り込んでいた。この博士が滅茶苦茶で、振り回される主人公をいつも哀れに思う。


 読み終わる頃には、そもそも幽霊だとしても自分の兄じゃないか、むしろ会いたいし、などと思い始めていた。


 そうだ、これは太一がまるでかくれんぼをしているかの様にちゃんと姿を見せてくれないから、それで少々気味が悪いだけだ。子供の頃は、正直うざいくらい俺に纏わりついていたのに。


 そこまで考え、自分が選んだ言葉が実の兄に対するものにしてはあまりにも辛辣なことに気付き、愕然とした。うざい、纏わりつくなんて、俺の人間性はどこにいってしまったのか。


 本をパタンと閉じ、視線を上げる。すると、いつの間にか向かい側に花が座っていた。


「え? いつから⁉」

「しーっ」


 花が、微笑みながら人差し指を唇に当てた。そんな仕草すら、可愛い。昨日までゴボウなんて言ってたのは、あれは俺の中の太一役が考えた言葉だ。決して俺じゃない。


 急ぎ立ち上がると、花に目配せをし本棚の方に向かった。本を元の場所に戻している間に、花も鞄を持って立ち上がってこちらに回ってくるのが見えた。なんだかいいな、こういうの、と少し高揚した気分を味わう。


 花が笑顔を浮かべつつ、本棚の間に入ってきた。


 花の手首を、本棚の影から掴もうとする日に焼けた手が、見えた。


「花!」


 俺は大きく一歩を踏み出すと、大慌てで花の手首を掴み身体を引き寄せる。


「うひゃっ⁉」


 花を腕に庇ったまま、バッと本棚の間から顔を出した。


 見返すのは、何事かとこちらを見る数名の生徒。皆座っていたり、机を挟んで反対側に佇んでいたりする。


 どいつも、そこまで日に焼けていない。あの手が消えていった方には、太陽の光を目一杯受けて反射する大きな窓硝子があるだけだった。


 心臓が、ドクドクいっている。図書室の中は涼しいのに、つう、と背中を汗が伝った。


 すると、花が俺の腕をぺしぺし叩いた。なんだよ、今はちょっと待ってくれと思いつつ腕の中を見ると、花の顔は俺の襟元のボタンに押し付けられており、痛そうだ。


「ちょっとちょっと、宗ちゃん?」

「ご、ごめん」


 慌てて花を解放した。力加減を忘れていた。それ位、焦ったのだ。


 花は、笑ったらいいのか怒ったらいいのか分からない様な表情をしていた。そりゃそうだ。まばらとはいえ他に生徒がいる図書室で抱き締めるなんて、まあ普通はしない。


「……宗ちゃん?」


 花が、心配そうに俺の顔を見上げてきた。


「お化けでも見た様な顔をしてるよ? 大丈夫?」


 どうしようか。花に何と言えばいい? 太一だと思われる、幽霊かもしれない手がお前の手を掴もうとしてたと素直に伝えるか?


 勿論、そんなことは言える訳がない。怖がりで泣き虫の花を怖がらせるだけだ。それに。


 それに、太一は花に好意的ではなかった。太一は俺のことは大好きだったから、俺の手首を掴んだとしても悪意はなさそうだが、花に触れる意味を考えると、あまりいい種類のものではなさそうだ。


 俺は、無理に笑顔を作った。成功しているだろうか? している筈だ。俺は、ずっと太一の仮面を被り続けてきた名優なんだから。


「……Gがいた」

「……名前を呼んではいけないアイツですか」


 花の真剣な表情に、同じく真剣な表情で頷いてみせた。そう、あれは茶色かった。だから手じゃない、Gだ。


 花は、気味悪そうに両腕を擦る。


「図書室にもいるもんなんだね……」

「基本奴らは何でも食うからな。人間の髪の毛一本で一ヶ月生きるとか聞いたこともある」

「ひいいっ」


 花が頬を可愛らしい小さな手の平で覆った。この手を、あの手が掴もうとしたのだ。


 花に笑顔を向け、花の片手を握る。


「え? 学校ですよここ」

「昼飯、どこにする?」

「無視ですかーおーい」


 花は呆れた様に笑うと、俺にも笑顔が戻った。ようやく現実に戻ってきた、そんな感覚だった。


 だが、いくら花が引っ張ろうと、俺は離さなかった。俺と花がこうして繋がっていれば、万が一あの手が花を掴んでも、俺も一緒に捕まることになると思ったからだ。何故そんな発想になったかは分からない。だが、もしあの手が俺の幻じゃなくて幽霊だったら、そしてその幽霊がもし太一だったら。


 俺達が最後にした遊びは、かくれんぼだ。


 太一は、もしかしたらかくれんぼの続きを始めたんじゃないか。何故かそう思えた。あの時のことは思い出せないから、最後に太一がいなくなってしまった時に誰が鬼だったのかは不明だ。花だったら覚えているだろうか。


 横で手を引っ張るのを諦めた花をちらりと見る。花は照れくさそうに、こちらを一瞬だけ見てまた目を伏せてしまった。可愛いな。


 でも、太一はかくれんぼをしていていなくなった。ということは、太一は隠れていた側だったんじゃないか? それで見つからなくなったと考えないと、辻褄が合わない。でも、あの手の行動は鬼側の行動だ。


 やっぱりあれは太一の幽霊なんかじゃなくて、太一を忘れていたことに罪悪感を覚えて自分に見せてる幻なのだろうか。


「……宗ちゃん? どうしたの」


 しまった、また無言で考え込んでしまっていたらしい。昨日の今日だ、花にはこれ以上心配をかけたくなかった。


「ううん、ちょっとまだドキドキしてただけだから」

「宗ちゃんも苦手だったんだね、あの名前を呼んじゃいけないアイツのこと」

「好きな奴っているのか?」

「まあそうだよね」


 軽口を叩きながら、俺達は校舎の玄関へと向かった。


 そして、考えていた。なんとかあの手の持ち主を確認することは出来ないのか、と。

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