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どうせ空は青いのだから

作者: 川咲 みゆ

嬉しいことがあった。


体中に喜びが溢れてきた。

胸を膨らませて、外に出た。


空が青かった。


梢にとまった小鳥が、優しく鳴いて私にしゃべりかけてきた。

太陽の柔らかい光が、私の心を包み込んだ。

公園で遊ぶ子供たちの明るい声が、心にすっと溶けていった。


町の風景が、私を祝福してくれた。





楽しいことがあった。


胸いっぱいの幸せが私を満たした。

心を弾ませて、外に出た。


その日も、空が青かった。


電線に並んだ小鳥たちが、素敵な唄を歌っていた。

街路樹の葉っぱが、風に揺られて賑やかな音を立てていた。

ブランコで遊ぶ子供たちの、元気な声が聞こえてきた。


私の心と一緒に、町も明るくなっていた。





悔しいことがあった。


心の中が暗闇に包まれた。

やるせなくなって、外に出た。


やっぱり、空は青かった。


こんな時くらい、青くなくてもいいのに。


小鳥たちが、空に向かって軽やかに飛び立った。

私の心はずっしりと重いのに。

公園のベンチで、猫が気持ちよさそうに眠っていた。

私の沈んだ心なんて知らずに。

滑り台で遊ぶ子供たちが、無邪気に笑っていた。

私の淀んだ心を浮き立たせるように。


こんな時くらい、町の風景も変わればいいのに。

私がどんなに悔しくても、町はいつものままだった。





悲しいことがあった。


涙が溢れて止まらなかった。

逃げるように、外に出た。


雨が降っていた。


私の心を映すように、暗い雲が空を覆っていた。

涙の跡をかき消すように、雨粒が頬を濡らした。


町の風景は、いつもと違っていた。

町はようやく、私の心に共感してくれた。


傘に当たる雨音を聞きながら歩いた。

気が付くと、雨音が止んでいた。

厚い雲の切れ間から、いつもの空が見えた。


なんだ、やっぱり空は青かった。


どこかで雨宿りしていた小鳥たちが、一斉に飛び立った。

紫陽花の上の雨粒が、太陽の光を反射して輝いた。

青空を待ちわびた子供たちが、公園に集まってきた。


私の悲しみを置いてけぼりにして、町にはいつもと同じ時間が流れ始めた。

私がどんなに悲しくても、町はいつものままだった。





辛いことがあった。


不安に押しつぶされそうになった。

たくさんの後悔が私を襲ってきた。


でも、もういいんだ。

きっと大丈夫なんだ。



どうせ空は青いのだから。





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